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『虎に翼』の星家で「この人たちを好きになれない!」と爆発したのどか役。号泣シーンの裏と子役からの刺激

斉藤貴志芸能ライター/編集者
『虎に翼』で星のどかを演じる尾碕真花 (C)NHK

『虎に翼』で東京に戻った寅子が、「永遠を誓わない愛」を育んだ航一との生活を模索している。娘の優未と共に航一の生家の星家で暮らし始めた。先週は、2人を受け入れたように見えた航一の娘ののどかが、家族に対する本音を吐き出すシーンが話題を呼んだ。演じているのは尾碕真花。「全日本国民的美少女コンテスト」からスーパー戦隊シリーズのヒロインなどを経て、初の朝ドラ出演。名シーンの裏側などを語ってもらった。

難しい名前が浸透したら嬉しいです

――『虎に翼』で尾碕真花さんを知った人もいると思うので、改めてうかがいますが、“おさきいちか”というお名前は読み方が珍しいですよね。

尾碕 名字も名前もちょっと難しいんですよね。名前は親から1字取って、「真実の花のようにウソのない人になってほしい」という意味が込められているそうです。読み方を“いちか”にするか“いつか”にするか悩んだ結果、“いちか”にしたと聞きました。

――初めてだと、なかなか正しく読まれないのでは?

尾碕 高知出身で地元では小学校、中学校とずっと一緒の友だちばかりだったので、あまり珍しいと思われることはなかったんです。東京に来て気づいたのが“おざき”と濁る人が多いですよね。西日本だと“おさき”が多いみたいで、名字を読み間違えられることはなくて。上京したら「おざきさん」とよく言われるので、そっちにビックリしました。

――自分ではお気に入りの名前ですか?

尾碕 画数が多いんですけど、珍しい分、1回覚えていただければ忘れられないかなと。いい名前だと思っています。

――「全日本国民的美少女コンテスト」の先輩の武井咲(えみ)さんのように、さらに有名になったら普通に読まれていそうですね。

尾碕 “いちか”が浸透すれば嬉しいです。

(C)NHK
(C)NHK

オーディションは落ちたと思ってました

――自分では朝ドラは観ていました?

尾碕 小・中学生の頃によく観ていました。一番ハマったのが尾野真千子さんの『カーネーション』。あとは『梅ちゃん先生』や『あまちゃん』も好きでした。

――尾野真千子さんは今、『虎に翼』でナレーションをしていますね。学校に行く前に観ていたり?

尾碕 録り溜めて、夕ごはんを食べながら、家族とまとめて観ていました。

――デビューしてからは、これまでも出演者オーディションは受けていたんですか?

尾碕 何度か受けさせていただいたことはあります。今回は去年の夏ごろ、主演は伊藤沙莉さんと決まっていた段階で受けました。

――のどか役ということで?

尾碕 役は決まってなくて、おそらく『虎に翼』と関係ないシーンの台本で、ひとり芝居をしました。それで、のどか役をやると決まったのが、今年の春ごろでした。

――オーディションから、だいぶ時間が経っていたんですね。

尾碕 もう落ちたと思っていたので、ビックリしました。最初は「私が朝ドラに出て大丈夫かな?」と不安でした。でも、『虎に翼』を1話から一気見したら、すごく面白くて。ここに参加できるんだと思ったら、ワクワクしてきました。

父にドッキリで「ダメだった」と

――ご両親にはすぐ報告を?

尾崎 マネージャーさんから「決まったかもしれない」という電話をもらったとき、ちょうど両親が東京に来ていたんです。その段階では、期待して「やっぱりなくなった」となるのもイヤだったので、「決まったかもしれないし、決まってないかもしれない」と予防線を張って伝えました。1週間後くらいに事務所で「正式に決まった」と聞いて、家に帰ってから、父に「やっぱりダメだった」というドッキリをしました(笑)。

――なんでそんなことを(笑)。

尾碕 ただの悪ふざけです(笑)。父は落ち込んでしまって、ネタばらしで「本当は受かったよ」と話したら、「良かった、良かった」と言ってくれました。いいタイミングで直接報告できて良かったです。

――『虎に翼』を観て、作品としてはどんな印象がありました?

尾碕 時代は今と違えど、刺さる言葉がたくさんあります。自分が生まれるよりずっと前の話で、知らないことも多くて。女性が就けない職業があったのは驚きました。この時代の女性たちの頑張りのおかげで、今があるんだと感じました。

ウソにも本心にも見えたらいけなくて

――のどかは「心を開いていない」「周りとあえて溝を作る」「目が笑ってない」などと、台本のト書きにあるキャラクターです。演じるうえでの難易度はどんなものですか?

