“ラブシュプ”上陸 ロバート・グラスパー、ドリカム×上原ひろみらが極上の音楽を響かせた、熱狂の2日間
イギリス発『LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL」ついに日本上陸
2013年にイギリスでスタートしたヨーロッパ最大規模の野外ジャズフェスティバル『LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL」が、5月14日、15日の2日間日本で初開催された。本来は2020年に第1回目を開催予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止、2021年も同様の理由で中止になり今年、まさに“満を持して“上陸”した。会場は埼玉県・秩父の自然豊かなテーマパーク「秩父ミューズパーク」。2日間で10,000人が来場し、緑に包まれながら、“至上の愛と至福の音楽体験”を楽しんだ。
新世代ジャズフェスティバルと謳ったこのフェスは、ジャズ、ソウル、ファンクを横断する上質で洗練された音楽を楽しむことができるのが特徴で、今の音楽シーンを牽引するアーティスト、未来のシーンを担う新鋭アーティスト、今聴きたい、観るべきアーティストが「THEATRE STAGE」「GREEN STAGE」「DJ TENT」でパフォーマンスを繰り広げた。
kiki vivi lily
5月14日(土)、このフェスの開幕を告げたのは、青空が広がる「GREEN STAGE」での地元・秩父農工科学高校吹奏楽部の演奏だった。その音色は、地元・秩父で世界的な音楽フェスが開催される歓び、そしてこれからライヴを繰り広げる全てのアーティストへのエールにも聴こえた。「THEATRE STAGE」でイベントアンバサダーのモデル・堀田茜が、このフェスの魅力を紹介した後、いよいよトップバッター、シンガー・ソングライターkiki vivi lilyが登場。「80dinier」「Blue in Green」などを披露し、そのスウィートかつクールな声と、MELRAW(Sax、G)率いる若手実力派ミュージシャンによるアコースティックジャズセッションで楽しませてくれた。
SIRUP
SIRUPは「自由に踊って」と語り、「CHANGE」「LOOP」など色気が薫り立ってくるようなソウルフルな歌とサウンドで、リスナーの腰を揺らす。
Ovall
Ovallはまず極上のバンドアンサブルで、その唯一無二の世界に客席を引き込む。そしてさかいゆうと「サマーアゲイン」~マイケル・ジャクソン「Rock With You」をセッションし、佐藤竹善と「Rise」をジャジーなアレンジでコラボ。Shingo Suzuki(B)は「エネルギーを吸い取られました」とそのパフォーマンスに脱帽。
さらに「Find you in the dark feat. Nenashi」ではNenashiがサプライズで登場。そしてこの日がライヴ初披露となった「It's all about you feat. SIRUP」を、SIRUPと共に披露した。ローファイハウスのスタイリッシュなトラックと熱いメロディが融合し、たまらないグルーヴが生まれる。「こんなにゲストとパフォーマンスできるフェスはない」とShingo Suzukiが興奮気味に語り、次々と生まれるグルーヴィーな音楽に客席も高揚していた。
チョーキューメイ
一方「GREEN STAGE」では、まず2020年結成の注目の4ピースバンド・チョーキューメイが、その圧倒的な演奏力の高さとボーカル・麗の突き抜けた存在感を放つボーカルで「3月の花嫁」などを披露。
aTak
トランぺッター・黒田卓也率いるバンドaTakは、馬場智章(Sax)など凄腕ミュージシャン15人がステージに登場。1stシングル「ZASU」などを披露し、緑の木々に囲まれたステージに圧巻のホーンが響き渡り、集まったリスナーは思い思いに体を揺らしていた。
セルジオ・メンデス
御年81歳のセルジオ・メンデスが登場すると、雲が消え太陽を連れてきてくれ、青空が広がる。サンバ、ボサノバのラテンのリズムが最高に心地いい。「SABOR DO RIO」ではSKY-HIとコラボ。高速ラップが炸裂し客席が沸く。ラストは「MAS QUE NADA」で大団円。
「THEATRE STAGE」と「GREEN STAGE」への移動は数分で、ストレスなく全てのアーティストのステージを見ることができた。「THEATRE STAGE」入口横に設けられた「DJ TENT」も見逃せない顔ぶれが揃った。14日沖野修也(KYOTO JAZZ MASSIVE/KYOTO JAZZ SEXTET))/松浦俊夫/YonYon/Licaxxx、15日DJ Mitsu the Beats/DJ To-i (from DISH//)/柳樂光隆(Jazz The New Chapter)/三原勇希がプレイし、集まったお客さんを喜ばせた。
