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W杯出場へ侍ジャパン女子日本代表、強化合宿で一体感

中川路里香フリーランスライター

 『カーネクストpresents 第9回 WBSC女子野球ワールドカップ』へ向け5月24日から3日間、広島県三次市で強化合宿中だった侍ジャパン女子日本代表は、最終日となる26日も強化試合を行うなどし、全日程を終了した。

 午前中は打撃練習を中心に行い、午後からは東広島ボーイズとの強化試合に臨んだ。前日の阪神タイガースWomen戦同様、9イニング制、3回と7回はタイブレーク方式、再出場可という特別のルールでの試合は、12対9で侍女子が勝利し、強化試合2連勝を飾った。

理想的に得点を重ねた侍ジャパン

先制点、追加点、ダメ押し点が取れる作りを目指す中島梨紗監督のお眼鏡に適う攻撃を見せた。タイブレークの3回に集中打が出て7点を先制すると、4回には3番・川端友紀(九州ハニーズ)の3塁打で一死3塁から、4番・楢岡美和(九州ハニーズ)が初球スクイズを難なく成功させ追加点を奪った。選手を入れ替えた終盤にも追加点を入れるなど攻撃力が発揮された。また、相手野手がボールをこぼした隙を逃さず前の塁を奪う走塁も光った。
 試合後、中島監督は「打てないときにいかに塁に出て得点し自分たちのペースを作るかが肝心。その意味でスクイズやエンドランなど、いろんな戦術で得点できたのは良かった」と話した。

集中打をはじめ小技を決めながら大量得点した
集中打をはじめ小技を決めながら大量得点した

守備でも魅せる

 前日にも増して目を引いたのが守備だ。痛烈な打球が三遊間や三塁線を襲ったが、遊撃手の岩見香枝(西武埼玉西武ライオンズ・レディース)、三塁手の出口彩香(埼玉西武ライオンズ・レディース)らが内野ゴロに仕留めた。一塁ベースに付きながら一二塁間の強い打球にすかさず反応、スタートを切っていた一塁走者を二塁で刺した川端の好守もあった。相手チームの監督も「どれだけ練習を積めばあそこまでなるのか、かなり速い打球でも間を抜けない。あれだけ守られたら何も仕掛けられません」と感嘆していた。「子供たちにとって本当に良いお手本になりました」。

前日の反省を活かし一球一球丁寧に

 投手は5人が登板。先発した森若菜(阪神タイガースWomen)が3回1失点と好投、5回に3番手で登板した里綾実(埼玉西武ライオンズ・レディース)は内野安打で走者を許すも併殺で切り抜け無失点と、失点を許した前日から修正、落ち着いた投球を見せた。里は試合後、「前日は結果を欲しがって、早めにカウントを作りたい、アウトを取りたいと気持ちが先走ってしまった。今日は、ピッチャーだけでなく、守備全体で一つのアウトを取りに行くんだという姿勢で一球一球をより丁寧に投げた」と話した。

落ち着いた投球が光った里綾実投手
落ち着いた投球が光った里綾実投手

 中島監督は、「(男子中学生選手たちの)足が速かったので、普通のショートゴロ、サードゴロでアウトを取るのがギリギリになったし、併殺が取れなかった場面もあったりと、すごくいい練習になった」と話すなど、本大会では、足の速い選手がいることは十分に想定できるだろう海外チームとの対戦に役立つ一戦となったようだ。

悔しさをバネに森若菜が奮闘

 女子球界最速の129キロを投げる本格右腕、森若菜。今回、侍ジャパン女子日本代表に新たに加わったメンバーの一人だ。25日の阪神タイガースWomenとの強化試合で1回を投げ無失点、東広島ボーイズ戦では先発を任され、3回1失点と好投した。

持ち味を発揮した森若菜投手
持ち味を発揮した森若菜投手

 阪神戦での登板後、中島監督から「打者がどの高さで反応したのかを見て投げるよう」とのアドバイスを受けたが、東広島ボーイズ戦では127キロのストレートを絶妙な高さに投げ込み、空振り三振を奪う場面があった。ストレートだけじゃない。スライダーで2つの三振を奪ったのも魅力だ。
 中島監督は、投手陣については誰がどこの役どころかは決まっていないとしながらも、森の2日間の投球について「すごく良かった。頭でも後ろでもいけることが確認できた」と手応えを感じた様子だった。

 新型コロナウイルスで開催中止となった2020年でのW杯の代表入りした実績を持つ。しかし、昨秋のグループステージでは代表から漏れていた。合宿初日、「(代表入りできなかった)自分が悔しかった。その気持ちを忘れず、持っているもの全てをぶつけて頑張りたい。やるだけです」と語っていた。意気込み通り気迫あふれる投球を見せた。頼もしい戦力が加わった。

