Yahoo!ニュース

山崎育三郎、ミュージカル俳優として挑んだギリギリの覚悟!

島田薫フリーアナウンサー/リポーター
「求められた場所で輝ける人でいたい」と語る山崎さん(撮影:すべて島田薫)

 2021年、「好きなミュージカル俳優」の1位に選ばれた山崎育三郎さん。8日に帝国劇場で開幕する『モーツァルト!』で、約2年ぶりに舞台に帰ってきます。一方、NHKの朝ドラ『エール』では、“プリンス”佐藤久志役が大当たり。今やミュージカルから映像作品まで引っ張りだこですが、ミュージカル出身の彼がなぜテレビでの仕事を増やしたのか。活動の幅を広げた覚悟と理由を聞きました。

-去年は大ブレイクの1年でしたね。

 朝ドラ『エール』に出演したことはすごく大きくて、「栄冠は君に輝く」という甲子園のテーマソングを、甲子園球場でアカペラで歌ったことは忘れられません。子供の頃からずっと野球をやっていたので、甲子園は夢のステージでした。それが去年、(新型コロナウイルスで高校野球が)中止になり、直後にこの歌唱シーンの撮影があったんです。

 ドラマでは、(演じる)久志がどん底まで落ちて這い上がって、あの楽曲で自分を取り戻すシーンだったのですが、甲子園で夢を追いかけることがかなわなかった球児たちの思いも重なって、より一層こみ上げてくるものがありました。そうしたら放送時に大きな反響をいただいて、「紅白歌合戦」でも歌わせていただけることになり、僕にとって忘れることができない1年となりました。

-ここ数年、映像の仕事が続いていますね。

 映像の仕事を始めたのは5~6年前です。ミュージカル俳優の(井上)芳雄さんと健ちゃん(浦井健治)と、僕らの世代でミュージカル界を盛り上げよう!という思いで、「StarS」というユニットを結成してコンサートを開き、盛り上がってきてはいたのですが、やはりミュージカルというジャンルの中での話で、お茶の間にはなかなか届きづらい。誰かが新しい一歩を踏み出して、懸け橋のような存在になれたらと考えていたことがきっかけです。

 また、僕は12歳からミュージカルの世界にいて、高校生の時に「30歳までに『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』『モーツァルト!』『エリザベート』に出る!」を目標に掲げました。この4つは帝国劇場で上演されていて、いつもお客様が熱狂して観てくださる作品なのですが、29歳の時にそのすべてに出演することができました。そして、目標達成を機に、映像の世界にも挑戦することを決意しました。

 でも、ミュージカルに出ていたからといって、映像の世界で活躍できる保証はどこにもない。各方面から心配の声もいただきました。たしかに、ミュージカルをやりたい人も多いけど、それ以上にテレビで活躍したい人は多くて、そこに僕が1人で飛び込んでも、賭けでしかないんです。

-成功できた理由は何だと思いますか?

 覚悟です。舞台の仕事をセーブするという覚悟を持ったんです。それまで、多い年で年間5本やっていた舞台を1本に変えました。それは大きな決断で、やっとミュージカルでお話をいただけるようになったのに、そのタイミングで仕事をなくすのは本当に怖かったです。なくしたからといって、テレビの仕事が入る保証があるわけではないですからね。

-そこまでの覚悟で臨んだのはなぜ?

 リスクがあるものにしか、新しい世界は広がらないと思っているからです。ラッキーだったのは、覚悟を決めてすぐに『下町ロケット』という作品に出合えたこと。視聴率が20%を超える大ヒットで、そういった注目度の高い作品に出演させていただけたことから、次の仕事につながっていったんです。

 ただ、歌番組では、なかなかミュージカルの曲を歌わせていただける状況ではありませんでした。始めはディズニーの曲を歌うところからスタートし、「僕はミュージカルのカンパニーで出たいです!ミュージカル俳優たちを出してください」と言い続けました。次第に『ラ・ラ・ランド』などのミュージカル映画が流行ったり、いろいろな要素が重なって、僕もどんどんメディアに出られるようになった。

 バラエティー番組は、とにかくたくさん出演させていただきました。出るたびに「ミュージカル俳優の山崎育三郎です」と言い続け、ミュージカル風に登場やあいさつをと言われれば、全部やりました。とにかく知ってもらうきっかけになれば何でもやると重ねていく中で、少しずつお茶の間にも「ミュージカル俳優の山崎育三郎」が浸透していったような気がします。

-周囲の反応は変わりましたか?

 テレビを見ていたら、「千鳥」さんがツッコミに僕の名前を使ってくださったり、(「トレンディエンジェル」の)斎藤司さんも「どうも、山崎育毛三郎(いくもうさぶろう)です」と、笑いを取ってる。これって、山崎育三郎を皆が知っている前提じゃないですか。芸人さんが自分の名前を使っていることに感動しました。

 この間は、公園で男の子が「久志だ!お~か~を越え~てゆこうよ」って歌い出して、お父さんも「家族で大好きでいつも歌ってるんです」と言ってくださり、「じゃあ一緒に歌おう!」って、公園でミニコンサート状態になりました。

 朝ドラ出演は、祖母が喜んでくれましたね。ミュージカルでいう帝国劇場は祖母にとってNHK、『レ・ミゼラブル』は朝ドラみたいなものなので、そこは1つ目標にしていました。

 結果的に、『エール』には僕だけでなく、ミュージカル俳優がたくさん出ることになり、歌番組もカンパニーで出られるようになって、今、「ミュージカル俳優ってすごいでしょ」と胸を張って言える。この状況が感動的なんです。今回の『モーツァルト!』は、「テレビで知って初めてミュージカルに行きます」という人も多くて、この流れができたことは本当にうれしいです。

