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その就活、ムダかもしれません!

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:アフロ)

 暑い夏は熱い就活の季節でもある。日本経済団体連合会(経団連)による就職・採用活動のルールでは6月が面接解禁であり、経団連会員企業である「大企業」による採用活動も本格化している。

 とはいえ、その6月1日時点で、来春卒業予定の大学生(大学院生除く)の就職内定率は70.3%と前年同月比2.2ポイントも上まわっている(株式会社リクルートキャリア調べ)。

 経団連ルールがあるので、6月前に大企業は内定をだしていないのが建前である。そうなると70%を超える内定率は、大企業以外の中小企業や外資系企業による内定ということになる。もちろん、経団連ルールが厳格に守られていると信じる人は少数でしかなく、大企業も水面下で動いていることは暗黙の了解だったりもする。

 そして大企業による本格的な採用活動が始まれば、まだまだ大企業信仰が強いなかでは、中小企業の内定を蹴って大企業に乗り換える、といったことも普通のようにおこなわれる。すでに内定をもらっている学生にしてみても、いまが就活の本番なのだ。ある大学教授は、「学生の頭のなかは就活一色で、授業は上の空」と嘆いた。それくらい、熱い季節である。。

 しかし、そんなにも熱い就活戦線を駆け抜けて入社しながら、すぐに辞めてしまう傾向に拍車がかかっている。日本経済新聞社が就職情報大手ディスコと共同で実施した調査によれば、「就職活動を終え入社した1~2年目の若手社員の5割が、転職を希望している」(2019年6月17日付『日本経済新聞』電子版)という。

 実際、入社から1~2年目で辞めてしまう若手社員も増えているという。「入社3年で辞める」と大きな話題になったのは10年ほど前だったけれども、さらに早まっている。すぐに辞めてしまうというのに、必死になって学生たちは就活と取り組んでいることになる。

 なぜ若者は入社してすぐに辞めてしまうのか。その大きな理由として注目されるのが、「リアリティ・ショック」である。

 リアリティ・ショックとは、入社前に抱いていた企業イメージと入社後の実態が違うことへの戸惑いを指している。総合人材サービスを展開しているパーソルグループのパーソルキャリアとパーソル総合研究所が今年5月22日に発表した調査によれば、社会人になって3年以内の若者でリアリティ・ショックを抱える割合は76.6%にもなっている。これほど多くの若手社員が「こんなはずではなかった」と感じているわけで、これが辞めることにつながっていくわけだ。

 なぜ若手社員のこんなにも多くがリアリティ・ショックを抱いてしまうのか。その疑問に答えてくれたのは、パーソルキャリアのコーポレート本部エバンジェリストの佐藤裕さんだった。

パーソルキャリア(株)の佐藤裕さん  (撮影:筆者)
パーソルキャリア(株)の佐藤裕さん  (撮影:筆者)

「今回の調査で『日本特有だな』と感じたのが、『将来のやりたいことが決まっている割合』が大学1年生では14%でしかないのに、大学3年生の冬に50%近くになり、大学4年生の冬で80%と、急激に増えてくることです。3年生になって急に就職を意識せざるをえなくなって、それで『やりたいこと』を焦って考えはじめる結果です。慌てて探した『やりたいこと』で就職を決めるわけですから、入社してみて『ほんとうにやりたかったのは、これじゃなかった』と思ってしまっても不思議じゃないですよね」

 いまや受験生を集めるために就職率が大きな要素になっているだけに、大学は就職率を上げようと躍起になっている。それなら、リアリティ・ショックに備えた指導があってもよさそうなものである。それに佐藤さんが答える。

「3年離職という言葉は知っていても、自分の大学の卒業生と結びつけて考えられていないのが実態です。就職率は気にするけれども、離職については気にしていない大学が多い。考えはじめている大学も出てきていますが、大半は早期離職について問題意識をがない」

 企業は、どうなのか。選考をはじめ、入社後の教育など、採用に企業が費やす費用と労力は半端ではない。入社してすぐに辞められたのでは、企業としてはたまったものではないはずなのだ。それにしては企業の採用方法には問題がある、と佐藤さんは指摘する。

「企業は新卒者を確保することだけに必死なんですね。そのために、企業の良い面だけしかみせようとしない。会社説明もPR合戦だし、OBやOG訪問の場でも人事部の意向をうけているから、良いところ、きれいなところしか伝えない。裏の面をみせないようにしている。これでは、入社してくると『話が違う』となってしまうわけです」

 学生、大学、企業が三者三様にリアリティ・ショックにつながる原因を抱えていることになる。そこを認識して対応していかなければ、必死に就活に取り組んだところで、就職してすぐに辞めることになりかねない。せっかくの就活もムダになりかねないのだ。

 リアリティ・ショックを防ぐために、どうすればいいのか。佐藤さんが続けた。

「学生は、早い時期から会社の実態を知り、働くことの意味を実感としてとらえていくべきだとおもいます。大学や企業も、そういう情報提供を学生に提供していくべきでしょう」

 佐藤さんが所属するパーソルキャリアでも、若い層にビジネス社会の実態を理解してもらうためのプログラム「CAMP(Career Activate Management Program)」を実施しつつある。就活は、変わらなければならない時期を迎えているようだ。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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