尾碕 人と距離を詰めるより距離を取るほうが、私自身の性格もあってやりやすいので、そこで難しさはあまりなかったです。ただ、作り笑いや愛想笑いをしたり、場を円滑にするために本心と違うことを台詞に乗せるのは、大変でした。

――大人の対応的な言動が多かったですね。

尾碕 どこまで伝わるようにするか。ウソをついているように見えてもいけないし、本心に見えてもいけない。どのくらいの割合にするか、監督と細かく相談しながら進めました。

――その辺は技術的なことも要るんですか?

尾碕 簡単なことだと目を合わせないとか、考えているときに間が空くとか。台詞を発するまでのスピード感を調節したところはあります。あと、目の光、ハイライトみたいなものをなくすのが難しかったです。

人との距離に線引きするのは似ています

――真花さん自身は普通によく笑っているタイプでは?

尾碕 そうですね。ゲラなので何でも笑っちゃいます(笑)。

――でも、人との距離は取るほうだと。

尾碕 すごくおしゃべりですけど、距離がグッと縮まるかと言えば、そうでもなくて。線を引く場所は、のどかほど自分から遠くはないですけど。

――役者さんは自分と近い役ばかりやるわけではありませんが、のどか役になぜ自分が選ばれたのか、プロデューサーさんに聞いたりはしました?

尾碕 聞いてません。ただ、寅子さんたちとのわだかまりが解けたあとは、ちょっと私に近い部分もあります。もしかしたら、そこまで見越したうえで私だったのかなと、思ったりしています。

気持ちを作るとかえって泣けないので

――寅子と優未を受け入れているようだったのどかが、突然「どうしても好きになれないの、この人たちが」と爆発。優未の提案で麻雀勝負をして、「気がつくと真ん中に2人がいる」などと本音をぶちまけたシーンは、見せ場になりました。

尾碕 撮影では一発で決めたい気持ちがありました。自分の経験上、「泣けなかった。もう1回」と何度もやると、よりできなくなるのがわかっていたので。

――実際、一発で決めたんですか?

尾碕 はい。最後に私だけが泣くシーンだったので、1回で済むように、監督やスタッフの皆さんが気づかってくださいました。

――撮る前は集中して気持ちを高めていたり?

尾碕 普通に笑っていました。これも経験から、「今日は泣く日だ。気持ちを作るぞ」って気負いすぎると、プレッシャーで筋肉も固まって、泣けなくなってしまうことに気づいたんです。ギリギリまで自然体の尾碕のままでいて、本番になったら、皆さんのお芝居や台詞を100%吸収することに集中する。そのほうが気持ちが入りやすいなと。

――周りがまた、気持ちが入りやすい芝居をしてくれたんでしょうね。

尾碕 そうなんです。伊藤さん、岡田(将生)さんを始め、皆さんの空気があってこそのシーンになりました。

(C)NHK
(C)NHK

カットが掛かっても涙が止まりませんでした

――今までの作品でも泣くシーンはありましたが、今回はまた特別だった感じですか?

尾碕 最近、泣くお芝居が多くて、台本に「涙を流す」と書かれていると、少し不安になっていました。高校生の頃に一度、うまく泣けなかったのがトラウマで、苦手意識があったんです。それ以来、試行錯誤をして、最近は気負わず泣けるようになってきましたけど、『虎に翼』であのシーンを撮ったときは、カットが掛かっても涙が止まらなかったんです。感情がお芝居を超えてしまって。また新たな経験ができました。

――父親の航一に「何が食べたい?」と聞かれての涙でした。

尾碕 台本では泣くことになっていましたけど、前日に急きょ、のどかのそれまでの感じから「泣かなくていいんじゃない?」という話になったんです。お父さんに「何が食べたい?」と聞かれて、前のくだりから「プリン」と答えて、ハハハと笑ってもいいかもねと。私もひと晩考えて、確かに泣く必要はないのかなと思って、翌日現場に行ったら「やっぱり泣きましょう」となりました。直前まで「どっちにしよう?」と迷っていたから、頑張って気持ちを作ったというより、その場で皆さんとのお芝居に身を任せました。

――それだけに、ナチュラルな涙のシーンになったわけですね。

尾崎 そうです。自分の気持ちが自然に動かされました。

『虎に翼』公式Xより
『虎に翼』公式Xより

『ONE PIECE』の感動シーンを観あさって

――普段は泣くことはありますか?

