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北朝鮮の高校不良グループ「学校対決」大乱闘は今

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮の兵士(デイリーNK)

 数年前まで、北朝鮮で社会問題となっていた「荒れる高校生」。北東部・咸鏡北道(ハムギョンブクト)の清津(チョンジン)では、高級中学校(高校)の生徒たちが、授業の終わる午後5〜6時ごろから徒党を組んで刃物まで持ち歩き、他のクラスや他校の生徒グループと乱闘を繰り広げていた。2018年7月には、殺人事件も起きている。

 親たちは、息子の帰宅が遅くなるたびに乱闘に加わっているのではないかと心配していた。息子が怪我をするのも心配だが、相手に怪我をさせて、損害賠償を要求されるなどしたら厄介だ。

 学校の担任教師も悩みは深かった。受け持ちの生徒が乱闘で摘発されれば、市の教育部に呼び出され、批判の舞台に立たされた。つまり、吊し上げに遭うということだ。

 それが、新型コロナウイルスの世界的な大流行をきっかけに、状況が一変した。だが、その一方で別の問題が大人たちを悩ませていると、現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

(参考記事:【実録 北朝鮮ヤクザの世界(上)】28歳で頂点に立った伝説の男

 清津では、コロナの拡散を防ぐとの名目で、夜間通行禁止令が下された。これに伴い、18時から翌朝7時までの外出が禁止された。通りから人の姿が消えると共に、「荒れる高校生」の姿も消えた。彼らはどこへ行ったのだろうか。

 おとなしく家で勉強を…しているわけがなかった。仲間の家にたむろしてトランプで遊んだり、ドラマや映画を見たりしているのだが、外出ができなくなったことで、ご禁制の品だった韓流コンテンツに目を向け始めたというのだ。

 学校ではさすがにおおっぴらに話はできないものの、その流行ぶりは、見ていなければ仲間はずれにされかねないほどだ。

「最近の子どもたちはどういうわけか、恐怖というものを知らない」(情報筋)

 韓流コンテンツを視聴すれば重罰に処され、流通に加担したことが判明すれば処刑されることさえある。

 また、取り調べの過程で拷問死した事例も報告されている。だが、虚勢を張りたがる年頃だからか、あるいは本当に度胸が据わっているのか、「捕まえられるから捕まえてみろ」と言わんばかりの行動をしているという。

 親たちは、乱闘がなくなってようやく安心できるかと思いきや、今度は韓流三昧。初級中学校まではおとなしかった子どもも、高級中学校に上がると荒れて手がつけられなくなるとのことだ。

 一度の失敗が命取りになりかねないのが北朝鮮だが、それを知ってか知らずか、高校生たちは親の心配をよそに、勝手気ままな日々を過ごしている。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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