-『モーツァルト!』は4回目の出演。初回から11年が経ちますね。

 2010年に僕が初めて主演をやらせてもらった作品です。最初に観たのは高校生の時で、主演俳優に対して「何この人…モーツァルトだ」と衝撃を受けました。彼は今までのミュージカル俳優と違って、音楽を自由自在に自分のものにして、全然違った音色とリズム感で歌い上げて、その独特な表現がモーツァルトにバシッと合ってたんです。アッキー、中川晃教さんです。あの歌声が頭に残って、いつかやりたいと思っていました。

 その後、オーディションに合格したんですけど、実力もないし、気持ちも追いついてない。音域は、多分、男性ミュージカル俳優が歌う中でも一番広くて、舞台にも出ずっぱり。しかも天才アッキーの後だし、(再演のため)カンパニーはできあがっている。僕以外はほぼ同じメンバーなので、稽古もポンポン進むんです。“思い出し稽古”ですよ。そこで自分を作っていくなんて、もう何が何だか…皆と会話した記憶もないくらいいっぱいいっぱいでした。

 演出の小池修一郎さんからは、「(共演の)市村正親さんが主演にしか見えない、お前は何もできてない」と言われて。でもどうにもできなくて、初日は震えながら始まりました。「どうせ俺が出たってアッキーの方がいいに決まってる。これでミュージカル界から干されるんだ」と、叫びながら舞台に飛び出していった記憶があります。

 周りは全員敵だと思ってたから、お客さんも「できんの?アッキーの代わり」って言ってるように思えて…。それが「うっせえ!俺は俺だ!」となった瞬間、モーツァルトの人格とリンクしたように思いました。「家族は離れる、誰も認めてくれない。だけど僕は僕でしかない、ありのままの僕を見てほしいんだ」という彼の心情と当時の僕が、バーンと重なったんです。

 「これでミュージカル人生終わってもいい。アッキーみたいにできないし、井上芳雄さんにもなれない。僕は僕でしかない!今の自分をとにかくさらけ出そう!」と思い切りやりました。そしたら、初日にケガを…肋骨にヒビが入りました。僕がジャンプして、下で男性8人が受け止めるシーンで、肋骨の上のベルトにつけていたマイクの送信機がジャンプした時に手に当たって、ガキッと入った。でもやるしかなくて、「自由だ~」と歌いながら「痛い」と思ってました(苦笑)。

 とにかく毎回追い込まれて、本番が終わったらもう立てない。でも、“ヘタクソなんだけど何か命がけで挑んでる”みたいなものが、お客さんにも伝わって。あの感じは二度と出せないけど、僕の必死さがモーツァルトにリンクした瞬間がたしかにありました。

-今回はどんなモーツァルトになりそうですか。

 1回目は命がけ。2回目は必死。3回目で初めて楽しかったという感覚が生まれて、そのままの自分で動けた。今回は自分の生き様を見せるというか、モーツァルトが亡くなった歳と同じ35歳なので、自分自身の35年をさらけ出すような感覚で臨みます。

-今の目標は?

 ミュージカルはホームグラウンドだと思っていますけど、エンターテインメントをあまりジャンル分けしなくてもいいのではとも思っています。ミュージカルとかテレビとか関係なく、役に合っていれば、誰がどこで表現してもいいと思います。自分は求められた場所で輝ける人でいたい。

 ただ、ミュージカルはアスリートみたいなところがあって、何もしていない人が急に立って、歌って踊れるところではない。常にボイトレは続けているし、いつでも舞台に立てる自分をキープしています。昔もこれからも、価値が変わらないのは“生”です。絶対に途絶えてはいけない。僕は何歳になってもそこに立ち続けられる自分でいながら、いろんな挑戦を続けていきたいと思います。

【インタビュー後記】

このインタビューをまとめていて、不覚にも涙が出てきました。初めての主演作品で、あらゆる感情に押しつぶされそうになりながら必死で立ち向かっていた姿を想像すると、当時の育三郎さんを体験した気になってきます。ミュージカルを広めたい一心でチャレンジを繰り返す。覚悟を決めて挑戦し続けたことが、今のミュージカル界に大きな影響を与えたのは間違いありません。この灯が消えないように、ますます発展しますようにと心から願います。

■山崎育三郎(やまざき・いくさぶろう)

1986年1月18日生まれ。東京都出身。『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』『モーツァルト!』『エリザベート』など数多くの作品に出演し、ミュージカル界のプリンスと呼ばれる。『下町ロケット』『エール』『私たちはどうかしている』などのドラマやバラエティー番組にも出演し、人気の幅を広げている。主演作『モーツァルト!』(東京・帝国劇場)は4月8日開幕。東京公演後は札幌・大阪公演あり。

フリーアナウンサー/リポーター

東京都出身。渋谷でエンタメに囲まれて育つ。大学卒業後、舞台芸術学院でミュージカルを学び、ジャズバレエ団、声優事務所の研究生などを経て情報番組のリポーターを始める。事件から芸能まで、走り続けて四半世紀以上。国内だけでなく、NYのブロードウェイや北朝鮮の芸能学校まで幅広く取材。TBS「モーニングEye」、テレビ朝日「スーパーモーニング」「ワイド!スクランブル」で専属リポーターを務めた後、現在はABC「newsおかえり」、中京テレビ「キャッチ!」などの番組で芸能情報を伝えている。

島田薫の最近の記事