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大本命「鬼滅の刃」に続く秋アニメ 業界関係者が推す今期の話題作は

河村鳴紘サブカル専門ライター
アニメ「王様ランキング」

 いよいよ秋アニメがスタートします。不動の本命は「鬼滅の刃」ですが、他にも作品がそろっています。業界関係者から挙がった作品を紹介しながら、業界の課題も考えてみます。

◇作品数の飽和状態続く 「鬼滅」の影響は…

 秋スタートの新作アニメのタイトル数は約60本。毎クールのことですが、関係者でも「全部は追い切れない」という状態が続いています。コアなアニメファンでも、全作品を視聴するのは大変でしょう。

 日本動画協会が5月に発表した「『アニメ産業レポート2021』2020年データ速報」によると、2020年のテレビアニメ制作分数は、前年比6.5%減の9万8448分で、新型コロナの影響もあってか2年連続のマイナスとなりました。

日本動画協会が発表した新作アニメ(青色)と継続アニメ(オレンジ色)の制作分数(暫定)。新作アニメの振れ幅が大きい。 =同協会のホームページから
日本動画協会が発表した新作アニメ(青色)と継続アニメ(オレンジ色)の制作分数(暫定)。新作アニメの振れ幅が大きい。 =同協会のホームページから

 しかしピーク時より相対的に少ないとは言え、アニメの作品数が飽和状態にあることは、ここ10年以上ずっと言われていることです。

 全部見るのは大変なので、作品の筋立てが分かる第3話まで視聴して、その後の視聴を判断する「3話切り」という言葉がありました。ですが今や「1話切り」どころか、「ゼロ話切り」もあるほどです。

 「ゼロ話切り」は、第1話を見る前の情報で「見ない」と判断すること。PVの出来で判断していたファンもいたのですが、制作側がPVに力を入れる一方で肝心の本編が物足りないという残念なことも……。なお「3話切り」というワードは、2000年代後半にはあったようです。

 背景には、動画やゲームなどエンタメ・コンテンツの充実があります。行きついた先は、SNSで話題になった作品のみをチェックするなどの「効率重視」の流れにつながるわけです。配信作品を倍速以上で見る「早送り視聴」も流れの一つですね。

 まあ、世にあるコンテンツにすべて触れるのは無理な話です。そして「〇話切り」という言葉は、「本来全部のアニメを見たいが、時間的に難しいので仕方なく切る」という意味合いもあります。昔のオタクは、ダメと思う作品もあえて見る気質もあり、イジって楽しむことすらしていたので、時代は変わった気がします。

 そんな厳しい競争の中で、今回は「鬼滅の刃」という「大本命」の存在が、他の作品にどのような影響を与えるかでしょう。「残されたイスが減るので大変」という視点もあれば、「アニメへの注目が高まり新規層を獲得する好機」という考えもあります。

 そして、世の中に絶対は存在しません。「PUI PUI モルカー」のように、最初は無名でもSNSの力で話題が拡散し、大ヒットする例も出ました。「鬼滅の刃」に及ばずとも近づきたいというのは、誰もが思うことなのです。

 「ゼロ話切り」を嘆いても、コンテンツの飽和がある以上どうにもなりません。それを踏まえて作品をアピールするために、どう戦略を練っていくのかが、腕の見せ所といえそうです。

◇アニメ関係者が推す作品は…

 秋のアニメについて、アニメ関係者に普通に「どれがいい?」と質問すると、「鬼滅の刃」一択か自社タイトルを挙げるでしょう。そこで「『鬼滅の刃』以外で、他社タイトルの新作で気になるのは?」と尋ねたところ、「王様ランキング」と「ブルーピリオド」を推す声が多かったですね。

 「王様ランキング」は、生まれつき耳が聞こえず、剣がうまく振れない非力な王子・ボッジが、謎の生き物「カゲ」と出会い、成長する物語です。原作マンガはネットでも人気を博しました。

 「ブルーピリオド」は、優秀で世渡り上手な一方で日常に虚しさを感じていた高校生の矢口八虎が、美術室で出会った絵に心を奪われ、最難関の東京芸大を目指す……という物語です。原作のマンガは、2020年のマンガ大賞受賞作。芸大受験に賭ける熱さが、アニメでどう再現されるでしょうか。

 「新作を挙げて」と質問したにもかかわらず、それでも何人かが名指したのが「ルパン三世 PART6」です。次元大介の声優交代(小林清志さん→大塚明夫さん)を話題作りに仕立てたプロモのうまさを評価する人もいました。

◇「終末」「ラブコメ」対決も

 タイプはまるで違うのですが、「終末のワルキューレ」と「終末のハーレム」という二つの“終末”のタイトルも名前が挙がりました。

 「終末のワルキューレ」は、人類の存亡をかけて、歴史の英雄たちと世界の神々が一対一で戦う物語です。アニメはネットフリックスで今年6月から配信をして人気を博していましたが、今度は地上波で放送されます。既に一定の高評価を受けており、今回の地上波放送でどうなるか?というところも含めて気になります。

 「終末のハーレム」は、難病に侵された青年・水原怜人がコールドスリープから目覚めると、地球上の99.9%の男が死滅していたという物語です。男性がほぼいなくて人類の存続をとなれば、方向性は一つしかなく……。「メイティング(子づくり)せよ」や「近未来エロティックサスペンス」という刺激的なワードが売りで、PVは年齢制限が設けられているほど。一方で、男性が死滅した世界の謎が解き明かされていくのもポイントです。

 「対決もの」と言えば、ラブコメもあります。「古見さんは、コミュ症です。」と「先輩がうざい後輩の話」の激突も気になるところ。学生ものVS社会人もの……という構図ですね。

 「古見さんは、コミュ症です。」は、人付き合いが苦手な美少女・女子高生の古見さんと、平凡な男子高校生の只野くんが友達になり、距離が縮まっていくというラブコメです。

 対する「先輩がうざい後輩の話」は、外見が女子小学生に間違えられることもある社会人の五十嵐双葉と、面倒見の良い先輩・武田晴海のお話です。双葉はガサツな先輩を「うざい」と思うのですが、まんざらでもない様子……。ツイッターでも話題になったマンガが原作ですね。

◇SNSでの“布教活動”も楽しみの一つ

 新作を中心に紹介しましたが、「ワールドトリガー」や「結城友奈は勇者である」「ガンダムブレイカー バトローグ」などシリーズもの、定番ものもそろっています。

 大切なのは、自分の主観で楽しむことです。「流行は全部追う!」など肩の力は入れず、負担にならない程度の作品数を選び、ゆるーく見てはどうでしょうか。序盤でイマイチでも、中盤以降に一気に面白くなるアニメもありますし、後追い視聴だってできます。そしてお気に入りのアニメの盛り上がりがイマイチでも、SNSでプッシュして“布教活動”をするのも、楽しみ方の一つです。

 「鬼滅の刃」の動きと合わせて、他の作品がどう動き、どう影響するのか。いろいろな視点で注目したいと思います。

(C)十日草輔・KADOKAWA刊/アニメ「王様ランキング」製作委員会

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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