「北京五輪当時、私も不調のなか選ばれた…」結果論で批判される野球代表選考 東京五輪メンバーを分析
東京五輪の野球日本代表の内定24選手が発表された。投手11人、野手13人。結果がすべてと言われる勝負の世界は、ときに結果論で批判を浴びるという理不尽な世界でもある。「なぜ、この選手を選ばなかったのか」「なぜ、あの選手を入れたのか」。結果論で〝外野〟は好き勝手に論評する。2008年以来の五輪で、金メダルを期待する声は大きく、期待の裏返しでもあるのだが。24人という限られた人数で投手も野手も含め、チームとしての構成も考えなければいけない。「選ばれた選手はもちろん大変な戦いが待っているが、選んだ首脳陣も大変だっただろう」というのが率直な感想だ。
投手陣は実績組と今季の勢いを買っての若手起用で、バランスよく配置された印象を持つ。
稲葉篤紀監督が会見で「投手陣を引っ張ってほしい」と名前を挙げた楽天の田中将大投手、巨人の菅野智之投手は今季、本来の調子とはいえない。それでも、これからの1カ月強でコンディションは変わる。スタミナ消耗が激しい夏場の試合。五輪という国際舞台の重圧・・・。国際大会で場数を踏んでいる経験は大きいはずだ。
中継ぎでは唯一の新人選手となった広島の栗林良吏投手、西武で開幕からの連続無失点試合記録を更新した平良海馬投手は2019年秋に優勝したプレミア12にはいなかった〝新戦力〟だ。11人の投手で細かな継投がやりにくい中、同じく代表初選出となった阪神の岩崎優投手は、稲葉監督も「打者の左右に関係なく1イニングを任せられる」と期待する貴重な左腕だ。DeNAの山﨑康晃投手らリリーフの専門職に加え、投手陣の軸にもなりうるオリックスの山本由伸投手の起用は重要になってくるだろう。先発で投げて、勝ち上がった後はリリーフに回すのかなど、ベンチワークにも注目したい。
2013年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では調子の上がらない先発投手の配置転換が「中継ぎ降格」と報じられたことに強い違和感を覚えたが、いまはそんな時代ではない。先発は先発、リリーフに回る先発も役割が明確に期待されている。先発、リリーフ、抑えのスペシャリストが自らの「職域」でパフォーマンスを発揮する。そんなイメージができる代表選考だった。
野手はプレミア12のメンバーを中心に、外野を担う1~4番までどこでも任せられるソフトバンクの柳田悠岐選手が加わり、吉田正尚(オリックス)、鈴木誠也(広島)、浅村栄斗(楽天)の3選手で中軸も固まる。浅村選手は一塁で起用し、山田哲人(ヤクルト)、源田壮亮(西武)、菊池涼介(広島)、坂本勇人(巨人)の各選手でセンターラインの守備も固い。捕手を2人にできたのは、いざというときに守れる共に外野手で選出されたソフトバンクの栗原陵矢選手、日本ハムの近藤健介選手の存在が大きい。
初めてオールプロで派遣されたアテネ五輪は各チームから2人ずつという「制限付き」の派遣だった。あれから14年。私自身、北京五輪のときはシーズンで絶不調だったこともあり、当時の星野仙一監督に「選ばないでほしい」と自ら断りの電話を事前に入れた。星野さんは「おれが責任を取る」と代表に選んでくれた。「やるしかない」と気持ちを奮い立たせて日本を発ったことを覚えている。
野球界のすそ野は減少傾向にある。かつてのような空き地が都会を中心に減り、公園でのキャッチボールも禁止される時代。東京五輪で野球に興味を持ってくれたからといって、すぐに野球人口の拡大にはつながらない環境なのも事実だ。五輪の舞台は次回大会ではまた実施競技から外れる。野球界はまさに逆風の中にある。コロナ禍という状況での開催が許せば、金メダルを獲得してほしい。