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「韓国とビキニ」騒動はなぜ起きる? 今夏にはDJ SODA、渓谷で着用、街中爆走の事件…

ハヌル氏公式インスタグラムより 現在は閉鎖中

「着るのは自由、見るのも自由、ただし触るのは犯罪」

8月13日に起きたDJ SODAさんが大阪のイベントで体を触られた事件。これを報じる韓国メディア「YTN」のコメント欄に韓国語で寄せられたコメントのうち、最もリアクションが多かったものだ。

この夏、韓国ではSODAさんの件以外にもビキニに関する出来事がいくつかあった。

8月17日、リゾート地である渓谷でのビキニ着用に関するネット上の騒動。有力掲示板に写真がアップされ「家族連れがいるのに不適切」という反対意見や「他にリゾート地があるのか?」という擁護の意見も出た。

11日から14日にかけては、YouTuberのハヌル氏がソウル市街地をビキニ姿でバイクやキックボードに乗って走行する出来事があった。本人は警察から任意同行を求められている。本人はSNSで「触るのだけはよして」「一日2時間だけの日常離脱」と強気の発言を行った。

「渓谷ビキニ」の韓国人コメントにも出てきた「キーワード」

ふと疑問が頭に浮かぶ。

なぜ韓国では「果敢に女性がビキニを着るのか」。

何も着ることが悪いことではない。ただひとつ、思い浮かぶキーワードがある。

上記の「渓谷ビキニ」に関する「毎日経済」の記事コメント(韓国人による)で、最も反応が多いものは擁護派のこういった意見だった。

「うーん…(反対派の)儒教の思想はひどい。問題ないよ! 海外にも行ってみて、多様性も認めてほしい。韓国の人たちは狭量でイライラする」

確かにこの問題、日本から見ていても「儒教」の文脈で考えてしまう。なんで儒教の国のはずなのに「ビキニ事件が?」

韓国にも、中国に由来する「男女七歳不同席」(男女7歳にして席を同じくせず)という言葉がある。元々は普(265年~420年の現在の中国にあった王朝)の時代に男女関係の揉め事から長期の国の争いに転じていった経験から「厳密に区別しよう」という考えだ。

朝鮮でも1590年代前半の文禄・慶長の役の時代までは、街中に女性の肖像画が多く飾られていたというが、その後多くが撤去されるといった影響があったという。ちなみに現在でも日本の大学入学共通テストといえる「スヌン」は男女別の部屋で受験が実施される。

それほどに男女関係の厳格な規制があるなかで、なぜビキニ関連の出来事が多発するのか、という。

女性のファッションがどんどん変化しているのか。

はたまた、異を唱える側の考えが古いのか。

日々、韓国のニュースをチェックしているが「保守的な思想が時代の進行とともに深まる」という復古主義の情報は目にしない。いっぽう「女性のファッションがどんどん新しくなっている」というニュースは大いに目にする。ビキニに関して言うと「韓国経済」は2005年の時点で「女性用水着の売上のうち60%を占める」と報じていた。

過激な露出を好むか、嫌うか

ずばり、韓国の若者の間では「儒教思想っぽい(ちょっと古い)」というライフスタイルをイジる言葉が定着している。

「儒教ガール」

「儒教ボーイ」

サブカルチャー系に詳しいオンライン辞典「ナムウィキ」にも定義が記されている。そこに「過度な露出」という言葉が出てくる。

この流行語は、過度な露出や不道徳な私生活に対する嫌悪感を持つ、伝統的な思考方法を有する女性を指す。実際に儒教的な考え方を支持しているわけではなく、(最近の)韓国人の(ファッションなどの)基準が「あまりにも過激だ」と感じた時に、(反語的に)「実は私も儒教的な(?)女性だった」と言う場合に主に使用される表現。

最近では、男性も女性も肉体的な露出に対する嫌悪感がほとんどなく、開放的な人々が多い。特に10代から20代の若者にはその傾向がある。「儒教ガール」「儒教ボーイ」とはこのような過度な露出や不道徳な私生活などに嫌悪感を持ち、保守的な考え方を持つ男性を指す。ただし、男性は女性より一般的に性的に少しオープンな傾向があるため、(保守的な考え方を面白おかしく指摘する際に使われる)「儒教ボーイ」という言葉がより頻繁に使用される。

ネット上では「あなたの儒教ガール、儒教ボーイ度」を調べるゲームまで出てきている。

儒教イジリの曲…「これからは率直にあなたの魅力を見せて」

始まりは2017年5月からだ。かつてtvNで放映され、現在は人気アプリ「Coupang Play」に引き継がれているお笑い番組「SNL」で、「儒教ガール」というパロディ曲が放映された。

元歌は2008年にリリースされた「U-Go-Girl」。「ユーゴー」と「儒教(ユギョ)」が引っ掛けられている。

現在でもカリスマと称されるイ・ヒョリがソロデビューの最初の楽曲として大ヒットした曲だ。好きな男性の前で恥ずかしげに振る舞う女性が、曲が進むにつれどんどん果敢になっていく。

そして「Girl, これからは率直に Girl, これからは堂々と」という風にリスナーに訴える。当時も衣装の露出に関する議論があったというが、ヒョリのカリスマ性によりこれを抑えた、という評もある。この楽曲は2022年12月に人気グループITZYのユナがカバーし(もちろんパロディなし)、動画再生回数450万回という大きな反響を得た。それほどに支持される楽曲、ということだ。

これを2017年のパロディ版ではお笑いタレントらがこう作り替えた。

今日もどの服を選ぶべきか

どうやって私の理想の男性を描くべきか

梅の花はどうか 蘭はどうか 悩まないで

(※家におしとやかに飾る花について悩まないで)

Girl! Hey  儒教の女 三綱五倫※ 夫婦有信  that girl

(※「三綱」父子、夫婦、君臣の関係で、「五倫」は長幼、朋友)

Girl hey キリスト教の女 主の祈り 使徒信条 baby Girl

これからは率直に これからは堂々と

あなたの魅力を見せて

ちょうどこの瞬間 今この瞬間

right now

もう、かつての考え方がお笑いになってしまうのだ。今日もどの服を選ぶか~のくだりは「男性主体の恋愛観」そして「おしとやかな自分の部屋」を描く。その後、「夫婦有信」といった儒教の伝統的観念をお笑いにしてしまうのだ。そして「堂々とあなたの魅力を見せて」という歌詞は過去も現在も変わらない。

分裂社会のひとつの象徴

毎年10月刊行され、翌年の韓国社会を占う「トレンドコリア」は2022年版で今年を「平均喪失」がより進む年になるとしている。

「従来、家や、地域、学校や職場などの基準に沿っていた韓国人たちが、より『自分は自分』という考え方をするようになる」

まるで儒教の考えに背くかのように、どんどん考えが変わっていく韓国の若い世代。そこに驚く周囲、という構図が見える。

あるいは近年の韓国社会で問題点の一つとなっている「分裂」の一端か。従来は「

東西(全羅道と慶尚道の対立関係)」や「左右(「保守」と「進歩」の対立)」が有名だったが、そこに世代間、はたまた男女間の考え方の違いが生まれている。そういった時代の流れの中にある今夏のビキニ騒動だ。

【関連記事】韓国で「真夏のビキニ論争」 "ソウルのど真ん中"に"渓谷"…そこで着るのはアリ?

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。フォローお願いします。https://follow.yahoo.co.jp/themes/08ed3ae29cae0d085319/

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