激変、三井住友銀行の投資信託
驚きです。12月に入って、三井住友銀行の投資信託の売れ筋ランキングは、激変しています。先月までの売れ筋一位、かの「欧州ハイ・イールド・ボンド・ファンド(豪ドルコース)」は、もはや、どこにも見当たりません。さても、三井住友銀行の顧客というのは移り気なのか、それとも、単なる銀行の営業政策のなせるわざか。代わって売れ筋一位になったのは・・・
消えた「欧州ハイ・イールド・ボンド・ファンド(豪ドルコース)」
先月までは、三井住友銀行の投資信託売れ筋一位は、「欧州ハイ・イールド・ボンド・ファンド(豪ドルコース)」という奇怪で投機的なものでした。この問題性については、先に書いた論考「三井住友銀行で一番売れている投資信託」、その続編「野村證券の投資信託はもっとすごい」を参照ください。本稿は、第3弾です。
さて、月が替わり、いきなり、同行の投資信託売れ筋一位に躍り出たのは、「SMBC世界優先証券ファンド201409」というものでした。ところが、この投資信託は、既に募集を終了しています。取り扱いは、9月16日から開始されて、一月ほどで終了してしまったのです。そこで、現時点では、11月募集開始で、後継の「SMBC世界優先証券ファンド201411」が、売れ筋一位になっています。
不可解なランキング変更
しかし、このように、一気に、売れ筋が変動するものでしょうか。正直にいって、私は、ひどく驚きました。何か、おかしい。
実は、私の前の論考を見て、今では、どこにも「欧州ハイ・イールド・ボンド・ファンド(豪ドルコース)」が見当たらないのを訝る人がいると思って、慌てて、この論考を書いているのです。しかし、調べてみて、すぐに裏がわかりました。「欧州ハイ・イールド・ボンド・ファンド(豪ドルコース)」が見当たらないのは、ランキングの計算から除かれることになったからなのでした。
ランキングに含めなくした理由は、「商品性が相対的に複雑な通貨選択型ファンドは除いております」ということだそうです。この理由に、どのような合理的根拠があるのか、私には、さっぱりわかりません。いずれにしても、巨大銀行に、この突然の不可解な変更をなさしめたのは、おそらくは、私の記事の反響もあってのことだと思えば、多少の感慨はあります。
ということですから、ランキングの作り方が変わっただけのことで、三井住友銀行の売れ筋一位が変わったのかどうかは、もはや、わからないのです。それにしても、ランキングというのは、統計的事実だったはずで、そこに、操作をいれるというのは、果たして、顧客の視点に立ったとき、どういう意味をもつのか、よく考えてみる必要があるでしょう。
単位型と追加型
では、新しい売れ筋を検討しましょう。「SMBC世界優先証券ファンド」の9月のと、11月のと、この二つは、内容的に同じで、形式的に違うものです。実は、この投資信託は、事実上の単位型の設計になっているのです。
普通の投資信託は、追加型といって、募集期間を定めずに、いつでも追加と解約の申し込みを受け付けているのですが、単位型というのは、最初から短い募集期間が定まっていて、その期間が終了して運用が開始した後は、追加投資を受け付けず、一定期間後には、償還することが決まっているものです。
実際には、追加型でも、取り扱っている販売会社の判断で新規募集を停止できますし、運用期間の限定もできますから、単位型と同様な運営ができます。いわゆる限定追加型というものです。単位型にしても、限定追加型にしても、考え方としては、債券の満期と同様に、投資の終了時点を定めるものです。
そこで、この「SMBC世界優先証券ファンド」は、9月に設定したものは、一月ほどで募集が終わり、新たに全く同じ運用内容で、11月から、別の投資信託として、募集が開始されているのです。そして、この11月のものも、もうすぐ募集が終わるのでしょう。
では、ランキングの計算では、9月のものと11月のものを合計しているのでしょうか。私も、そこに関心をもったのですが、どこにも説明がないようです。しかし、おそらくは、二つを通算して、ランキングの一位としているように思われます。確かではありませんが。
実は、9月のものの残高は約230億円です。時価は大きく動いていないので、販売額も230億円程度だったのでしょう。11月のものは、現時点では、まだ100億円も売れていないようです。ですから、二つを通算しないと、ランキング一位にならないような気がするのです。
いずれにしても、三井住友銀行の場合、特定の投資信託を、一月の間に、200億円以上、販売する力があるということですが、この数字、すごいのでしょうか。同行の実力としては、ごく普通なのか、むしろ控えめなものなのでしょうか。
優先証券という期間限定の投資機会
ところで、この投資信託には、満期があります。それは、投資戦略に、賞味期限があるといいますか、一定の有効な期間があるからです。では、まずは、その中身を見てみましょう。
運用会社は、大和住銀投信投資顧問です。しかし、多くの投資信託と同様に、本当の運用会社は違います。それは、米国の、スペクトラム・アセット・マネジメントというものです。
投資対象は、世界の主要な金融機関等が発行している優先証券です。優先証券とは、普通株と同様に、資本勘定に算入されるものではありますが、普通株に対しては、配当等の権利において、優越したものなので、優先証券と呼ばれるのです。
日本でも、かつては、多くの銀行がそうであったように、今でも、世界中のどこかで、少なからざる金融機関が資本不足に悩んでいます。資本不足になれば、普通株で増資するのが一番簡単ですが、それをしますと、既存株主の利益の希薄化をもたらすので、できれば避けたい。そこで、替りに優先証券が発行されるのです。
さて、この金融機関の優先証券について、期間限定で投資機会があるのはなぜかというと、資本規制が強化されて、優先証券を規制上の資本に算入できる要件が厳格になったので、要件を満たさなくなった既存の優先証券は、期前償還になる可能性が高くなっているからです。
