リモートワーク疲れの正体【井上一鷹×倉重公太朗】最終回
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コロナ禍が起こって以来、IT系のベンチャーでは在宅勤務手当を競争のように出すようになりました。大手でも検討を始めている企業もあります。また、スタートアップ企業の中には、オフィスを返上して、テレワークを基本としたワークスタイル導入に舵を切っている会社が多く見受けられます。オフィスの賃料と交通費を下げることができ、時間あたりの生産性向上が見込めるので、「今後8割の仕事は確実にテレワークになる」と井上さんはご自身のnoteに書いています。そんな未来を見据えて、会社として、個人としてどう変革していくべきか語り合いました。
<ポイント>
・テレワークを監視してはいけない
・就活生に送るメッセージ
・出社と在宅勤務の割合はどのくらいが理想か?
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■テレワーク時代のマネンジメントで、してはいけないこと
井上:テレワーク時代では、何をもって本業なのか副業なのかという話がすごくあいまいになってくるはずです。
倉重:切り替えが瞬時にできますからね。
井上:先日、ある大企業の人事の方とお話をしていたのです。在宅勤務の時間が長くなると何が起きるかというと、自分1人で向き合う時間が増えるので内省の時間が取れます。そうすると「俺や私はこの会社にいていいのかな」と思う頻度がすごく上がるそうなのです。
倉重:それは「貢献していないように感じてしまう」ということですか。
井上:ではなくて、「転職したほうがいいのではないか」と思ってしまうのです。
家でミッションをこなしているだけだと、「この会社にいる理由って何だっけ」と思いやすいのです。
倉重:それって「気付いてしまう」という話なのでしょうか。
井上:おそらくそうだと思います。
大企業の人は「転職しなければ」というふうに動くらしいのですが、それは極端だと思っています。
転職という手段以外もたくさんあるので。
倉重:副業で業務委託できるところはいくらでもありますからね。
井上:そうです。選択肢として副業のリテラシーを上げていくのが個人にとっては大事だと思っています。
倉重:会社にいながら、いろいろな副業先を見つけておくことが、結果的に自分のキャリアを豊かにする。あるいはセキュアにすると思います。
先ほど上司の仕事として、部下の雑談の場をつくって、事業と接近させるという話がありました。
他にも、上司としてこのテレワーク時代に気をつけなければいけないことや、意識されていることはありますか。
井上:まず、猜疑心を持ってはいけません。
猜疑心を持って「こいつは仕事をしているのか」と監視を始めると大変なことになります。
倉重:監視型マネジメントですね。
井上:テレワークで監視していいことは一切ありません。
猜疑心は絶対にマイナスの方向にゲーム理論上行きます。
倉重:行動監視はテクノロジーではできますけれども、「お前はオフィスでもずっと後ろに立っているのか?」という話ですね。
井上:でも、そういう人は本当に背後に立っていたり、10分に1回話し掛けたりするのです。
倉重:ちらちら画面をのぞいたりするのですね。
井上:これは本当に良くないと思っています。
猜疑心を持たないためにどうするかといったら、信頼できる人以外、仲間に入れないことです。
チームが先にできてしまって、その中で「どうなのかな」と思う人に役割を振るマネジメントをしている以上は、猜疑心は絶対に生まれます。
「この人なら信頼できるから、リモートでも任せよう」と思える人かどうか。
それを採用の時点で変えないといけません。
倉重:難しいテーマですね。
どのようにしてオンラインで信頼関係をつくっていくのかという話ですね。
井上:そこは確かに難しい話ですけれども、採用のときは会いたいですね。
倉重::オフの挙動が見えないのは不安ですね。
そういう意味で合宿をしたほうがいいということでしょうか。
井上:合宿はしたほうがいいと思います。
