韓国マンガ発のTVアニメ『神之塔』を世界的成功に導いたマーケティングの手法とは?
世界で45億の累計閲覧数を誇るNAVER WEBTOON発のコミック『神之塔』を原作とするアニメ『神之塔-Tower of God-』は2020年4月1日より日本で地上波放送された。
のみならず、クランチロールを通じて8言語(英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語、ポルトガル語、スペイン語、アラビア語、ロシア語)で世界展開され、第1話配信後には13カ国のTwitterでトレンド入りを果たすなど、非常に大きな注目を集めた作品となった。
アニメ『神之塔』が人気となったのは、もちろん原作が韓国、日本(LINEマンガで読める)のみならずアジア、北米を中心にファンを獲得していたから、ということもあるが、SNSを使ったマーケティング手法によるところも大きい。
ここではクランチロール広報からの情報提供と、広範には筆者が同社の日本およびアジア担当コンテンツ戦略・事業開発ヘッドのジュリアン・ライハンへ行ったメールインタビューからの回答を交え、クランチロールがどんなことをしてきたのかを紹介してみよう。
■クランチロールとは?
クランチロールはワーナーメディア傘下、オッタ―メディアの子会社。2006年にサンフランシスコにて設立。ストリーミングサービス配信事業者として今では全世界200以上の国や地域でアニメやマンガなどを多言語で提供(ただし日本ではほとんどのサービスが利用できない)。
動画配信に留まらず、商品化権も扱うほか、イベントやオンラインストア、ゲームなども多面的に展開。
たとえばゲーム事業では、クランチロール・ゲームズが4月に人気ダークファンタジーアニメ『オーバーロード』初のスマートフォンゲーム『MASS FOR THE DEAD』英語版の提供を開始。この作品は、北米、オセアニア、イギリスを含むヨーロッパで展開され、3月31日から始まったゲームの事前登録ならびにソーシャルメディアには述べ10万人が参加。
クランチロールでは、ファンが好きな作品とのエンゲージメントを高められるよう、アニメやマンガに加えてゲームなど、360度全方位からのコンテンツ体験を提供。
アニメ『神之塔-Tower of God-』に対しては製作者の一員として出資している。
■放映まで1か月かけてイベントとオウンドのニュースサイト、SNSで多言語発信
『神之塔-Tower of God-』は配信前に下記のようなスケジュールで告知・広報活動が展開された。
2月25日 クランチロールオリジナル作品の一部として発表
2月28日 「CHICAGO COMIC&ENTERTAINMENT EXPO(C2E2)」で第1話を世界初公開
3月5日 ドバイの「Middle East Film & Comic Con(MEFCC)」で第1話を公開
4月1日 第1話配信開始
期待感を醸成するためにニュースサイト「クランチロール・ニュース」およびSNSアカウント上で積極的に多言語で発信したことがファン獲得に寄与したという。
各言語で展開されるソーシャルメディアのインプレッションは第1話の配信までに8,000万を獲得、Twitterのフォロワー数は155,000に達し、現在その数は222,000を超えている。
結果、前述のとおり1話配信時には13カ国でトレンド入り、ドイツでは第3位まで上昇。
また、キャラクターデザイン担当の谷野美穂が3月にTwitterアカウントを設立すると、現時点までに11,000を超えるフォロワーを獲得し、海外からとみられるアカウントがフォロワーに多く見られ、Tweetに対する外国語でのリプライも多い。
具体的な再生回数は公開していないが、アニメ『神之塔-Tower of God-』はクランチロールで2020年4月期に最もよく視聴された作品のひとつとなり、特にヨーロッパやラテンアメリカで新しいユーザーを開拓。アメリカ、フランス、ドイツ、ブラジルでよく視聴された。
■ソーシャルメディア上での懸賞キャンペーン、ARフィルター
また、クランチロールは、作品の勢いを持続するためにソーシャルメディアでのキャンペーンも展開。
たとえば4月上旬には「3 Man Team」キャンペーンを実施。
『神之塔』は作中で夜、ラーク、クンの3人がチームを組む。
これに倣ってファンがチームで「神之塔」を登るとしたら誰とチームを組みたいか? 友人2人をタグ付けし、友人それぞれのキャラクターを表す絵文字を添えてツイートすることで1000ドルの賞金が当たる懸賞に応募ができる――というものだ。
アメリカではこのキャンペーンで100万インプレッションを獲得(1000ドルの力は強い!?)。グローバルではラテンアメリカ、フランス、ドイツから多数の応募があった。
さらに5月下旬にはインスタグラム、次いでFacebookカメラにてARフィルターをリリース。
このARフィルターを使うと、どのキャラクターと3人のチームを組んだらよいかを占うことができる。
クン・アゲロ・アグネスの英語吹き替えを担当したChris Hackneyなどが結果をシェアしてキャンペーンの成功に一役買ったほか、アニメ関連のインフルエンサーが国や地域を超えて占いの結果をシェア。