これは、面白い投資機会です。つまり、優先証券は、価格変動リスクもありますし、債務性があるので、債務不履行のリスクもありますが、期前償還が見込まれる限り、価格は償還価格である額面に引っ張られますし、投資期間も短いので、債務不履行リスクも限定的であって、その割に、所有期間の高利回りが期待できるからです。
また、この投資機会は、資本規制の変更という特殊事情に基づくので、期間限定的であり、投資期間を有期とすることには、合理性があります。実際、この投資信託の運用期間は、9月のものが、2014年9月30日から2018年3月26日までの約3年半で、11月のものは、11月28日から2018年5月25日までの約3年半です。
同じものを追加発行する意味
しかし、期間限定の運用であるにしても、次々と同じ内容の新しい投資信託を連続発行すれば、その意味がなくなるのではないかとも思われます。ところが、意味は、なくならないのです。9月のものと、11月のものとは、投資期間が終了した段階で成績を比較すれば、そこに差があるであろうことが予想できるからです。
おそらくは、戦略が想定しているとおりに環境が推移すれば、後のもののほうが、運用収益が低くなるのではないでしょうか。つまり、この投資の機会は、期間限定とはいえ、今少し継続するものですが、予定通り、期前償還等が進めば、投資対象が少なくなるでしょうし、期待収益率も低下してくると思われるわけです。
ならば、投資を始めた時点が異なる投資家ごとに区分して投資信託を設定することには、十分な合理性があると思われます。
遅ればせの参入
そうしますと、三井住友銀行も、短期間で激変し、いまや、時宜にかなった優れた投資戦略を、顧客利益を考慮して、適切に提供しているというのでしょうか。そのような大変革が起きたのだと期待したいところですが、まだ、油断はできません。もう少し、この投資信託について、検討してみましょう。
運用会社である大和住銀投信投資顧問の投資信託の一覧を見ると、興味深いことがわかります。同社の同じ戦略の投資信託の第一号は、どうやら、「グローバル高格付優先証券ファンド」というものです(類似のものは2012年7月に出ていますが)。これは、2013年10月1日から10月21日までを募集期間として、単位型で設定されたものです。販売会社は、大和証券単独でした。
現在の残高から判断すると、販売額は、為替ヘッジのあるものとないものの二種類合計で、650億円程度だったようです。大半が、為替ヘッジのあるものです。やはり、大手証券会社の販売力は、すごいですね。これが、わずか21日間の販売額ですから。
その後、大和住銀は、「ゆうせん君」の愛称のもとに、単位型もしくは限定追加型で、同じ内容の投資信託を、投資期間と販売会社を変えて、順次、設定していきます。そうして作られた一連の投資信託のうち、一番新しいのが、三井住友銀行を単独の販売会社とし、故に、自行の名前を付した「SMBC世界優先証券ファンド」の9月のものと、現在募集中の11月のものであるというわけです。
これらの大和住銀投信投資顧問の投資信託は、運用期間と販売会社以外は、同じものです。要は、時宜にかなった期間限定の投資戦略とはいっても、三井住友銀行は、大和証券が1年以上も前に単独募集し、その後も、他の販売会社で設定されていたのと同じものを、遅ればせに、取り扱っているだけなのです。
結果的には短期保有
また、投資信託を短期で償還させるということは、当然に、償還金を新しい投資信託に振り向ける機会を確保していることにもなります。
この「SMBC世界優先証券ファンド」も、高額な販売手数料を取っています。販売手数料は、保有期間が短いほど、相対的に割高になります。投資信託の場合、短期回転売買として問題視されるのは、保有期間3年未満とされています。故に、この投資信託、3年半になっているのでしょう。
三井住友銀行としては、償還時には、別の投資信託に再投資してもらうのが希望というか、商業の前提だと思われますが、もしも、それが有期の投資信託を推奨する理由だとしたら、邪道です。
系列関係重視
ところで、大和証券も、三井住友銀行も、大和住銀投信投資顧問の大株主です。販売会社として、関係会社の運用会社を使うことは、問題ないのか。
問題があるかないかは、大和証券にしても、三井住友銀行にしても、取り扱う投資信託の選定に際して、運用会社との資本関係等(いわゆる系列関係)が、選択基準になっているかどうかによるわけです。
顧客の視点に立って、優れた投資信託を選んだ結果、たまたま、子会社や関係会社が運用している投資信託になったというのならば、何ら問題はないでしょうが、最初から、子会社や関係会社の運用している投資信託を選ぶという意図のもとに、選択されているのならば、大いに問題でしょう。
さて、ということで、今度は、大和証券に飛びまして、同社の投資信託の売れ筋ランキングを見てみましょう。すると、興味深い事実がわかります。上位にある投資信託は、全て、子会社の大和証券投資信託委託のものか、関係会社の大和住銀投信投資顧問のものなのです。さて、これは、偶然にそうなったのでしょうか。それとも、意図的に、運用会社の選択が行われているのでしょうか。
では、金融庁は、この問題、どう見ているのでしょうか。金融庁は、新しい「金融モニタリング基本方針」のなかで、重点施策の第一番に、「顧客ニーズに応える経営」をあげて、「手数料や系列関係にとらわれることなく顧客のニーズや利益に真に適う金融商品・サービスが提供されているか」について、「検証を行っていく」としているのですが、ここで強く念頭に置かれたものが、実は、投資信託なのです。
こうした施策が打ち出されることの反面には、当然のことながら、金融庁の問題認識として、投資信託業界の現状は、「手数料や系列関係にとらわれ」たものとなっており、そこには、「顧客ニーズ」不在の現実があるということなのです。