私は猜疑心を持たないで済むような仲間としか仕事しません。
倉重:チームというものを定義し直す感じですね。
井上:これだけ与えられた状況が変化して、本業と副業の考え方も変わっていって、働く場所すら多様になっていく時代です。
どのパターンであれ「俺はコイツだったら信頼できる」という相手としか仕事しない。
それを徹底さえすれば、つまらないリモートワークによるネガティブなどなくなります。
倉重:むしろSNSでぱっとつながって、その案件ごとに適したチームを毎回つくれるようになるメリットもあります。
井上:どの人を仲間にして仕事するかというポリシーを持つこと。
それが一番大事ではないかと思います。
倉重:イシューやプロジェクトごとに、どういう人を集めるのかは、会社が割り振るのではなく、自分でも考えてマネジメントしていかなければいけないですね。
井上:「そんなことはできないよ」という意見のほうが多いのかもしれませんが、クリエイティブクラスなど、こういうことに興味を持つ人は、スタンスを変えてしまったほうがいいだろうと思っています。
倉重:契約形態や個人がどうあるべきかと議論ですね。
大体終わりになってきましたので、あと2点だけ。
若い世代の方は研修もうまくいかずに、就活も大変です。
あるいは入ったばかりでまだ何もできないと悩んでいる方もいます。
今後どのようにして就活したらいいのかわからない学生さんもいらっしゃいます。
そういった方に向けて、井上さんならではのメッセージをお願いしたいと思います。
井上:少し抽象的な話になってしまうかもしれませんが、「選べることを楽しめ」と言っています。基本的にネガティブなことを言う大人になってほしくありません。
何か課題が起きたときにネガティブを探すような思考で生きていくこと自体がもったいないのです。
何かが起きると、自分の置かれている前提条件が変わる頻度が高まります。
ウイルスの話になると、もっと不確実性が上がります。
そのときに「違う選択をする」というゲームチェンジを楽しむスタンスのほうが絶対に幸せです。
その考えに至らないことが意外と多い気がしています。
倉重:「選べと言われても不安ですよ」と言われませんか。
井上:私は読んでいないのですが『死ぬこと以外かすり傷』という本がありますよね。
本当にそうなのです。死なない、ということが本当に大事だと思います。
今は前提条件がばらばらと変わっていますよね。
何かを考えるときに保身的な感覚を一瞬でも持つ人って、思考が遅過ぎて話を聞いていられないのです。
「俺の今までのやり方を否定されている」という感覚でいたら、次の思考ができません。
倉重:著者は大変な状況になっているようですが(笑)。しかし、責められているように感じてしまうと他責傾向となり、そこで思考停止してしまいますね。
井上:いろいろな問題があるので一概に悪く言ってはいけないですけれども。
それより「今まで考えてきたことは全部忘れよう」「次に選ぶことを楽しもう」と思っている人のほうが強いです。
倉重:今はそちらのほうがパフォーマンスは出ますね。
井上:そういう人って大体倉重さんを含めて多少ふざけた感覚があると思います。
倉重さんも、世の中を自分なりに切り取って「俺はこう思うのだ」という意見を常に発しているではないですか。
そういう感覚のある人は、何か起きたときに自分がどうなるかよりも、その事象自体を楽しもうとするから、変化に強いのです。
倉重:正直ちょっとテンションが上がっていると言ったら不謹慎ですが、「今何とかしなければ」というアドレナリンが出ているのです。
コロナが起きてから「世の中に何かできることはないか」と考えています。
井上:アドレナリンが出るようなことってそんなに多くないから、普通に楽しいですね。
不謹慎だと言われて怒られるかもしれませんが。
倉重:コロナで困っている会社のために、『新型コロナ問題人事労務Q&A』を作ったときにも達成感がありました。毎日夜中の3時、4時まで作成していましたから。
【新型コロナ問題Q&A】
https://kkmlaw.jp/news/free-ebook-to-rescue-hr-covid-19/