尾碕 アニメやドラマを観ていて、すぐ泣いてしまうので、涙もろいほうだと思います。でも、自分自身のストレスや思い悩んで泣くことは、ほとんどありません。

――どんなアニメで泣きました?

尾碕 『ONE PIECE』ですね。泣く箇所がたくさんあります。涙を流してストレス発散しようというとき、『ONE PIECE』の感動シーンだけ観あさって、泣いていたりもします(笑)。

――たとえば、どんなシーンで?

尾碕 ナミの「ルフィ、助けて」とか、ロビンちゃんの「私も一緒に海に連れてって!」とか、サンジの「長い間くそお世話になりました」とか。もう、あらゆるところですね(笑)。最近のワノ国編でもそうですし、何回観ても泣けるんです。

自分を置いてにぎやかになるのが許せなくて

――のどかがぶちまけたシーンで、言っていることはわかりました? 自分の居場所が壊されていくような気持ちとか。

尾碕 そうですね。寅子さんと優未ちゃんに家を乗っ取られていくように感じたり、お父さんが出会って数年の2人に心を開いているのが悔しかったり、気持ちはわかりました。台本を家で読んでいたときから、泣けた部分がありました。

――自分にも覚えがある気持ちだったとか?

尾碕 それはないんです。だから、共感とはちょっと違うかもしれません。イチ視聴者として感情移入しました。うちはもうにぎやかで、どちらかと言うと寅子さんの実家の猪爪家に近くて。のどかは自分の家が自分を置いてにぎやかになっていくのが、許せなかったんだと思います。

――お父さんにかわいがられている優未に、羨ましさもあったようですね。

尾碕 実の娘の自分にしてくれなかったことを、優未ちゃんには全力でしてあげているのは、許せなかったでしょうね。近い関係だと、お姉ちゃんが妹に嫉妬する感じなのかなと思いました。その気持ちは経験なくても、何となくわかります。

気持ちがあちこち行かないのは助かります

――『虎に翼』の撮影で、朝ドラならではだと感じたこともありますか?

尾碕 ドラマでも映画でも、なかなか順撮りはできないんです。ロケ地の都合とかキャストさんのスケジュールとかいろいろあって、最後のシーンを撮ってから最初に戻ったりとバラバラ。朝ドラはロケが少なく、セットをたくさん組んであって、基本、順撮りにしてくださいます。気持ちがあっちこっちに行かないで繋がりやすくて、ストーリーの流れも思い出しやすい。それはすごく助かります。

――これも朝ドラあるあるですが、岡田将生さんは実年齢では、お父さんという感じではないですよね。

尾碕 11歳差です。すごくおきれいな方で、前室で隣りに座っていると、お父さんには見えなかったりします。でも、セットに入って役になったら、やっぱりお父さんなんですよね。

伊藤沙莉さんの台詞があまりに刺さって

――全体的に、のどかとしての撮影は順調に行ってますか?

尾碕 台本を読んで軸を作って、この台詞はこうと気持ちの整理を付けておけば、現場に入ったら周りの方が自然と引っ張ってくださいます。自分で感情を作らなければ……みたいな苦労はないですね。

――伊藤沙莉さんの演技はやはりすごいですか?

尾碕 すごいです。のどかが感情を爆発させるシーンでも、私は新鮮な気持ちで本番に臨まないと冷めてしまうというか、役が人ごとになってしまうんです。今回は絶対そうしたくなかったので、テストまでは20%くらいの力で台詞を言うだけにしていました。それで本番で伊藤さんの台詞を聞いたら、あまりにも言葉が刺さってしまって。そういうお芝居の影響はすごく受けています。

――自分も刺さる台詞で返そうと?

尾碕 それをしなければいけないと、『虎に翼』の現場に入ってから、すごく思います。今は引っ張ってもらっている側でも、これから年齢を重ねていくにつれて、自分が引っ張る側にならなければいけない。力を付けて、経験を重ねるしかないですね。

(C)NHK
(C)NHK

評価が変わった手応えはまだありません

――『虎に翼』は真花さんの女優人生の中で、何度目かの転機になりそうですね。

尾碕 事務所に入って、アイドルグループをやって、『(騎士竜戦隊)リュウソウジャー』に出て。次の転機が『虎に翼』になると思います。その前の4~5年でも、気持ちの変化はありましたけど、朝ドラが決まったと情報解禁しただけで、SNSに4年ぶりにコメントしてくださった方もいました。それだけ大きい作品ということですよね。

――『リュウソウジャー』から『虎に翼』までの間では、どんな作品が印象に残っていますか?