8言語で展開され、140万インプレッションを獲得。最も反響が大きかったのが英語圏で、ポルトガル語圏、ブラジル語圏が続く。
この他には、クランチロールのホスト役を務めるTim Lyuと一緒に作品を見る会をTwitter上で開催(Tim LyuはARフィルターのインスタに登場している男性。彼が『神之塔』の英語オフィシャルTwitterを乗っ取ったという体裁で初回の実況がなされた)。
■クランチロール アジア担当コンテンツ戦略・事業開発ヘッドのジュリアン・ライハンへのメールインタビュー
――アニメ『神之塔-Tower of God-』が他の作品とプロモーション、PR施策で大きく異なる点があれば教えてください。
ジュリアン・ライハン:アニメ『神之塔-Tower of God-』は、クランチロールが自身のブランドを掲げた作品として展開するものの中でも初期の作品にあたります。
そのため、本作品を重要視し、細心の注意を払って展開をしているように見えるかもしれません。しかし、我々は他の多数のアニメーション作品も同様に大事にしています。クランチロールは世界最大のアニメコミュニティとして、素晴らしいアニメ作品を世界中のファンに提供することに最大限注力しています。
この文脈において言えば、『神之塔-Tower of God-』も我々の通常のアプローチの範囲内にあります。
――国際展開するにあたり、今回の成功のkeyとなったファクターは何だと考えていますか?
ジュリアン・ライハン:強力なプロモーションとローカライゼーション以外には、日本制作ということで、作品自体のクオリティが高く、原作(WEBTOON)の元々の人気の高さももちろん本作品の成功に寄与しています。
ストリーミングサービスとしてのクランチロールの強みはマーケティングにあります。我々はアニメに特化した堅牢なマーケティングチームを有しており、特にSNSを積極的に活用しています。オンライン上のファンと積極的に会話をし、エンゲージを高めるために、様々なクリエイティブ素材とキャンペーンを用意し、作品を管理している我々のパートナー各社と密にやり取りをしています。こういった活動のスケールとスピードが成功のカギとなっています。
アニメ『神之塔-Tower of God-』については、視聴数とコミュニティの反応にその結果をみることができます。
本作品が今シーズンよく見られた作品の上位にあることはすでにお話しましたが、週を経るごとに、SNSを通してファンのエンゲージメントが高まっていくのを見ることができたのはとても嬉しい体験でした。
アジア圏外、8言語でのサイマル配信に加え、コンテンツのローカライズにより、真に国際的なアプローチができたと考えています。
クランチロールは、配信以外にも商品化、ライブあるいはバーチャルイベント*の開催、クランチロール・ゲームズなど、360度全方位からのアプローチに取組んでいます。
- 毎年サンノゼで開催していたリアルイベントのCrunchyroll Expoは今年オンラインに場所を移してVirtual Crunchyroll Expo として開催される。
クランチロール
日本およびアジア担当コンテンツ戦略・事業開発ヘッド
ジュリアン・ライハン
Head of Content Strategy & Business Development, J-APAC, Crunchyroll
Julian Lai-Hung
6000万人が登録するアニメブランド・クランチロールにおいて、日本およびアジア地域のコンテンツ戦略、また事業開発の責任者を務める。既存および新規パートナーと新規事業創出の機会を見極めながら、オリジナルコンテンツ戦略と作品製作を推進。
過去にネットフリックスでは日本市場でのサービス立ち上げに始まり、コンテンツディレクターとして日本コンテンツとアニメを担当、オリジナル作品の製作、ライセンス提供、コンテンツ調達に携わった。『テラスハウス ALOHA STATE』『100万円の女たち』『GODZILLA 怪獣惑星』『クロムクロ』『炎の転校生REBORN』などの作品を担当した。
ワーナー・ブラザーズでは、国際配信事業およびグローバルセールス担当バイス・プレジデントとしてチームを率いた。
また、クランチロール入社以前は、ベンチャー投資会社Entrepreneur Firstのフェローを務め、世界最大のアニメグッズ検索エンジンを構築するAI/ブロックチェーンのスタートアップを設立している。
米ペンシルバニア大学ウォートン校でMBAを取得。現在は東京を拠点とする。
■同じ座組のアニメは2020年7月期にも
『神之塔』と同じく製作クランチロール、制作は日本のアニメ制作会社、原作は韓国ウェブトゥーンという座組で7月からはアニメ『THE GOD OF HIGH SCHOOL ゴッド・オブ・ハイスクール』の配信も始まる。
こちらもバトル・アクションものであり、日本の少年マンガが好きな層には刺さる作品になっている。
アメリカ・韓国・日本が組んだ作品が世界でどんな反応を起こすのか? 注視していきたい。