井上:アドレナリンが出なければそんなにできないですからね。
倉重:本当にそうです。
■集中が高いのは、自分のやりたいことがハッキリしている人
倉重:最後に、井上さんの夢を聞かせていただけますか。
井上:今の話に通じるのですけれども。
集中できている人はどんな人かというと、「自分は何をしたいのか」がはっきり語れる人です。
「俺はこれをしたい」と表明している人はやはり集中が高いのです。
集中が高いと幸せになれるので、そういう人を増やしたいと思っています。
倉重:確か夏目漱石が「中腰の人はゆっくりしか歩けない。やりたいことが見付かっている人は立っているから、早く遠くに行けるのだ」と言っていましたね。
井上:そういう人を増やすために、まずは環境や空間をどうするかというところからアプローチしています。
ハードイシューだけではできないから、ソフトイシューとして「こういう働き方がいいのではないか」という提案をしたくて、ゴールデンウイークに原稿を書きました。
(参考)
【62,000字】 コロナか変える働き方〜集中のプロ井上一鷹が語る〜【最新版をWeb全文公開】
https://note.com/thinklab/n/n0d35c5dc0349
倉重:あの分量が書けるのはすごいです。
井上:アドレナリンでしかないです。みんな若干ふざけながら、自分がやりたいことを話半分でも表明して、楽しんでやろうよというスタンスでもいいと思います。
せっかくこれだけ文明を良くしてきたのですから。
倉重:noteもツイッターもあるから、そういうことがやりやすい時代ですね。
井上:あらゆる選択肢が増えたことによって苦しむことばかりではありません。
私たちはリブ・ユア・ライフと言っているのですけれども、自分の人生に集中することを支えたいと思っています。
私自身がそうでなければいけないし、皆さんにもそういうことをしたいです。
倉重:素晴らしい締めだと思います。
井上:ありがとうございます。
■出社と在宅勤務の割合はどのくらいが理想か?
倉重:どなたか参加者の方で早い者勝ち、2名様限定で質問を承りたいと思います。
いかがでしょうか。ではセオさん。
セオ:井上さん、いつもありがとうございます。
全く着想できないようなことをいつも言ってくださるので楽しいです。
批判的な意味ではなくて新たな展開をつくるための発想として教えてください。
オフィスは必要かどうかという話がありました。
やはり切り替えがすごく大事なので、一定の物理的距離は必要だと思います。
井上さんの私見で構わないので、職場と在宅勤務の割合はどのくらいがいいと考えていますか。
井上:会社と個人の関係によると思っています。
学ぶことが多い時代は8・2でリアル重視。会社から学べることがそんなに多くなくて、自発的に会社に還元する立場になってきたときには2・8であるべきだと思っています。
ゼロであるべきだとは考えていません。
セオ:ステージに応じてグラデーションがあるというイメージですかね。
井上:そうだと思います。私の20代のときはコンサルティングファームにいて、ずっと上司の横にいることによって、いろいろなことを感じ取って成長スピードを上げていました。あれが無駄だったとは一切思わないので。
倉重:上司の電話の仕方というのも勉強になりますからね。
井上:本当にそうです。意味を読み解けるのは少し後だったりするのですけれども。
テレカンではやはり無理ですね。
セオ:尊敬する人の守破離の「守」のところでの所作が見えないので。
井上:守は8・2。破が5・5で、離が2・8ぐらいになるのではないですか。
最終的には半々で落ち着くのかもしれません。
倉重:自分がどのステージにいるかですね。
セオ:井上さんご自身は0・10ですか。
井上:今会社にいるので言いにくいのですが。学びや気付きをくれるのは倉重さんなど外の人のほうが多いので、リアルな社内にいることにそんなにモチベーションはないですね。
他の人に聞こえていたらすごく嫌われますが(笑)。
セオ:ありがとうございます。
倉重:もう1人、産業医の中澤先生、お願いします。
中澤:産業医をしています、中澤です。よろしくお願いします。
