Yahoo!ニュース

「キムチ女」に「通り魔」、美談さえも女性嫌悪(ミソジニー)になってしまう韓国の深刻度

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
(写真:アフロ)

韓国で一つの美談が“女性嫌悪”という批判にさらされている。

事の発端は、秋夕(チュソク)の連休期間に行われた高速バスの運転手による“善行”だった。とある高速バスの運転手が、祖母が危篤という理由から休暇をもらったもののバスのチケットを確保できなかった陸軍兵士を、無料でバスに乗せたのだ。

秋夕期間は帰省ラッシュのため、乗車券が売り切れていたのであろう。運転手は兵士を乗車させるにあたって、乗客の同意までもらったという。同運転手がこの事実を「自分にできることはこれだけだった」とネット上にあげると、韓国のネット民たちは賞賛を送っていた。

ところが一部のネットユーザーから、なぜか「女性嫌悪だ」という言いがかりが出たのだ。

韓国では昨今、ネット上で「キムチ女」を筆頭に女性を卑下するスラングが次々と作られており、女性嫌悪が常態化していることは以前に本欄でも指摘したが、今回の件に関してはかなり常軌を逸する。

「女性嫌悪だ。女だったら乗せなかったはずだ。なぜお金を受け取らずに乗せたのだ」。そのような書き込みが上がってネットが大炎上し、バス運転手は謝罪する羽目になった。彼の善行がいつのまにか批判の対象になってしまったのだった。

なんとも理解に苦しむ“いいがかり”だが、これも韓国でネットを中心に女性嫌悪がイシューとなってしまっているからではないだろうか。

しかも、その傾向はネットだけでなく、現実世界で無差別な殺人事件にまで発展しているのだから看過できない。5月に江南で起きた通り魔事件は、その最たる例だろう。

また、一般人だけでなく、“知識人”と呼ぶべき文壇界においても、露骨な女性差別が行われているというのだから事態は深刻だ。

(参考記事:「コップをズボンの前に持っていき…」若手詩人が暴露した韓国文学界の“女性嫌悪”

なぜ、韓国では今、“女性嫌悪”が露骨なのだろうか。その原因はさまざまに考えられている。

よく言われるのは、女性の社会進出が目立つことに対する嫉妬だ。しかし、韓国社会では、女性の平均賃金が男性の63%ほどしかない。日本も男女の賃金格差が指摘されて久しいが、韓国のこの数字はOECD加盟国のなかで最下位の水準にある。つまり、女性たちの地位が極端に向上しているわけではないのだ。

それどころか、韓国では美女コンテストが数多く存在している。“ミス・コリア”が特に有名だが、そのほかにも国際的な美人コンテストの韓国選抜大会も行われているし、地域ごとにミス・コンテストが行われている。

(参考記事:豪華写真20連発!! 第60回ミス・コリア選抜大会の麗しき受賞者たち

とある論文によると、その数は韓国各地で年間200以上になるらしい。そういったミスコン好きの文化に対しては、「女性を商品化している」という指摘が絶えない一方で、女性嫌悪の感情も渦巻いてるのが今の韓国なのだ。

強調したいのは、韓国における“女性嫌悪”がすでに韓国人だけの問題ではないということだ。

訪韓する外国人が増えている近年、韓国では外国人観光客、とりわけ女性観光客のトラブルが増えているという。オーストラリアでは、「女性観光客にとって危ない国」ランキングのトップに韓国の名が挙がるようになってしまった。

(参考記事:外国人女性の被害続々…“女性観光客にとって危ない国”に落ちた韓国

社会全体に対する不満が根本的な原因なのだろうか。いずれにせよ、韓国が一日も早く現状から脱却する必要があるのは間違いないだろう。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

慎武宏の最近の記事