「臨床検査技師」と正しく言おう〜新型コロナと向き合う重要な人たちに心からの支援を
検査の現場で奮闘する臨床検査技師
新型コロナウイルスの感染拡大が「重大局面」を迎えてだいぶ経つ。医療現場の危機的な状況が盛んに報道されている。
こうしたなか、検体の採取やPCR検査の現場で奮闘するのが臨床検査技師だ。
検体数の増加に、休む間もなく働いている人もいる。
私は病理医なので、臨床検査技師の方々の働きを間近に見ている。病理医は、標本を作ってくれる臨床検査技師なしでは仕事をすることができない。大切なパートナーだ。
臨床検査技師は、「臨床検査技師等に関する法律」に基づく国家資格だ。
3年から4年、大学や厚生労働省が指定する臨床検査技師養成所で学んだのち国家試験を受け、合格したものだけが資格を得る。
臨床検査技師の仕事は多彩だ。臨床検査技師等に関する法律施行規則に基づき、以下のようなことを行う。
- 微生物学的検査
- 免疫学的検査
- 血液学的検査
- 病理学的検査
- 生化学的検査
- 尿・糞便等一般検査
- 遺伝子関連・染色体検査
- 心電図検査(体表誘導によるものに限る。)
- 心音図検査
- 脳波検査(頭皮誘導によるものに限る。)
- 筋電図検査(針電極による場合の穿せん刺を除く。)
- 基礎代謝検査
- 呼吸機能検査(マウスピース及びノーズクリップ以外の装着器具によるものを除く。)
- 脈波検査
- 熱画像検査
- 眼振電図検査(冷水若しくは温水、電気又は圧迫による刺激を加えて行うものを除く。)
- 重心動揺計検査
- 超音波検査
- 磁気共鳴画像検査
- 眼底写真検査(散瞳どう薬を投与して行うものを除く。)
- 毛細血管抵抗検査
- 経皮的血液ガス分圧検査
- 聴力検査(気導により行われる定性的な検査であつて次に掲げる周波数及び聴力レベルによるものを除いたものに限る。)
- 基準嗅覚検査及び静脈性嗅覚検査(静脈に注射する行為を除く。)
- 電気味覚検査及びろ紙ディスク法による味覚定量検査
これに加え、検体の採取もできる。
こうした多彩な業務を行い、医療現場になくてはならないのが臨床検査技師なのだ。
ただ、PCR検査に従事できる臨床検査技師は多くはない。
低い認知度
ところが、これだけ活躍している臨床検査技技師のことを知っている人は少ない。
私もTwitterで簡単なアンケート調査を行った。あくまで病理医である私をフォローしてくださっている人中心ということもあって、認知度は高いのだが、それでも知らないという人もかなりいた。
報道でも、臨床検査技師と正しく表記せず、「検査技師」と略すものもちらほら見かける。
業務独占できない
臨床検査技師が直面する問題は、認知度にとどまらない。臨床検査技師しかできない仕事がないのだ。
その後法改正がなされ、前述のように検体の採取もできるようになったが、臨床検査技師の資格がなくてもできる仕事が多いのだ。
その一つが、まさに今、臨床検査技師が身を粉にして取り組んでいるPCR検査だ。
例えば、新型コロナウイルスのPCR検査要員を募集するとある求人広告には、「PCRを始めとした遺伝子関連実験の経験のある方 学生のみのご経験の方や、ブランクのある方もOK」と書かれていた。臨床検査技師の資格を持っていなくても良い。
一部の医師たちの意識
さらに、一部の医師たちが、臨床検査技師を軽視する意識を示すことがあるのも問題だ。
私も、臨床検査技師たちに高圧的な態度を取る一部の医師を目撃したことがある。臨床検査技師が意見をいうことを不快に思う医師もいる。
こうした医師=強者、臨床検査技師=弱者という意識は、法律に起因する立場の弱さが原因でもある。
重要な仕事をしているにも関わらず、認知度は低く、業務独占でもなく、意見は言いにくく、弱者扱い…。これではあんまりだ。
「臨床検査技師」と略さず言おう
最近、新型コロナウイルスと闘う医療者を称えるという動きが増えてきている。しかし、称える対象に臨床検査技師を意識したことがある人がどれくらいいるだろうか。
ぜひ臨床検査技師のことを知って、「検査技師」「技師」「テクニシャン」などと呼ばず、きちんと正式名称で呼ぶことから始めよう。
4月7日、安倍首相は記者会見で以下のように述べた。
「臨床検査技師」とはっきりと述べたことに、臨床検査技師の方々からは驚きと評価の声が上がった。
これは、臨床検査技師の団体である一般社団法人日本臨床衛生検査技師会の会長、宮島喜文氏が、自民党の参議院議員であるのが大きいと思われるが、こうした反応が出るほど、活躍に見合った認知度がなく、評価されていないということを表していると言えるだろう。
安倍首相の会見の前には、臨床検査技師に関するある動画が話題になった。
医師や他の医療関係者も含めて、臨床検査技師のことをもっと多くの人が知るべきだと思う。
上述の宮島氏は、学会員向けメッセージの中で以下のように述べる。
新型コロナウイルスの検体採取、取り扱い、PCR検査含め、獅子奮迅の働きをしている臨床検査技師の方々にエールを送ると同時に、防護服等も含めた物的支援の充実等の、言葉だけではない具体的な支援を加速したい。
PCR検査に関して言えば、大学などに手技に習熟した研究者が多くいる。こうした研究者の力を活用するのも重要だ。
東京慈恵会医大では、基礎系の研究室が東京慈恵会医科大学 Team COVID-19 PCRセンターを立ち上げた。こうした取り組みは、PCR検査の拡大と臨床検査技師の負担軽減につながるものと期待できる。
もちろん、臨床検査技師の仕事はPCRだけではないし、新型コロナウイルスに関わることだけではない。
臨床検査技師の重要性はますことはあっても減ることはない。これからもパートナーとして、共に歩んでいけたらと思っている。
【追記】
臨床検査技師とともに重要な資格のひとつに衛生検査技師がある。2005年で廃止され、2011年で新規免許の公布がなくなったものの、まだ免許をお持ちの方々がいらっしゃる。
衛生検査技師の方々にも敬意を表したい。