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「申告制敬遠」が象徴するMLB時短議論のいびつさ 「メーク珍ドラマ」を守るよりも大切な事とは?

豊浦彰太郎Baseball Writer
(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

MLBが、試合時間の短縮を目的に、敬遠を「申告制」にするかもしれないことが日本でも議論を呼んでいる。

ファンの間でのネット上の反応は概ね否定的だ。集約すると「敬遠球が暴投になったり、それを安打にしたり、というドラマが失われる」というものだ。しかし、プロの世界では10年に一度あるかないかの珍プレーを待ち焦がれて、日々球場に足を運ぶわけではない。時短の手段としての敬遠申告制に反対する根拠として、メーク珍ドラマを持ち出す主張はちょっとずれていると思う。

時短を議論するには、思いつきの案に飛びつくのではなく(MLBのロブ・マンフレッド・コミッショナーはそうではないと思うが)、どこに時短の余地が多く潜んでいるか、どこなら手を付けてもベースボールのピュアな魅力がそこなわれないか、の2つの視点から優先順位を付けて取り組むべきである。

その観点からは、1試合に平均すると一度くらい(だと思う)の敬遠四球の時間を削減しても効果は知れているし、「敬遠投球中」というようなインプレー中のアクションに手を付けるのは、最後の最後にしなければならないのではないか。

「効果」の点では、ボールデッド状態の「間」にまず手を付けるべきである。簡単言うとイニング間のインターバルである。MLBではこれは攻守交代のための時間ではない。テレビのコマーシャル時間である。したがって、好守ともに準備完了となっていても、CMタイムが終わらぬ限り、決して主審は「プレーボール」を宣告しない。この部分に手を付ければ、攻守交代は1試合に17回(9回裏がある場合)もあるので、それこそ10分くらい短縮できそうだ。しかし、CMタイムの短縮は現在のMLBの経済的バブルを支えているテレビの放映権料に大きく響いてくる。

次は、投手交代に要する時間だ。近年は小刻みな継投が一般化し、イニング中の投手交代がうんざりするほど多い。逆に言えば、1度の交代に要する時間や同一イニングでの交代回数を制限する手もあると思う。

もちろん、MLBは今まで何もしてこなかった訳ではない。2015年にマンフレッドがコミッショナーに就任して以降でも、投球インターバルや打者の打席外しに制約を設定するなどの手を打ってきた。しかし、アイドリングタイムの大元の攻守交代時間や投手交代時間を野放しにして、インプレー中の行為にメスを入れるなど本末転倒である。攻守交代も投手交代も「貴重なCMタイムの聖域ですから」というなら、敬遠に要する時間などどうでも良い話だ。

「効果」と「野球の尊厳」の双方で優先順位を付けた議論なくして、申告敬遠を提案するのはばかげているし、ほとんどありもしない敬遠にまつわるメーク珍ドラマの保護を求めるような反対論もピントがずれていると思う。ホントに申告敬遠が効果的なら、本塁打後のベース一周というエクスタティックな儀式を守るために、4球を投じる敬遠を生贄に差し出しても良いとぼくは思っている。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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