「慎吾ママのおはロック」「新垣結衣ポッキー」振付家、生きづらさ抱えた人と踊る映画
「慎吾ママのおはロック」「新垣結衣さんのポッキーCM」「おどるポンポコリン」など1300本もの振り付けをしてきた香瑠鼓(かおるこ)さん(62)。このたび、時任三郎さん、原田大二郎さんらプロの表現者や、心身にハンディを抱える人たちと一緒に、映画「踊る!ホラーレストラン」を完成させました。およそ400人が支援費を出し、俳優もボランティア出演。ハンディを強調するのではなく、新しいエンターテインメントに仕上がっています。
●ハンディある人もない人もダンス
芸能の世界で、印象的な振り付けを生み出してきた香瑠鼓さんは、23年前から、心身に様々なハンディのある人と表現する「バリアフリーワークショップ」を開いています。筆者は新聞記者時代に、このワークショップに参加して、即興で踊ったのが印象に残っています。香瑠鼓さんは、障害のある子どもと家族に、明るく声をかけていました。
このワークショップは、振り付けではなく、参加者に合わせた体や声の表現を指導し、シニアも参加できて、プロによるサポートがあります。メンバーはパフォーマンスカンパニー「あぴラッキー」として公演に出て実績を重ね、香瑠鼓さんがこのたび仲間と作り上げたバリアフリー映画「踊る!ホラーレストラン」に出演しています。
●自然でユーモアある出演者
筆者は5月、「踊る!ホラーレストラン」の試写会に足を運びました。制作の目的を「香瑠鼓さんが元気に動けるうちに、作りたかった」「誰もが、生きにくさや痛みを抱えて生きる今だからこそ、比べず競わず自由に表現する喜びを伝えたい」と聞き、60代になった香瑠鼓さんの活躍は、シニア世代にも勇気を与えると思いました。
物語は、クレイジーな展開です。オープンしてすぐにミシュランの星を獲得、超人気店となったレストランオーナ ー(原田大二郎さん)が主人公。オープン2周年を迎える日、 妻と店に行くと、奇妙なダンスが始まる。店長(香瑠鼓さん)が「当店はお客様の人生をお料理にします」という。「前菜」「スペシャルドリンク」「サラダとスープ」「メインディッシュ」、それぞれがダンスで表現されていく…。
映画を見る前は、「ハンディのある人をエンターテインメントで見せるのは、どうなのだろう」と思いました。
初めに、ダンスシーンが楽しいので引き込まれます。まず驚かされたのは、香瑠鼓さんの美しさ。十数年ぶりの「再会」でしたが、しなやかなダンスは変わりません。派手な衣装とメイクも映え、歌って踊る軽やかな香瑠鼓さんの姿を、目で追ってしまいました。愛弟子たちのダンスも、「キレキレ」です。
そして、車いすのユーザーや精神に障害のある人、難病の人たちが、それぞれに衣装をつけて登場。香瑠鼓さんが、ワークショップで共に過ごしてきた数十人の仲間です。一人一人に、香瑠鼓さんたちダンサーがからんで踊る場面があり、信頼関係を感じました。会話ができなくても言葉が生まれ、登場人物の心と体が動いていく様子は、実際に映画で観てみてください。
映画の中で、ハンディのある人たちは、とても自然です。場面や物語になじんでいて、皆さんの表情が豊か。主人公が車いすユーザーでもあり、その頑固な心を溶かしていく様子も、ユーモアがあります。
●プロ俳優の偉大な存在感
もう一つ、この映画の大事なところは、「豪華なプロの表現者が出ていること」です。原田大二郎さん、時任三郎さんら、おなじみの俳優が出てくると、表情や共演者との向き合い方など、プロの技術とオーラを発揮し、場面が引き締まります。
さらに、手塚治虫さんを父に持つアーティスト・手塚眞さん、「チャチャチャ」が大ヒットした石井明美さん、振付家・ラッキィ池田さんらの個性が爆発し、作品のクオリティを高めています。
最初は「ごちゃまぜ」に感じたけれど、最後は話がまとまって、「一瞬一瞬を、生きる喜び」というメッセージが伝わってきました。香瑠鼓さんがバリアフリーワークショップで築いた関係と芸能界の人脈、それに渡邊世紀監督の力で、エンターテインメントとして楽しめる内容になったのではないでしょうか。
●応援が循環していく
「ボランティアがボランティアを呼んで、応援が広がっている」と言う香瑠鼓さん。集まった支援費は、英語字幕や音声ガイドなど、バリアフリー対応や上映費用にもあてられます。「23年付き合っている重いハンディのあるメンバーが、30秒だけ踊ってくれたシーンもあります。映画という形で、さりげなく一生懸命生きている姿がずっと残るって、すごいこと」
手塚眞さんが30年以上前に作った作品に、香瑠鼓さんが出演していて、それが今、世界の映画祭を回っているそうです。「これから30年後、ホラーレストランも世界を回るかも」と、希望を膨らませています。
映画は、6月15日から東京・吉祥寺で公開。情報はこちら。