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いよいよ明日は全米オープン最終日。ウルフ、デシャンボー、松山英樹。メジャー制覇のカギは果たして何か?

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
今度こそ!?その想いと過去の豊富な経験を携え、最終日は後ろから2組目で戦う松山(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 全米オープン3日目は「ムービングデー」の呼び名が示す通り、リーダーボードの上段の顔ぶれが大きく入れ替わった。

 

 2日目に単独首位だったパトリック・リードは、この日、7オーバーを喫し、通算3オーバーとなって11位タイへ後退。2日目に3位タイだったジャスティン・トーマスは6つスコアを落とし、通算4オーバーで17位タイへ後退した。

 3日目にリーダーボードを駆け上がったのは、5アンダー、65をマークして通算5アンダー、単独首位へ浮上した21歳の新鋭、マシュー・ウルフだった。

 27歳のブライソン・デシャンボーは、3日目はスコアを伸ばせなかったものの、イーブンパーとこらえ、通算3アンダーでウルフから2打差の単独2位。全英オープン覇者のルイ・ウエストヘーゼンがスコアを2つ伸ばし、通算1アンダーで単独3位。

 そして、日本の松山英樹はイーブンパー70で回り、通算イーブンパー、4位タイで最終日を迎えることになった。

【型破り、常識破り!?】

 2日目にリーダーボードの上段に付け、優勝の最有力候補と見られていたリードとトーマスは、なぜ3日目に大きく崩れたのか。

 どちらも深いラフに翻弄され、難解なグリーンに苦悩し、首を捻ったり、顔をしかめたりの連続だった。ラフやグリーンに苦悩してスコアを落としたことは言うまでもない。しかし、そうした物理的なハードルを云々する以前に、彼らは精神面のハードルに躓いていたのだと思う。

 リードはマスターズ・チャンプ。トーマスは全米プロ・チャンプ。どちらもすでにメジャー優勝の格別の味を知っている。その特別感、恍惚感、優越感は、メジャーを制したものだけが得られる特権で、それらが活かせれば百人力となるのだが、その味を知っていることが、その後のメジャー大会の肝心の場面で余計なプレッシャーと化すことは、しばしばある。

 一方、ウルフやデシャンボーはメジャー未勝利。ウルフに至っては、今大会がわずか2度目のメジャー出場で、全米オープンは初出場だ。メジャーを戦う上で経験不足な面は多々あるだろうが、「怖いモノ知らず」のパワーを存分に発揮できる「最も恵まれた立場にある」と言うこともできる。

 そう言えば、デシャンボーは2日目終了後、「言うべきことは1つ。必要なのは、この全米オープンでいいプレーを続けるぞという勢いだ」と言っていた。「落としても奪い返すぞ」という執念、コースの状態がどうであれ「スコアを伸ばすぞ」という向上心、そして「勝つぞ」という渇望を総称して、彼は「勢いで勝利を目指す」と言った。

(参考:https://news.yahoo.co.jp/byline/funakoshisonoko/20200919-00199026/)

 3日目のウルフのゴルフは、まさにデシャンボーが言った「勢い」そのものだった。この日、ウルフのドライバーの平均飛距離(344Y)はランク2位を誇っていたが、フェアウエイを捉えたのは、14ホール中、たった2回だけ。それでも12のグリーンをレギュレーションで捉え、次々に沈めたパットは、ランク6位を誇った。

 パワフルなショットで、どこからでも攻め、ラフをモノともしないアグレッシブなプレースタイルは「勝つためには経験が必要」「メジャー未勝利で経験不足は不利」という一般論を覆し、不利を不利にしない斬新なスタイルへと昇華している。

さらに言えば、ウルフもデシャンボーも、きわめて個性的なスイングを武器にしている。

 この2人を見ていると、教科書的な美しいスイングや、「メジャーで勝つためには経験が必要」というゴルフ界の常識は、必ずしも必要ではないと思えてくる。

【「感情を先走らせなければ、、、」】

 とはいえ、ウルフは単なる「怖いモノ知らず」というわけではなく、何の経験もない未熟者というわけでは、もちろんない。

 プロ転向したばかりの2019年に米ツアーの3Mオープンで早々に初優勝を挙げている。そのとき、ウルフが1打差で抑えたのは、デシャンボーとコリン・モリカワだった。

 メジャーに初めて出場したのは、先月の全米プロだった。その全米プロではいきなり優勝争いに絡んだが、「勝ち急いだ」と振り返った彼は、残念ながら4位タイ。そのとき勝利したのは、やはり大会初出場だったモリカワだった。

 ウルフが積んだ経験は、他のベテラン選手たちと比べれば確かに少ないが、その密度はなかなか濃い。勝利の喜びも惜敗の悔しさも味わってきた。そして彼は、何よりモノを言うのは経験云々ではなく、メンタル面であることをすでに知っている。

初めての全米オープン最終日を最終組で回る明日の日曜日。

「何が起こるかわからないし、何だって起こりうるけど、冷静であり続け、感情を先走らせなければ、勝つチャンスは十分にある」

【「経験」を活かして戦う松山】

 過去の「経験」に着目すれば、松山にはウルフやデシャンボー以上に多くの経験がある。

 メジャー大会での優勝争いの経験の始まりは2013年の全英オープンだった。あのときは、「怖いモノ知らず」というよりは、右も左もわからない若者で、本当の意味で優勝に迫ったわけではなかったが、それでも6位タイに食い込んだ。

 だが、その後のメジャーでの優勝争いは、現実的に勝利に迫った。2015年のマスターズは5位、翌年のマスターズは7位タイだった。

2017年の全米プロは、最終日の前半が終わるまでは「勝利は松山のものだ」と誰もが信じていた。

 しかし、後半は別人のようなゴルフに一変した。たった1打の小さな狂いが歯車を大きく狂わせるメジャーの優勝争いの本当の怖さを、あのとき松山は痛感させられ、そして号泣した。

 その怖さ、その経験は、果たして明日の最終日、松山のゴルフに、どう作用するのか。

 英語のインタビューで「過去の経験」について問われた松山は、その経験を活かして最大限こらえていきたいのだと、我慢のゴルフに挑む強い戦意を漲らせていた。

【ドリーム・スモールで戦うべし!?】

 詰まるところ、「経験」の有無や数は、勝敗を左右しているようで、それら自体が勝敗を左右するわけではない。大切なのは、経験の有無や数を自分がどう受け止め、どう活かすか、どこまで活かせるかである。

 経験不足やメジャー未勝利を「少ない」「無い」とネガティブに捉えれば不利になり、「無い」からこそ恐れを知らずに攻められると捉えれば、「怖いモノ知らず」的なパワーは逆に有利になる。ウルフやデシャンボーが漲らせている「勢い」は、まさにそれだ。

 そして松山は、メジャーで味わった数々の優勝争いと、期せずして増えてしまった幾度もの惜敗の経験を活かして、今度こそ、メジャー初優勝を狙う。

 誰にとってもカギになるのは「気落ち」の持ちようだ。

 米TVのアナリストで1993年全米プロ覇者のポール・エイジンガーがこう言っていた。

「抱いている夢はビッグだが、明日の最終日は、その夢を膨らませ過ぎず、ドリーム・スモールで戦うべし」

 サンデー・アフタヌーンの難敵は、深いラフや難解なグリーンより、むしろ「経験」と「メンタル」のコントロール。ウイングドフットで最後に笑うのは、果たして誰か――。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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