住宅ローン控除の改悪を招いた3000万円特別控除と知られざるマイホーム財テクとは?
働く世代のマイホーム購入を支援する「住宅ローン控除」について、2022年度以降の条件が悪くなりそうです。実は一部のマイホーム購入者にも原因があるようです。今回は、住宅ローン控除改悪の理由を解説します。
■改悪の最大の原因は金利と税額の逆ザヤ
今回の改悪の最も大きな原因とされているのが住宅ローンの逆ザヤです。住宅ローン控除は控除率が1%となっています。借入額の上限は4000万円、5000万円などマイホームの購入時期や、住宅の性能により変わりますが、年間で40万円や50万円などまとまった所得税が還付されます。
住宅ローン金利は低下が続いています。銀行の店頭金利とよばれる定価金利は変動金利で2.475%ですが、割引を適用しており直近では2%以上の割引を実施する金融機関があります。実際に0.3%台の住宅ローンも存在します。
借入金額が4000万円の場合は、簡易的な計算をすると4000万円×0.3%=12万円の金利負担です。(※実際は借入期間と借入金額により、上記計算より金利負担が増えるケースがあります。)
政府・会計検査院の調査では、住宅ローン控除の適用者の78%が変動金利を選択しており、逆ザヤで金利以上の所得税が還付されているそうです。昭和61年に住宅ローン控除ができた際は、旧住宅金融公庫住宅ローン金利が5.25%でしたから、金利負担を軽減するという趣旨に沿っていました。しかし、今や政府系住宅ローンである住宅金融支援機構のフラット35は1%台まで下がっています。
8割が逆ザヤという事実は、金利負担の減免だけでなく一部の住宅購入者に住宅購入に伴う給付金が毎年支給されることと同じです。指摘はコロナ以前からありましたが、給付金問題など特定層への過剰なメリットは正す必要があると考えているでしょう。
■知られざる財テク!居住用財産の3000万円特別控除と住宅ローン控除の二段活用
実は、会計検査院の調査を読み込むと興味深い人たちがいます。それが、住宅ローン控除の適用物件を一定期間後に売却し利益を得た人たちです。投資家と表現してもいいでしょう。
例えば、4000万円のマンションを購入し住宅ローン控除を適用させます。居住期間中は1%の住宅ローン控除を利用して、一定期間後に7000万円で売却したとします。通常、不動産の譲渡所得(売却した場合の利益)に対して、39%あるいは20%の所得税(保有期間による)が課せられます。
マイホーム売却の場合には、3000万円の利益まで非課税にするという、「居住用財産を譲渡した場合の3000万円の特別控除の特例」があります。東京都内の他、一部地域の住宅価格は上昇してきました。家を買った人が、住宅価格の上昇を幸いと、3000万円の特別控除を利用した可能性があります。そして、一部確信犯的に住宅ローン控除と3000万円特別控除を併用した人がいると考えられます。
誤解があるといけませんので説明しますと、制度の併用自体は脱法行為ではありません。むしろ、法律を熟知して上手に活用した事例と言えます。会計検査委員の調査では37名が抽出されましたから、実際はもっと多くの人が併用していると考えられます。
つまり、住宅価格の値上がりにより3000万円の利益を得られて、不動産の短期譲渡所得による39%の所得税を節税でき、住宅ローン控除で40万円×保有期間の所得税還付を受けることができたのです。このケースで変動金利利用による逆ザヤが発生していたとしたら、特例とはいえ、ごく限られた人しか利用できなかったことになります。
この方法は、方法を知っていたとしても、住宅価格が上昇しなければ実現しませんから、いろいろなタイミングが良かったと言えそうです。
■住宅取得資金贈与の特例を活用すれば3段階で得できる
さらにマイホーム購入時の贈与を活用することもできます。父母や祖父母から1000万円を受け取れる場合はどうでしょう。
住宅取得資金贈与の特例を活用し、1000万円を無税で受け取り頭金にします。住宅ローン4000万円で5000万円の物件を購入し、数年後に8000万円で売却し、3000万円特別控除を適用させます。保有期間中は毎年40万円の所得税の還付を受けられます。売却時に住宅ローンを完済しますが、物件価格8000万円―住宅ローン残高4000万円=4000万円が手元に残る計算です。
この場合は、父母や祖父母に資金のゆとりがある一部の家庭にしか適用できません。しかし、親の資金に恵まれれば、3段階でのメリットがあるのです。
税金のルールは「公平・中立・簡素」が原則ですが、住宅ローン控除や3000万円特別控除は例外です。しかし、日本の税制は複雑ですから、このようなチャンスに気づくことができない人が多かった可能性があります。建前は公平・中立・簡素と謳いながら、実際の税金のルールは複雑です。税理士でさえ全ての税法を完璧にマスターできない事実が税法の欠点を表していると言えるでしょう。
■正すべきは控除率でなく金利負担額
今回の住宅ローン控除改悪は、控除率を下げればいいのでしょうか。すでに述べたように、住宅ローンを金利0.3%台で借りられる情勢ですから、逆ザヤは続きます。すると、一部の人は引き続き得することになります。
ここで改正すべきは、控除率ではないと考えます。率で考えると、逆ざやの人が一定数残ってしまいます。金利負担の軽減を考えるのであれば、一年間に支払った実際の利息額を上限に、所得税を還付するだけで足ります。
金利が上下に変動した場合であっても、金利負担は緩和できますし、対応するのは金融機関側ですから、消費者の手間はそれほど増えないでしょう。
変動金利を選んだ人は変動金利分の税額控除。固定金利を選んだ人は上限1%相当の税額控除とすればいいのです。
税制改正大綱が閣議決定されるのは例年12月です。すでに各府省庁からの税制改正要望は出ていますから、興味のある人は令和4年度税制改正要望を一読ください。