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ロボット審判導入に一歩前進!MLBが一本化を決めたチャレンジシステムの中身とは?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
タイラー・グラスナウ投手はチャレンジシステム導入に好意的な選手の1人だ。(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【MLBがチャレンジシステム一本化を決断】

 今シーズンもシーズン開幕以降主審のストライク/ボール判定が物議を醸し、監督や選手の退場シーンが度々起こる中、現場はもとよりメディア、ファンからもABS(日本では「ロボット審判」という表現が一般的)の早期導入が叫ばれるようになっている。

 ただロブ・マンフレッド・コミッショナーはMLBでの正式導入に慎重な姿勢を見せており、すでに来シーズンの導入に関して懐疑的な発言をしている。

 だがその一方でMLBはつい最近、ABS導入に向け大きな一歩を踏み出している。ESPNら主要メディアが報じたところによると、昨シーズンから2つの方式でABSを試験導入してきた3Aで、6月25日からチャレンジシステム一本に絞り込むことを決めたようだ。

【現場スタッフとファンによるアンケートを元に判断】

 MLBがMiLB(マイナーリーグの総称)を直接統轄するようになって以降、3Aでは様々な変革が起こり、現在では遠征を減らすことを目的に対戦チームと1シリーズで6試合対戦するスケジュールになっている。

 そして昨シーズンから3AでABSが試験導入され、前半の3試合はストライク/ボール判定そのものをABSに任せる方式と、後半3試合は通常通り主審がストライク/ボール判定を担当し、判定に疑問を持った打者が判定に異議申し立てできるチャレンジシステムの2方式を試していた。

 これまでマンフレッド・コミッショナーはメディア対応する度に、チャレンジシステムが高評価を受けていることを明らかにするとともに、監督、コーチ、選手らの現場スタッフに加え、ファンに対してもアンケート調査を実施し、ABSの反応を詳しく調査し続けてきた。

 ESPNはそのアンケート結果を入手した上で、61%の現場スタッフと47%のファンがチャレンジシステム導入を好意的に考えている一方で、ABSによる判定について11%の現場スタッフと23%ファンしか賛成していないと報じている。

 この結果を受け、MLBはチャレンジシステムへの一本化を決めたわけだ。

【各チームのチャレンジする権利は1試合2回に縮小】

 チャレンジシステムとは、まさにテニスで行われているシステムとまったく同様だ。テニスの場合、選手はライン付近の判定にチャレンジ(異議申し立て)をジャッジに伝えると、すぐに会場のモニターにアニメーションが流され、ラインインもしくはラインアウトを確認することができる。

 野球の場合これをストライク/ボール判定に応用し、打席に立つ打者(監督、コーチは対象外)がチャレンジでき、テニス同様球場モニターにアニメーションが流され、即座にボールがゾーン内もしくはゾーン外かを確認することができる。

 あるアカウントがX上にチャレンジシステムを紹介した動画を投稿していたので下記に貼り付けておく。是非参考にしてほしい。

 これまでは各チームに1試合当たり3回のチャレンジ権が与えられていたが、6月25日以降は2回に縮小される。これもアンケート結果を反映したものだ。

 チャレンジシステムはテニス同様に、チャレンジに成功するとチャレンジ権が減らないこともあり、これまで3Aでチャレンジシステムを採用した試合の40%が6回以上チャレンジを使用している状況だった。

 一方で、89%のファンは1試合当たりのチャレンジ数を6回以下が望ましいと答えており、これを受けたMLBは各チーム2回に変更したものだ。

【実質的なロボット審判の採用は完全消滅】

 実は現役メジャーリーガーの中でも、チャレンジスステムを推す声が出始めている。その中の1人に、ドジャースのタイラー・グラスナウ投手がいる。

 彼はレイズ在籍時代に3Aでリハビリ登板した過去があり、その時にチャレンジシステムを実際に体験しており、「なかなか面白いシステムだと思う。どちらかといえばエンターテインメント的要素が強く、チャレンジが採用された時一番ファンが盛り上がっていた」と好意的に捉えている。

 まだチャレンジシステムを実際に経験したことがないヤンキースのアーロン・ジャッジ選手でさえも、「(テニスの)全米オープンを観戦に行ったことがあり、チャレンジシステムを体験している。何度かマイナーの試合をTV観戦したけど、なかなか面白いと感じた」と賛成の立場を示している。

 MLBがチャレンジシステムに一本化したことで、将来的にABSによるストライク/ボール判定が採用されることはほぼ消滅し、いわゆるロボット審判が誕生することはなくなった。

 あくまで従来通りのファジーな人間的要素を維持しながら、さらに安定的な判定を求めていく上で、チャレンジシステムは理想的なツールになりそうだ。またグラスナウ投手が説明しているように、チャレンジシステムはファンを盛り上げるツールとしても活用できるのだ。

 1日も早いMLBでの導入を願うばかりだ。

【NPBでのチャレンジシステム採用は茨の道】

 最後に付け加えておくと、NPBでチャレンジシステムを導入するのは、今も高い壁が立ちはだかっている。

 MLBでは各チームとは別に、MLB自ら全30球場に最新追尾システム「ホークアイ」を設置し、それをフル活用することで現在の様々なデータをファンに提供している。この追尾システムが装備されていないと、チャレンジシステムを採用することができない。

 現在NPBでは自分たちのデータ収集を目的にホークアイを設置しているチームが存在しているものの、メディア報道を見る限りNPBが個別に設置を検討している動きはなさそうなので、ABS導入すらも想定していないのではないだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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