尾碕 WOWOWの『早朝始発の殺風景』というドラマでは、普通の高校生役がほぼ初めてだったんです。家庭環境が悪いとかお嬢様とか、突飛な役が多かったので。長い台詞をテンポ良く回す会話劇で、キャラに頼れなくて台詞のみにかかっている。難しさも感じましたし、同世代のキャストから受けた刺激も多々ありました。

――大きく見れば、女優の道を着実に歩いている感じですか?

尾碕 自分ではまだ、そこまで手応えを感じられません。この『虎に翼』を機に、さらに注目していただけたら嬉しいです。

本番に強いと言えるようになりました

――自分のアイデンティティというか、強みが見えてきたりもしていませんか?

尾碕 最近やっと「本番に強い」と言えるようになりました。何回もテイクを重ねていた時期もありましたけど、それはなくなってきて。力を出すべきときに発揮できていると思います。

――経験を積んで、そうなったんですか? 努力してきたこともあって?

尾碕 どちらもありますけど、自分に合うやり方が徐々に見つかりました。ガチガチに準備して本番に挑むより、直前までちょっと力を抜いていたほうがいい。『虎に翼』で本番でしっかり気持ちを入れ替えるやり方をして、確信を持てました。

――演技で大事にしていることもありますか?

尾碕 1回は理論立てて考えることですかね。自然体で現場に行くとしても、なぜこういう台詞を言うのか、役がどんな性格なのかは、きっちり押さえておく。そのうえで生まれる自然体だと思うので。

中1の毎田暖乃ちゃんの仕事ぶりにビックリ

――自分でドラマや映画を観て、影響を受けたことはないですか?

尾碕 中学生でも小学生でも、年下でお芝居が上手な子を見ると、影響を受けます。自分も頑張らなければと思って。

――『虎に翼』で優未役の毎田暖乃さんも、天才子役と言われてきました。

尾碕 現場でも中学1年生とは思えないくらい、しっかりしているんです。オフで話してくれるときは、中学生らしくてかわいくて、セットに入ると、台詞をどう言うか自分から案を出してきたり、私とのお芝居で「こうやっていいですか?」と相談してくれたり。中学1年生でそんなことできるの?とビックリさせられます。

――やっぱりそうなんですね。

尾碕 私がやっとできるようになったことを、もうできるんです。私は小学6年生で事務所に入って、中学1年生のときはまだ演技レッスンを受けて「難しくてイヤだな」と思っていましたから(笑)。暖乃ちゃんは本当にすごい。自分が通ってきた年齢を今生きている子たちを見ると、比較がわかりやすいので刺激になりますね。

挑戦する機会が増えるならワクワクします

――自分より上の世代の役者さんを見て、「こういうふうになりたい」と思ったりは?

尾碕 いろんな作品を観ますが、遠い存在のような気がしてしまって。最近だと、Netflixの『地面師たち』がとても面白かったです。でも、キャストの皆さんとは立っている土台も積み重ねてきたものも全然違うので、自分がそうなることはまだまだ想像ができません。あと、韓国ドラマもよく観ていて「こんなお芝居をしてみたい」と思います。

――どんな韓国ドラマが好きなんですか?

尾碕 『ザ・グローリー』は人生で一番好きなドラマかもしれません。「こうなりたい」というのも強く思いました。韓国は最先端。撮り方もカット割りも、すごく勉強になります。

――真花さんは女優のキャリアは8年くらいで、これから広がっていくことが多そうですね。

尾碕 幅を狭めず、いろいろなことに挑戦できたらいいなと思います。そういう機会がどんどん増えるのであれば、ワクワクしますね。

オスカープロモーション提供
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Profile

尾碕真花(おさき・いちか)

2000年12月2日生まれ、高知県出身。2012年に第13回「全日本国民的美少女コンテスト」で審査員特別賞。2016年に女優デビュー。主な出演作はドラマ『騎士竜戦隊リュウソウジャー』、『鎌倉殿の13人』、『早朝始発の殺風景』、『この素晴らしき世界』、映画『血ぃともだち』、『4日間 FOUR DAYS,TOKIO』など。ドラマ『虎に翼』(NHK)、『恋愛バトルロワイヤル』(Netflix)に出演中。

連続テレビ小説『虎に翼』

NHK/月~金曜8:00~

公式HP

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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