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非正規社員の賃金が低いのは、日本だけ!

河合薫健康社会学者(Ph.D)
著作者: Lara Cores

企業は3年ごとに派遣労働者を代えれば、どんな業務でも、ずっと仕事を任せられるようになった。

派遣や契約などの非正規雇用がますます定着化し、数少ない“社員サン”のイスを就活生が奪いあうようになるのだろうか?

総務省の就業構造基本調査によると、初めて就職した際に非正規雇用だった人の割合は1987年10月~92年9月の13・4%から右肩上がりに増加し、2007年10月~12年9月は39・8%。

男女別では、男性の約3割、女性の約半数が非正規労働者としての採用だった。20年前に比べると、男性は3.6倍、女性は2.6倍に増加している。

最初に就く職業はその後のキャリア人生をも左右する、とても深刻かつ重要な問題だ。

なのに、正社員になりたいけどなれなかった人たちは、解雇されないために子供をあきらめ、「正社員」というニンジンをぶら下げられて、役職をもらえるまで走らされる。

私の知人のお嬢さんは新卒で非正規雇用となり、「1年後に成績が良ければ、正社員になれる」とニンジンをぶら下げられた。残業代が一銭も出ないにもかかわらず、彼女は毎晩サービス残業をし、上司や先輩に嫌われないようにと、どんなに体が疲れていようとも、頼まれた仕事を抱え込んだ。

そして1年後。彼女は正社員になれたのか?

答えはノー。いや、正確には自分の意思でならなかった。もともと持っていたアレルギー症状が過労とストレスでひどくなり、仕事を続けること自体が困難になってしまったのだ。

さらに、「新卒では契約社員だった人」ではなく、「新卒で正社員になれなかった人」といった「非正規社員」への偏見が、彼等を苦しめることもある。

新卒だけじゃない。

「前の会社では非正規だった人」という受け取り方ではなく、「前の会社で正社員になれなかった人」――。

「非正規社員=正社員になれる能力のない人」―-。といった具合だ。

某食品関連の会社に契約社員として勤める38歳の男性は、非正規ということで、相手の親から“結婚”をダメ出しされた。

「確かに正社員に比べれば 給料は低いです。でも、彼女も働いているので、共働きでやっていけば何とかなる。確かに安定もしていないでしょう。そのことに自分自身も不安がないと言ったらウソになります。でも、今のご時世、正社員だから安定していると言えるんでしょうか? 非正規だから収入が低く、将来も不安定と見られて、ダメ出しされるなんてショックでした」

正社員と非正規社員という、ただの雇用形態の違いが、今や、身分の違い、身分格差。この状態が、今回の法改正で、ますます広がる可能性は否定できない。

自己の利益を最大限守りたいという欲求を持つのが、人間だ。

ひとたび負け組の集団に属することになった人が、二度と自分たちの集団に這い上がってこられないような行動を無意識に取ることがある。

「今あるものを失うかもしれない」と恐怖を感じた時には、自分が生き残るために人を蹴落とすこともいとわない。それはまさしく、人間の心の奥に潜む、闇の感情が理性を超えて噴出した瞬間である。

ところが、“勝ち組”の枠内にいる人たちは、自分たちが自分たちの名声を守るために、下を蹴落としていることに気がつかない。それがまた、格差を広げさせる。

実際には、大企業の正社員でも、いつ勤務先の破綻に伴って失職するか分からない。将来の安定が保証されていないという点では、正社員も非正規社員も、今やそう変わらない。にもかかわらず、「正社員=安定」という図式が迷信のようにいまだに残り続け、その“偏見”が彼れらを余計に苦しめ、この先の暗澹たる将来もたらす可能性は否定できないだろう。

そもそも一体なぜ、「非正規社員の賃金は正社員よりも低くて当たり前」などという常識が、日本ではまかり通るようになってしまったのだろう。欧州諸国では、「非正規社員の賃金は正社員よりも高くて当たり前」が常識なのだ。

フランスでは派遣労働者や有期労働者は、「企業が必要な時だけ雇用できる」というメリットを企業に与えているとの認識から、非正規雇用には不安定雇用手当があり、正社員より1割程度高い賃金が支払われている。イタリア、デンマーク、オーストラリア、ニュージーランド、カナダなどでも、非正規労働者の賃金の方が正社員よりも高い。

これだけグローバル化だの何だのと言うのであれば、「非正規社員の賃金は正社員よりも高くて当たり前」という世界の常識に、日本も倣うべきなんじゃないだろうか。

世界の常識の背後には、国際労働機関(ILO)が掲げている、「同一価値労働・同一賃金」の原則がある。

「同一価値労働・同一賃金」の考えに基づけば、「解雇によるリスク」を補うには、非正規労働者の賃金は高くなって当然なのだ。

政治家のみなさん。本気で非正規社員の問題に取り組もうと思うなら、世界の常識に合わせれば済む話だ。

そして、私たちも常識を疑ってみた方がいい。非正規の賃金は低くて当たり前? 非正規は正社員になれなかった人? ってことを……。

健康社会学者(Ph.D)

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。 新刊『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか』話題沸騰中(https://amzn.asia/d/6ypJ2bt)。「人の働き方は環境がつくる」をテーマに学術研究、執筆メディア活動。働く人々のインタビューをフィールドワークとして、その数は900人超。ベストセラー「他人をバカにしたがる男たち」「コロナショックと昭和おじさん社会」「残念な職場」「THE HOPE 50歳はどこへ消えたー半径3メートルの幸福論」等多数。

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