上司から部下へのケアのところでさらに進んでお聞きしたいと思います。
私たちは上司が部下を見る「ラインケア」をメンタルヘルスの対策としてお伝えすることがあります。「雑談は大事ですよ」という話をしても上司がなかなか部下を見てくれない場合にどうして介入したらいいのかを悩んでいまして。
井上:難しいですね。私は専門家ではないので、たいしたことは言えないのですけれども、ミッションをマネジメントする人という意味では、上司とコーチングする人、モチベーションを上げる人の線引きがあいまいな気がしています。
「モチベーション管理をする上司であるべきだ」という視点に立つのか。
今の状態であれば「それは要らない」と切り捨てる判断をしてもおかしくないと思います。
「日本人はマネジメントが下手だよね」と言われる理由は、緩やかにいろいろなものを求め過ぎているからだと思います。
先ほどの話にもつながるのですが、私がコーチングやモチベーションに関してもコミットしたいと思っているのは、自分の選んだ信頼できるチームメンバーしか入れていないからです。
問題が起きるケースは、上から当てがわれた部下の場合です。
長期的にはそういうチーム構成をやめることも一つだと思います。
倉重:それは組織のあり方になってきますね。
井上:産業医の人からしたら、ソリューションとして「そんなことを言ってもしょうがない」というのはあると思うので、求め過ぎないということを前提に、一回メンターのような存在を置いてもいいかもしれません。
倉重:井上さんはダウンしているチームメンバーがいたらどう接しているのですか。
井上:普通に1対1で会って、「俺はこれだけ期待しているけれども、ここに対しては足りないと思っている」と素直に打ち明けます。そこはあいまいにしません。
ただ、信頼しているメンバーだけ集めているからできることで、急に違うところのマネジャーを任せられたときには無理でした。
高いモチベーションで人と向き合えないから、そこはしょうがないと思っています。
「何だよこいつ」「何でこいつと仕事をしているのだろう」とお互いに思っている時点で難しい気がしています。
倉重:テレワークであればあるほど信頼関係って必要ですからね。
多分そういう視点で組織のあり方が変わっていくのだろうと思います。
その辺はまた次回の対談で掘り下げたいですね。
井上:ありがとうございます。
今、皆さんも在宅勤務に疲れてきたころだと思うのです。
家にずっとこもっていると70点の環境だからなかなかアイデアも出ません。
「非日常を感じてリフレッシュしたい」と思っている方は、多いのではないでしょうか。
そのリフレッシュの場所をThink Labとして用意しています。
汐留にしかなくて恐縮ですけれども、皆さんにぜひ体験していただきたいです。
本当に一回だけでいいので、だまされたと思って行ってみてください。
倉重:これはリフレッシュのために仕事に行くということですね。
井上:そうです。リフレッシュしなければいけないけど、仕事は放棄できないですよね。
「リフレッシュしながら仕事もできる場所」というのはThink Labしかないと思っています。
倉重:素晴らしい。ワーケーション的なことを都内でできてしまうのですね。
井上:まさにワーケーションだと思っています。
私はこれでないとつらくなってしまうぐらいです。
効率が良くなり、気持ちよく仕事できますので。
倉重:この2時間無料のクーポン券を貼り付けてもいいのでしょうか。
この記事を見た方は2時間無料ですと。
井上:はい。ぜひ一度、騙されたと思ってお越しください。
(おわり)
対談協力:井上一鷹(いのうえ かずたか)
大学卒業後、戦略コンサルティングファームのアーサー・D・リトルにて大手製造業を中心とした事業戦略、技術経営戦略、人事組織戦略の立案に従事後、ジンズに入社。JINS MEMEの事業開発を経て、株式会社Think Labを立ち上げ、取締役。算数オリンピックではアジア4位になったこともある。最近「集中力 パフォーマンスを300倍にする働き方」を執筆。 https://twitter.com/kazutaka_inou