DREAMS COME TRUE featuring 上原ひろみ、クリス・コールマン、古川昌義、馬場智章
この日のヘッドライナーはDREAMS COME TRUE featuring 上原ひろみ、クリス・コールマン、古川昌義、馬場智章。この天才たちのセッションはとんでもない熱量を生み出していた。大きな拍手に迎えられメンバーが登場。今回は、吉田美和のソロアルバム『beauty and harmony』『beauty and harmony 2』からの選曲が中心でその選曲の幅広さにファンからは一曲ごとに“静かなどよめき”が起こっていた。
ドリカムと上原の共演は約13年ぶりで、吉田、中村、そして上原はもちろん、メンバー全員がとにかく楽しそうだ。中村正人は「俺以外は神」と話すが、クリス・コールマンとの最強リズム隊が繰り出す厚く太いビートに乗り、演奏も歌も自由に泳ぎ、深くクールなグルーヴを作りだしていた。それぞれのパートのソロもたっぷりと見せてくれ、名手と名手のセッションは鳥肌モノで、指定席エリアだけでなく、後方の芝生エリアも総立ちだ。吉田のアドリブと上原のピアノが“かけ合い”、そして“溶け合う”。全身でピアノを弾く上原のピアノの音には血が通い、吉田の説得力を纏う歌と交差すると、得も言われぬ感動が湧き上がってくる。
サックスとピアノの美しい掛け合いが印象的だった「涙の万華鏡」を歌い終わると、吉田は「涙が出そう、感動」と語っていた。圧巻のセッションで放熱を続けるステージ。上原ひろみが薄暮の中、ソロで短いジャジーな曲を演奏し少しクールダウン。そして上原の美しいピアノと切々と歌う吉田の歌に、客席では涙を流す観客の姿も。「これが音楽、これがジャズの楽しさ」と、このセッションが届けたい思い、このフェスの真髄を中村が言葉にする。
この素晴らしいセッションをもっと多くの人に届けるべく『LOVE SUPREME presents』として、5月21日(土)には神戸ワールド記念ホールで開催され、5月26日(木)には東京ガーデンシアターでも行われる(出演:WONK、DREAMS COME TRUE featuring 上原ひろみ、クリス・コールマン、古川昌義、馬場智章)。
WONK
2日目、5月15日(日)も曇りながら時折陽が差す絶好のフェス日和。「THEATRE STAGE」のトップバッターはWONKだ。長塚健斗(Vo)が「ゆっくりまったり楽しんでいただければ」と言うように1曲目、5月11日にリリースされたばかりのニューアルバム『artless』から「Cooking」を演奏し始めると、会場に上質で柔らかな空気が流れる。「Orange Mug」に続き披露された「Migratory Bird」も、アコギと長塚の柔らかなボーカルが重なり、まさに日曜の午後にピッタリのムードに。
「Real Love」では石若駿がゲストで登場。荒田洸とのツインドラムで強烈なグルーヴができあがったところに、さらにJUAが登場しラップが炸裂すると、テンションが加速していく。ラストは「全てを包み込んでくれるような曲を作りたかった」(長塚)という「Umbrella」を投下。その伸びやかな声と、温もりのある懐の深いサウンドは、まるで全てのことを浄化してくれるかのようだ。
Vaundy
Vaundyは、今誰もが一度はそのライヴを観たいアーティストの一人だ。登場前から手拍子が起こり、期待感が会場を包む。オープニングナンバーは「不可幸力」。太いビートとしなやかなハイトーンボーカルで一気にその世界に引き込む。Vaundyの捻りの効いたリズムにBOBOのドラムは欠かせない。テンポ良く「おもかげ」「東京フラッシュ」など10曲を披露。キャッチーなメロディと豊かな表現力で、客席の全世代を夢中にさせていた。このフェスについてSOIL&“PIMP”SESSIONS・社長にインタビューした際、Vaundyのことを「ステージのフロントに立つべきオーラがある。なんともいえない特別なものを持っている」と絶賛していたが、この言葉を聞いて誰もが納得するであろう素晴らしいパフォーマンスだった。
Nulbarich
Nulbarichは「5年間活動をしてきて、そのうち2年はコロナだったので実質3年目ということでいいかな」とJQ(Vo)が語り、「フェスが動き始めたことに生きる希望を見いだせた」と吐露した。思うように活動ができなかった悔しさをぶつけるように「Spread Butter On My Bread」「Super Sonic」「STEP IT」など、「踊れる曲のみ」で構成したセットリストで、客席を盛り上げた。太いビートとリズム、JQのボーカルが作るグルーヴは“腰にクる”。「時代はも戻らない。新しい時代の幕開けにこの曲を」と披露した「NEW ERA」では、客席に感動が広がっていくのが伝わってきた。
Aile The Shota
