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興収170億突破「ONE PIECE FILM RED」大ヒットを後押しする3つの外的要因とは

小新井涼アニメウォッチャー
AnimeJapan2022展示(筆者撮影)

8月6日公開の映画「ONE PIECE FILM RED」が、ついに先週、興行収入171億円を突破し、改めて話題となりました。

その興行記録はもちろん、公開から2ヶ月以上経った今も興行通信社調べの動員ランキングでは首位を保ち続け、その記録(11週連続首位)は、今週発表分で「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」(12週連続首位)に並ぶか、というほどとなっています。

「ONE PIECE」屈指の重要キャラの娘とされる映画オリジナルキャラクターの存在や、彼女の歌唱を務めるAdo氏をはじめ、豪華クリエイター陣による劇中歌やその映像演出。それにより従来からのファンも久々に触れるファンも、新規の観客さえも楽しめる間口の広さや、そうして高まった期待を裏切らない実際の作品内容など、本作の人気の要因は多々挙げられます。

しかしここまで大きくなった盛り上がりの背景には、そうした作品そのものの魅力に加えて、本作を取り巻く様々な外的要因というのも、大きな後押しとなってきたのではないでしょうか。

1.複数回鑑賞の習慣

たとえば本作をはじめ、近年ヒットが生まれる大きな土壌となっている外的要因として挙げられるのが、ここ5、6年程ですっかり定着した観客側の複数回鑑賞の習慣です。

元より、「ガールズ&パンツァー 劇場版」や「ラブライブ!The School Idol Movie」をはじめ、熱心なアニメファンの間では既に行われていましたが、それが特により幅広い層にまで浸透し、根付き始めるきっかけとなったのは、「KING OF PRISM by PrettyRhythm」にはじまり、劇場版「名探偵コナン 純黒の悪夢」、「ズートピア」、「シン・ゴジラ」、「君の名は。」、といった、劇場に何度も足を運んだ人の声が盛り上がりをより大きくしていた作品が次々に公開された、2016年以降のことだと思います。

実際に皆さんやその周りの方々の中にも、それまで『1回で十分では?』と思っていたのに、今ではお気に入りの作品は『映画館に行けるだけみる』ことが当たり前になってきている、という方が少なくないのではないでしょうか。

このことは前述の通り本作に限らず、ここ2、3年で興収100億を突破してきた「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」、「劇場版 呪術廻戦 0」、「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」においても、そのヒットの土壌となってきたように思います。

同様に本作のヒットの裏側でも、元々の作品知名度や人気による観客層の幅広い横の広がりに加えて、その内の決して少なくない人達が何度も劇場鑑賞をするという、深い縦の広がりによる盛り上がりの後押しがあったはずです。

2.ロングランにも繋がる複数回鑑賞を前提とした興行展開

加えて、そうした複数回鑑賞がより活発に行われるような、様々な興行展開が積極的に行われてきたことも大きいと思います。

IMAX※上映やDOLBY CINEMA上映、4DXといったお馴染みの興行バリエーションはもとより、応援上映(ウタLIVE in 映画館《無発声応援上映》)や、来月5日から始まる《副音声上映》に至っては特に、“既に通常回をみた人”が、より楽しめる施策であるといえるでしょう。

要所毎に行われる入場者プレゼントも、単純に特典が欲しい人が新たに劇場に足を運ぶだけでなく、もう一度鑑賞したいと思っていた人が『どうせならその日に行こうかな』と、ともすると機を逃しがちな2回目以降の鑑賞日程を、具体的に定めるきっかけにもなります。

それらが翌週の上映回数にも大きな影響を与える週末から実施され、繰り返し動員首位をたたき出してきたことで、次週以降も一定の上映回数が確保され、興行収入を増やしながらのロングランへと繋がっていったのでしょう。

こうした施策は本作だけでなく、多くの劇場版アニメでも行われてきたことですが、特に本作に関しては、前述した近年のヒット作での展開等も受けて、そうした複数回鑑賞を前提とした施策がより効果的に、力を入れて行われているのを感じます。

  • ※本来この位置に登録商標マーク

3.公開のタイミング

最後は、完全な後付けでもありますが、本作公開後、動員ランキングの首位が大きく入れ替わる規模の作品の公開がしばらくなかったことも、動員ランキング11週連続首位という快挙、ひいてはこれほどの興行収入の伸びに繋がったのではないかと思います。

たとえば、今年既に興収90億を超える大ヒット作となった劇場版「名探偵コナン ハロウィンの花嫁」は、翌月に「シン・ウルトラマン」や「トップガン マーヴェリック」等の公開を控えていたこともあってか、5週目には動員ランキング首位を明け渡し、以降興収の伸びも一旦落ち着いていきました。

首位から入れ替わると、たとえまだ人々の熱が冷めていないとしても、どうしてもスクリーン数や上映回数確保の優先度は下がってしまいます。

そうなると、一度は首位を明け渡したものの、入場者プレゼント第2弾開始のタイミングで首位に返り咲き、その後6週に渡り首位となり続けた「劇場版 呪術廻戦 0」や、同じく“薄い本”の配布と共に、公開14週目にして首位に返り咲いた「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」のように、何か再び爆発的に話題となるようなきっかけ※がない限り、そもそもの動員が出来ず興行収入を伸ばすこともできません。

そう考えると、公開11週目まで他の作品の追随を許さず首位を独走し続けることができる絶妙な公開タイミングであったことも、本作がこれだけの大ヒットを生み出しているひとつの重要な要因となっていたといえるのではないでしょうか。

  • ※劇場版「名探偵コナン ハロウィンの花嫁」については、今月末に行われるハロウィン再会(リバイバル)上映が、そのひとつのきっかけにもなり得ると期待される

もちろん、これらの外的要因は、そもそも何回も鑑賞したくなる・様々な施策が行えるくらいロングランする・首位を独走し続けられる、という程の作品そのものの魅力という大前提があったうえで、大ヒットの後押しとなるものです。

ですが、だからといって見逃せない、日々話題作が公開され、人々の鑑賞習慣や興行展開が変化していく中で大きなヒットが生まれていくための、重要な要素でもあったと思います。

作品そのものの魅力に加えて、こうした外的要因による後押しもうまく効果を発揮し、大きな盛り上がりをみせてきた「ONE PIECE FILM RED」。

しかし来月11日には、いよいよ今年屈指の注目作である新海誠監督の最新作「すずめの戸締まり」の公開も控えています。

既にこれほどの大ヒット作が生まれている中で、年末にかけての今年の興行シーンはどう変化していくのか、まだまだ目が離せそうにありません。

アニメウォッチャー

北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程在籍。 KDエンタテインメント所属。 毎週約100本以上(再放送、配信含む)の全アニメを視聴し、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続しつつ、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。 まんたんウェブやアニメ誌などでコラム連載や番組コメンテーターとして出演する傍ら、アニメ情報の監修で番組制作にも参加し、アニメビジネスのプランナーとしても活動中。

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