北朝鮮「飢えたエンジニア」3人を吊し上げの刑
北朝鮮の金正恩総書記は、先月の最高人民会議第14期第7回会議での施政演説で次のように述べている。
「科学技術を発展させるためには研究手段と人材が準備されていなければならないので、これに常に国家的な関心を払い、この問題を解決するための実質的な対策を講じなければなりません」
だが、現場の状況はお粗末なもので、技術者は副業に力を入れなければ生きていけないのが実情だ。それなのに当局が強圧的に副業をやめさせていると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋は、殷山(ウンサン)郡で、工場技術者の商売の集中取り締まりが行われているとし、今月16日には、家庭用変圧器を自宅で製造し、市場で販売していた、炭鉱機械工場の技術者3人が摘発され、家宅捜索を受けて、商品や資材が安全部(警察署)に押収されたと伝えた。
工場技術者は技術革新運動で国家計画遂行に役立てねばならないのに、個人の商売にばかり没頭するという非社会主義現象をなくせという朝鮮労働党の方針が下されたことによるものだ。
摘発された3人は、見せしめとして思想闘争舞台、つまり吊し上げにされ、「党に育てられた技術人材が、自分の技術を個人の商売に利用する良心のない行為をしている」「今後は国に貢献する技術発明だけに力を注げ」などと激しく批判された。
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しかし、4人家族の1ヶ月の平均的な生活費が50万北朝鮮ウォン(約8500円)かかるのに、工場からもらえる月給はわずか3000北朝鮮ウォン(約51円)。変圧器を売れば、月に20万北朝鮮ウォン(約3400円)ほど得られ、それ以外にも携帯電話の修理で3万北朝鮮ウォン(約510円)ほどになるので、何とか生活できるほどの収入になる。
だが、かつてのような食糧配給も期待できず、技術革新にばかり力を入れていたら餓死してしまう。そんな状況を無視したやり方に、現場からは不満の声が上がっている。
平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋によると、定州(チョンジュ)ステビア加工工場には、大学を卒業した10人の食品技術者がいるが、当局はサトウダイコンとステビアを使って輸入品である砂糖を代替する生産工程を革新せよという技術発明課題を下した。
技術者たちは平日の昼間は工場で研究を行っているものの、夜と週末には、自宅に砂糖を作る機械を設置し、トウモロコシやステビアでキャンディを作って、市場や路上で販売していた。
当局は、技術研究に集中せよと激しい批判を浴びせかけたが、技術者たちは「食糧配給もしてくれないのに、工場に縛り付けられて発明に専念しろと言われても、腹が減っているのに頭が回るわけがない」「技術人材を重視するとのプロパガンダばかりするのではなく、技術者への待遇を改善してくれ」と不満の声を上げている。
技術者の食糧も、実験用資材も不足する中で「とにかく成果を早く出せ」と実験を急がせた結果、事故も相次いでいる。また、実用化に耐えないもの、採算性に問題があるものが大発明であるかのごとく取り上げられ、プロパガンダの材料として使われることも少なくない。