Yahoo!ニュース

東京に初進出! おいしいご飯で焼肉を食べる「肉のよいち」の圧倒的な差別化のポイントを探る

千葉哲幸フードサービスジャーナリスト
焼肉店の「肉のよいち」は、おいしいご飯にこだわっている(「肉のよいち」提供)

いま名古屋・東海エリアで急成長している「肉のよいち」という焼肉チェーンがある。その同店がこの7月1日東京に初進出した。同チェーンを展開するのは株式会社Act community(本社/名古屋市中村区、代表/柳瀬雅斗)。同社代表の柳瀬氏(37歳)は、2014年に名古屋で飲食業を立ち上げ、いまメインとなっている焼肉店「肉のよいち」の1号店を2018年11月に名古屋の名駅にオープンした。2024年7月1日の現在で、同店は直営5店舗、FC32店舗となっている。

筆者は柳瀬氏に開口一番、「いまの外食市場を見ると、焼肉店をチェーン展開するのは厳しいのではないか」と問いかけたところ、「それは地域一番店をつくれば解決できることです」と明快に答えた。

Act community代表の柳瀬雅斗氏。「肉のよいち」を地域一番店とするために、ヒットするアイデアを凝らしている(筆者撮影)
Act community代表の柳瀬雅斗氏。「肉のよいち」を地域一番店とするために、ヒットするアイデアを凝らしている(筆者撮影)

焼肉店としての「肉のよいち」の最大の特徴は、「ご飯と一緒に焼肉を食べる」ということだ。「お酒と一緒に焼肉を食べる」という親しみ方が、一歩進んで「卓上のタワーからサワーが出てきて、好きなだけサワーを飲むことが出来る」という焼肉店は、コロナ禍にあっても人気を博して成長している。その一方で「ご飯と一緒に焼肉を食べる」とは、もう一つの「焼肉の王道」と言えるのではないか。

「なぜ、ご飯と焼肉なのか」と尋ねると、「子供のころ、月に1回、ご褒美のように焼肉店に連れていってもらいました。そのとき、焼肉をオンザライスにしてご飯をかきこむのが大好きだった」と語る。楽しい外食の原体験は、いま外食ビジネスの確信となっている。

焼肉は基本的にアラカルトで食べることができるが、人気メニューを盛り込んだ「肉の階段盛りコース」もある(「肉のよいち」提供)
焼肉は基本的にアラカルトで食べることができるが、人気メニューを盛り込んだ「肉の階段盛りコース」もある(「肉のよいち」提供)

「おいしいご飯」のこだわりと表現の仕方

柳瀬氏が「ご飯と一緒に焼肉を食べる」業態をつくろうと考えたのは2015年ごろの当時。五つ星お米マイスターの資格を持つ人と共に「おいしいお米」の産地開拓やブレンドを研究するようになった。この資格を持つ人は「おいしいお米」と言わる米をブラインドテストすると、その産地や等級まで当てることができるという。そして、生産者とともに「肉のよいち」にとってブランドストーリーのある、甘味が感じられる米のブレンドをつくり上げた。

米は、米の業者から玄米の状態で同社が依頼している加工場に配送してもらっている。その狙いは「お客様においしいお米を食べていただくため」。米は白米の状態で流通し、保管すると1週間ほどで劣化が始まる。そこで「おいしいご飯」のためには、「精米したての白米を炊く」ことが必要だという。そこで「肉のよいち」では、各店舗から加工場に白米の発注があると、それに従って精米をして、各店舗に届けている。

店でのご飯の提供方法は、炊飯器で炊くのではなく、1合594円(税込、以下同)と2合814円の羽釜に入れて、注文があってからそれをお客の元に届けて固形燃料で炊き上げる。この「釜炊きご飯」はお客の8割が注文するということで、当日の来客数を把握して、それぞれの釜に30分間水を浸して保管する。これによって、米の旨味が増すという。

「釜炊きご飯」がお客の元に届くと、炊き上がりまで20分間に設定されたタイマーが添えられる。焼肉を食べながら、炊き上がるまでの時間を楽しむという趣向だ。炊き上がる直前にホールの女性スタッフが、「2~3分間蒸らすと、ふっくらとおいしいご飯になります」と伝えてくれる。カップルが「釜炊きご飯」を食べるときに、率先して女子がご飯を茶碗によそうシーンが見られる。それを男子が行なった場合は、女子にとって男子の新しい側面を垣間見たように感じられる。いずれのシーンも、ほのぼのとした雰囲気を醸し出している。

「おいしいご飯」へのこだわりは、特にランチタイムに大きな効果を発揮する。11時ランチスタートの場合、カウンター前のキッチンにずらりとそろえた羽釜に10時40分から火を入れて、羽釜の上は蒸気でいっぱいになり、店内には炊きたてのご飯のにおいが満たされている。そしてお客は入店と同時に1000円ちょっとの「釜炊きご飯」の焼肉定食を食べることが出来る。「おいしいご飯の店に、また行きたい」という、記憶が残る。

付加価値メニューで原価を抑えてお得感をアピール

肉のメニュー設計にも工夫がみられる。

まず「白米専用カルビ」869円の存在。提供された皿は肉とタレが分かれて盛られて、それをお客がトングで混ぜてロースターで焼く。タレは八丁味噌にニンニクが効いていて、ネーミング通りのマッチングで、記憶に残る。

