法律に基づいて謝罪するということ(橋下市長を例に)
朝、ニュースを見たら大阪市の橋下市長が頭を下げていてちょっとびっくりしました。
二年半前の労組の謝罪
二年半前、大阪市の橋下市長は、市の職員の労働組合が庁舎内で政治活動を行っていた件について、労働組合の代表者に謝罪をさせました。その際、報道機関のテレビカメラの前で深々と謝罪させたんですよね。
大阪市交通局の職員が勤務時間中に労働組合活動をしていた問題で、市労働組合連合会(市労連)の中村義男執行委員長が4日、橋下徹市長を訪問、職員が加入する大阪交通労組(大交)が市庁舎内で政治活動をしていたことを認め「当然あってはならないこと。組合として責任を感じている」と謝罪した。
市労連は昨年11月の大阪市長選で平松邦夫前市長を支援。職員は市長選の「お礼」のため12月20日、勤務時間中に別の職場に出向いて組合活動に従事していた。
2012/01/04 12:46 【共同通信】
今回は「謝罪」がテーマなので、あえてリンク先の写真を引用すると、以下のようになっています。
ただ、この謝罪は、当時の圧倒的な政治的な力関係の差を利用して頭を下げさせたものであり、法律に基づくものではありません。法律相談を受ける中でも「相手に謝罪させたい!」という方はよくおられますが、法律上、相手方に謝罪をさせられるのはごく限定的な場合で、ほとんどの場合は法律に基づく謝罪というのは不可能です。
時はめぐって二年半後・・
そして昨日、橋下市長は市の職員労組に対して、逆に頭を下げました。朝日新聞が記事を出したので引用します。
南彰
朝日新聞 2014年8月7日07時19分
大阪市が職員約3万人に実施したアンケートを「不当労働行為」と認定した中央労働委員会の命令確定を受け、橋下徹市長は6日、市労働組合連合会(市労連)を訪ね、「職員、組合員の皆さんに大変ご迷惑をおかけしました」と述べ、謝罪した。橋下氏は中労委の命令通り、再発防止を誓う文書を手渡した。
橋下氏は「このような行為を繰り返さないように、厳に慎みながら市政運営に努めていきたい」と語り、深々と頭を下げた。市労連の上谷高正執行委員長は「中労委の判断を真摯(しんし)に受け入れて対応された」と返答。握手は交わさず、面会は2分ほどで終わった。
アンケートは2012年2月、政治活動や組合活動への関わりを問う目的で実施。中労委は今年6月、橋下氏の業務命令で回答を強制したことを問題視し、「市には組合を弱体化する意図があったと推認できる」として違法性を認定した。
記事中にもありますが、この謝罪は、橋下市長が市の職員に対して、労働組合の弱体化を図るために職員に対してアンケート調査を行ったことに関するものです。労組攻撃という側面の他にも、職員に対して政治活動に関してアンケートをし、業務命令で回答を求める、という、憲法が定める思想良心の自由に対する侵害行為でもありました。これまた、今回は「謝罪」がテーマなので、リンク先の記事の写真を引用すると以下のようになっています。
プライドの高そうな橋下市長が深々と頭を下げているのが印象的です。そして、この謝罪は、法律の中でも、数少ない、正式に謝罪を求められる、労働組合法の規定に基づいています。
(救済命令等)
第二十七条の十二 労働委員会は、事件が命令を発するのに熟したときは、事実の認定をし、この認定に基づいて、申立人の請求に係る救済の全部若しくは一部を認容し、又は申立てを棄却する命令(以下「救済命令等」という。)を発しなければならない。
条文上は「謝罪」という言葉は出てきませんが、労働組合が使用者が不当労働行為(例えば組合の弱体化を図る行為)をしたことについて。労働委員会に対して、不当労働行為の停止や、謝罪をするように救済命令の申し立て請求ができ、それに対応して労働委員会が、救済命令として、使用者に行為の停止や謝罪を命じることができるのです。使用者が不当に団体交渉に応じない場合などにもこの手続を利用できます。今回は中央労働委員会が出した不当労働行為の救済命令が確定したことに伴う法的な謝罪なのです。
もっとも、謝罪は、謝罪文の交付や掲示によることが多く、実際に経営者が頭を下げるところまで要求することはないと思います。謝罪の面談は2分で終了した、とのことですが、これらも、橋下氏の何らかの行動哲学に基づく行為なのでしょうか。それにしても、2年半経ってのこの謝罪の応酬を見るにつけ、中島みゆきの「時代」が頭を駆け巡りました。
なお、このアンケート調査に深く関与してるといわれる野村修也氏(中央大学教授、政府審議会の委員を多数。大学での紹介文はこちら。)の動向も注目されるところですね。
2014.8.7追記
大阪市労連のホームページに橋下市長が手交した謝罪文が掲載されていたので、引用します。というか、短!