強化合宿で育めたチームの一体感

「全員でチームを作るという意識が見られ、かなりいい形で終えられた」。3日間の合宿を振り返り、中島監督はそう総括した。代表メンバー20人のうち6人が入れ替わり、選手たちには、もう一度、一からチームを作ろうと話していた。毎朝練習前、グランドに入るや否や、全員でハイタッチしながら挨拶を交わしたり、試合前の円陣ではオリジナルの掛け声を披露するなど、新戦力が早くチームに馴染めるような工夫が随所に現れていた。「アップからの雰囲気や練習中や試合中での声かけに対しての返事や反応が良く、一度言ったことがすぐにできるのは、能力が高い証拠だと思う」と、選手たちを称えた。

アップでは遊び心を取り入れた動きで盛り上がり、選手間はより一層和気あいあいとなった
アップでは遊び心を取り入れた動きで盛り上がり、選手間はより一層和気あいあいとなった

ベテランと若手が絶妙なバランス

 川端とともに主将を務める出口は、強化試合を通じて「守備から帰ってきて攻撃に入るときなど盛り上がらなきゃいけないところは一試合目よりも二試合目の方が、より良い雰囲気になってきましたし、チームは一つになれてきていると感じます。あとはいかに攻撃時に流れを掴めるか。ボールを弾いたりと相手守備の隙をついた走塁は、中島監督から常にいくよう言われていて、今日の試合ではそれができて流れを掴むという意味でも良かったと思います。海外のチーム相手だと守備の隙をつくのがすごく大事になってくるので本番をイメージして実践できた実のある合宿だったと思います」と話した。
 好守も見せた。「私自身、守備が持ち味ですし、日本の強みだと思います。1点しか取れなくても、相手を0点に抑えられたら勝てます。ピッチャーが打たれたとしても守備の乱れで無駄な点は与えない。しっかり守ってリズムをつくり攻撃につなげていく。もちろん得点しないと試合には勝てませんが、昨日のように先制された場合でも守備で粘った結果、逆転できたのだと思います」。

 自身、W杯4度目の出場となる。「新たに加わった6人は、何もかも初めての中で一生懸命やっていました。まわりが見えてじっくり構えるベテラン組と、積極的にいく若手とのバランスがとれている」と若手を見守る。短期決戦では、一試合ごとにチームは成長するもの。本番でのチームワークに期待したい。

強化試合後、笑顔でハイタッチを交わし互いを労う選手たち
強化試合後、笑顔でハイタッチを交わし互いを労う選手たち


7連覇への手応え

 W杯7連覇を目指し戦いに挑む、侍ジャパン女子日本代表。この強化試合では『決める』というテーマを掲げて戦った。本戦では、この一球で勝負が決まるという場面が出てくる。その時に自信を持ってプレーできるよう、本番さながらに臨む意図があったというが、実際に、阪神戦は終盤に逆転、東広島ボーイズ戦では一挙7得点と攻撃力のあるところを見せた。中島監督は「勝負強い選手が多く、一球で決めてくれた場面もあったし、しっかり繋いでくれた。野手陣の気持ちの強さが見られた」と称えた。一方で、四球絡みで失点する場面が目立ち「投手陣には課題が残った。これからどう調子を上げていくのか、そのためにどう練習していくのかをもう一度見直して夏までに磨いて欲しい」と話した。

 本番まで約2か月。次に全員が集まるのは大会直前合宿で、そのまま大会に臨む。それまでは選手たちは自チームで個々に調整をしていく。「(今回の合宿中)調子が良かった選手は、その理由を理解した上で調子を維持し、大会でも力を出せる状態にしておいて欲しい。調子が上がってこなかった選手は、時間はまだあるので、この間に万全な状態に仕上げて欲しい。この期間をどう捉えるかは個人しだい」と語った。

 合宿中、どのメニューにも高い集中力を以て練習に取り組む選手たちの姿があった。短い時間ではあったが非常に濃密な練習ができたことは想像に難くない。高度なプレーも見せてくれた。勝負事は勝つか負けるか確率5割だが、侍ジャパン女子日本代表の7連覇に期待せずにはおれない。

チーム一丸となって世界一に挑む
チーム一丸となって世界一に挑む

(撮影は全て筆者)

フリーランスライター

関西を拠点に活動しています。主に、関西に縁のあるアスリートや関西で起きたスポーツシーンをお伝えしていきます。

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