最も筆者が「上手な肉の売り方」を実感したのは「大将牛タン食べ比べ」1639円である。牛タンは「タン元」「タン中」「タン先」と分類され、「タン先」は固いことから、焼肉として商品化されずに、スープやカレーの具材に使用される。しかしながら、「大将牛タン食べ比べ」では「牛タン1本を丸ごと食べる」ことをストーリーにして一皿に盛り付けている。同じタンでも食味が異なることに新しい発見がある。

「タン元」「タン中」「タン先」と「牛タン」のすべてを一皿に盛り込んだ「大将牛タン食べ比べ」1人前1639円(税込、以下同/画像は2人前)は、「牛のよいち」の名物メニュー(「肉のよいち」提供)
「タン元」「タン中」「タン先」と「牛タン」のすべてを一皿に盛り込んだ「大将牛タン食べ比べ」1人前1639円(税込、以下同/画像は2人前)は、「牛のよいち」の名物メニュー(「肉のよいち」提供)

柳瀬氏はこう語る。

「従来のようなタン先の活用の仕方では、タン先にお金が付かないのですね。それをタンの1本を盛り合わせにするとタン先もお金になります。この付加価値商品によって、タンのロスが出ないし、全体の原価率が低くなります」

一方、焼肉の「普遍価値商品」も存在する。それは「よいちハラミ」1人前979円・ハーフ539円、「よいちカルビ」979円といった商品である。おなじみの「ハラミ」「カルビ」の価格としてはお手頃の価格である。

食事のメニューにも特徴がある。その筆頭として「ガツン麺」1人前979円・ハーフ649円を挙げたい。唐辛子の粉のスープに茹で上げた韓国料理の麺が入っている。これにホルモン、海鮮、野菜でメニューのバリエーションを広げている。また食べてみたいと感じる。「これを食べるために来店するお客様もいる」(柳瀬氏)とのことだ。

食事メニューにもリピートしたくなる工夫が凝らされている。画像は「ガツン麺」979円・ハーフ649円で、これを目的に来店するお客も多い(「肉のよいち」提供)
食事メニューにもリピートしたくなる工夫が凝らされている。画像は「ガツン麺」979円・ハーフ649円で、これを目的に来店するお客も多い(「肉のよいち」提供)

「肉のよいち」のメニューに対する筆者の印象は「強いメニューの柱がたくさんある」ということだ。

ハラル認証の牛肉でイスラム圏で焼肉店を展開

Act communityでは、今年の1月に「昼だけうなぎ屋」のFC展開をリリースした。これは、夜営業の居酒屋が日中に「うなぎ屋」を営業するというパッケージである。

この業態はコロナ禍のさなかに誕生した。そのきっかけについて柳瀬氏はこう語る。

「コロナになって、居酒屋では一斉にお弁当販売やデリバリーに取り組みました。しかし、私は別なことをやるべきだと考えていました。例えば、お客様がカレーを食べたいという動機は、居酒屋が始めたカレーではなく、カレー専門店に行きたいと思うはずです。そこで、お客様が『行きたい』と思う商品は何かと。それは『うなぎをお値打ちで販売することだ』と考えました」

この試みは同社の居酒屋直営店でコロナ禍の中で始まった。うなぎは外部の加工場でさばいてもらい店に配送、店内で串打ちをして、地焼きで焼く。このために新規の投資は2万~3万円程度の焼台を購入する程度。魚を焼いた経験のある人であれば、アルバイトでもすぐに調理が可能という。メニューは「うな丼」2400円、「ひつまぶし上」2000円が標準で、鰻のボリュームによって価格が変動するが、客単価は2300円程度になっている。

同社の居酒屋直営店では、この「昼だけうなぎ屋」の売上が月商700万円となった、この業態に賛同した経営者の店は4店舗あり、それぞれ300万円、400万円を売り上げている。このFCパッケージも「肉のよいち」と同様、これからチェーン化を進めていくという。

「肉のよいち」はこれまでの名古屋・東海地区での展開から、7月1日に初めて東京に進出した。場所はJR御茶ノ水駅から徒歩2分ほどの場所。ここはオフィス街であり学生街でもあり、人通りが多い立地である。そして、これからは東京圏での展開に力を入れていくとのこと。

そしてもう一つ、チェーン展開の狙いとしているエリアは東南アジアである。現在、マレーシアで「肉のよいち」を1店舗営業している。ここで使用している牛肉は「ハラル認証」を取得していて、イスラム教徒の多いマレーシアでは焼肉店として独壇場の繁盛を築いているという。さらに、イスラム教徒の多いインドネシアでの展開を想定している。

柳瀬氏の業態設計の考え方は隅々まで行き届いている。「FCによってチェーン展開を進めていきたい」と柳瀬氏は語るが、「肉のよいち」は焼肉店の新しい勢力になるものと感じた。飲食業経営の世代交代の一片を垣間見たような気分である。

東京1号店の御茶ノ水店の外観。「焼肉」をアピールするシンプルでとても分かりやすい看板(筆者撮影)
東京1号店の御茶ノ水店の外観。「焼肉」をアピールするシンプルでとても分かりやすい看板(筆者撮影)

フードサービスジャーナリスト

柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆、講演、書籍編集などを行う。

千葉哲幸の最近の記事