「GREEN STAGE」のトップバッターは注目のオーディション「THE FIRST」に参加し注目を集め、SKY-HI主宰のマネジメント/レーベル BMSGから今年1月にデビューしたAile The Shotaが登場。ブラックミュージックをベースにした最先端のトラックと、親しみを感じるメロディが融合した楽曲のカッコ良さが際立っていた。SKY-HIとのコラボも披露し、瑞々しくも存在感を感じさせてくれるステージを見せてくれた。
Answer to Remember
石若駿率いるAnswer to Rememberはある意味、このフェスの象徴的な存在なのかもしれない。ジャムシーンを賑わす新世代のジャズミュージシャンが集結し、石若を中心に新しいアーティスト達のエネルギーが反応しあう「場所」でもある。その圧倒的なエネルギーを感じさせてくれる演奏で客席を唸らせた。さらにKID FRESSINO、JUAがラップで参加し、emihoiが情熱的な歌を聴かせ、トランペット黒田卓也も参加し、コラボを楽しんでいた。
SOIL&“PIMP”SESSIONS
SOIL&“PIMP”SESSIONSが登場すると、待ち侘びたファンから割れんばかりの拍手が沸き起こった。社長も「待ちに待ったこの瞬間」と興奮を抑えられない。6月8日に発売されるオリジナルアルバム『LOST IN TOKYO』から、ひと足先に新曲「Acknowledgement(A Love Supreme, Pt.l))「Todoroki」を立て続けに披露。踊れるジャズに客席は身を委ね、音を全身で感じている。ステージ袖ではこの日のヘッドライナー、ロバート・グラスパーがソイルのライヴを見守っている。「御大がそこにいるだけで背筋が伸びる」と社長が語り、さらに演奏に気合が入る。
Awich、長塚健斗(WONK)をゲストボーカル迎え、さらにSKY-HIとは5月25日にリリースするデジタルシングル「シティオブキメラ feat. SKY-HI」を初披露し、大きな歓声が起こった。
ロバート・グラスパー
大トリは「THEATRE STAGE」でロバート・グラスパーだ。まずはDJのジャヒ・サンダンスが登場し盛り上げる。「Love Supreme」のサンプリングも使い、このフェスへの愛とリスペクトを表し、さりげなく“伏線”を回収。大歓声に迎えられ主役が登場。まずはレディオヘッドのカバー「Packt Like Sardines In a Crushd Tin Box」から。いきなり深く濃密なジャズの宇宙に招かれたような感覚になる。「No One Like You」でのジャスティン・タイソンのドラムソロは、タイトで変幻自在、圧倒的な音数を刻む、人間業とは思えないプレイに誰もが息を飲む。音が一音一音明確で、飛び込んでくる。さらに、ベースのデヴィッド・ギンヤードとの鉄壁リズムセクションが作り出すリズムに、心と体が躍る。これはジャズファンならずとも否応なく引き込まれ、感動したはずだ。
このフェスはジャズのブランディングを感じてもらいつつ、20代、30代の若い人達に音楽を楽しんで欲しいという思いが、根底に流れている。そこが他のジャズフェスと違うところだ。2日間、若い人の姿が目立った。若い人達が聴いて楽しいジャズを提供し、それを演奏するアーティストが影響を受けたアーティストの音楽を気軽に体感して欲しい、そんな思いも込められている。セルジオ・メンデス、ロバート・グラスパーの存在がそうだ。世界最高峰の現代ジャズアーティストの世界に触れ、何かを感じて欲しいのだ。
現代ジャズの深淵な世界にひきこまれる「Let It Ride」は、新鮮な空気をたっぷり吸いながら聴いていると、細胞が喜んでいるような感覚になる。「Freeze Tag」はロバート・グラスパーが一緒に口笛を吹こうと、ステージから煽る。最新アルバム『Black Radio III』に収録されている、ティアーズ・フォー・フィアーズのカバー「Everybody Wants To Rule The World」は、アルバムではレイラハサウェイ &コモンをフィーチャリングしているが、この日は自らがボーカルをとる。
ロバート・グラスパーとテラス・マーティンを中心にしたプロジェクトR+R=NOWの「Resting Warrior」に続いて、最後はハイエイタス・カイヨーテの「Red Room」のカバーで締めくくった。緊張とリラックス、ドープな世界とクールな時間を演出し、まるでアートを見て感じているような、約70分のステージだった。そして前日、ドリカム中村正人が言った「これが音楽、これがジャズの楽しさ」という言葉を思い出した。
ジャズファンはもちろん、ジャズ初心者の入門編として、さらにこれをきっかけにジャズを好きになるであろう音楽ファン、全ての人が満足できるのがこの『LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL』だ。来年のラインナップが今から楽しみだ。