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ユニバーサルDH制導入で獲得競争がさらに激化?!大谷翔平の未来予想図

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
ユニバーサルDH制の導入で大谷翔平選手の価値がさらに高まった(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【ユニバーサルDH制導入が決定的になった背景】

 すでに本欄でも報告しているように、今シーズンからア・リーグだけでなくナ・リーグでもDH制を採用する「ユニバーサルDH制」の導入がほぼ確実になった。

 改めて説明しておくと、ユニバーサルDH制は短縮シーズンとなった2020年に投手の負担を軽減するため試験的に導入されていたが、現場の選手たちの間で肯定的な意見が多く、選手会は昨シーズンも継続導入を目指していたが、MLBが同意しなかったため実現しなかった。

 今回は混迷する労使交渉を打開するため、MLBが選手会の要望に応じてオーナー会議でユニバーサルDH制導入を決議したため、いずれ合意されるだろう新たな労使協約に、ユニバーサルDH制が盛り込まれることが決定的になったためだ。

 これにより大谷翔平選手は、今シーズンからナ・リーグ主催の交流戦でもDHとして先発出場が可能となり、さらに打席数を増やすことが期待できるようになった。

【大谷選手にもたらされる更なる波及効果】

 実はユニバーサルDH制導入で大谷選手にもたらされる効果は、打席数の増加だけに止まっていない。むしろそれ以上の効果が予想されるのだ。

 これまでDH制がなかったナ・リーグでは、二刀流としての大谷選手の能力を発揮できる環境になかった。投手以外で試合に出るには、代打かア・リーグ主催の交流戦にDHで出場できるだけだった。

 それがユニバーサルDH制の導入で、ナ・リーグもア・リーグとまったく同じ環境になったため、思う存分大谷選手を二刀流として起用できるようになったわけだ。それはつまり、2023年オフにFAになる大谷選手を欲しいと考えるチームがさらに増え、獲得競争がさらに激化することが予想されるというわけだ。

【資金が潤沢なドジャースやメッツなどは参戦必至?】

 昨シーズンのチーム別年俸総額を見てみると、大谷選手が所属するエンジェルスを上回るチームが6チーム存在する。年俸総額が高い順に紹介すると、ドジャース、ヤンキース、メッツ、アストロズ、フィリーズ、レッドソックス──の6チームで、いずれもMLBの中で屈指の資金を有しているチームだ。

 特にヤンキース、メッツ、ドジャース、レッドソックスなどは、大物選手を獲得するためなら年俸総額の限度枠を超え、ぜいたく税を支払うことも厭わないチームだ。

 上記の6チーム以外でもカブスやジャイアンツ、ブルージェイズなども潤沢な資金を有しているといわれており、ここに紹介しただけでもナ・リーグが5チームも入ってくるのだ。

 大谷選手を獲得すれば、一気に頼れる先発投手と主軸打者を補充できるのだから、資金を有するナ・リーグのチームが彼の獲得競争に参戦しないのは考えにくいだろう。

 ESPNのバスター・オルニー記者は大谷選手の将来的な契約について、「2023年時点で29歳になっているので10年のような長期は難しいだろうが、年俸総額でMLB史上最高額になるだろう」と予測している。

 マックス・シャーザー投手が今オフにメッツと2年契約を結び、MLB選手として初めて年俸額4000万ドル(約46億円)の大台に乗せており、大谷選手もそのレベルの年俸額で推移することが予想される。

【契約延長に持ち込みたいエンジェルス】

 その一方でエンジェルスは、これまで2002年に現行のぜいたく税制度が導入されて以来、2004年の1度しか年俸総額の限度枠を超えたことがなく、オーナー陣は大幅な予算投入を躊躇し続けてきた。

 仮にFA市場で大谷選手の獲得競争に挑んだ場合、どう考えても上記のチームには勝ち目はなさそうだ。そうなるとマイク・トラウト選手のように、FAになる2023年シーズン終了前に契約延長に合意するのが必要になってくる。

 だがエンジェルスはトラウト選手の他に、年俸額3000万ドル(約34億円)を超えるアンソニー・レンドン選手も抱えており、大谷選手と契約延長する場合でも、ある程度の予算を確保しなければならない状況にある。

【カギを握るのは大谷選手の「勝ちたい」という気持ち】

 世間的には今シーズン中にもエンジェルスと大谷選手が契約延長に合意する可能性が取り沙汰されているが、実は大谷選手にとって得策ではないのだ。

 その理由は、昨シーズン終盤で大谷選手がオンライン会見の席で「勝ちたい気持ちが強い。もっとヒリヒリするような9月を過ごしたい」と発言し、周囲に波紋を広げていたことだ。

 大谷選手の発言は、エンジェルスというチームが気に入っている一方で、在籍4年間一度もポストシーズン争いできていないチーム状況に不満を感じてもいることを意味している。

 今シーズンはトラウト選手やレンドン選手がケガから復帰し、新たにノア・シンダーガード投手という実績ある先発投手も加わったとはいえ、チーム全体の戦力は未知数のままだ。まず大谷選手としては、今シーズンのチームがどこまで戦えるのか見極める必要があるだろう。

 仮に今シーズン中に契約延長に合意し、チームが今シーズンもポストシーズン争いできなかったとしたら、エンジェルスの予算状況を考えると、大谷選手はずっと「勝ちたい」という夢を叶えることができないままエンジェルスに在籍し続けなければならなくなる可能性が出てくる。

 まず今シーズンの戦い方を見極め、チームに可能性を見出せるようになった段階で、つまり今シーズン終了後、もしくは来シーズン中に契約延長に合意すればいいのだ。

 逆にエンジェルスに将来性を感じられなければ、契約延長に応じずFAとして自分の夢が叶えられるチームに移籍すればいいわけだ。

 いずれにせよ、今シーズンのエンジェルスの戦い方が大谷選手の将来を握っているといっても過言ではない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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