百貨店の次は総合スーパーが ~ 帯広で見る全国のこれから
セブン&アイ・ホールディングスは、今年(2023年)3月にグループ再編含む合理化策を検討していることを明らかにした。その中で、総合スーパー「イトーヨーカドー」について、大規模な店舗削減が盛り込まれていることが大きな話題となった。北海道では、「イトーヨーカドー」の道内からの完全撤退が明らかになり、流通業界の衰退を象徴するものとして話題になったが、こうした傾向は北海道に限ったことではない。
・百貨店に続いて、総合スーパーも
北海道帯広市では、今年(2023年)1月末で「藤丸百貨店」が閉店した。北海道の地場資本の百貨店が消えることとなり、大きな話題となった。
しかし、地域商業の衰退は、これに止まらなかった。7月末には、帯広駅前の大型商業施設「長崎屋帯広店」の直営売り場が閉店。さらに、9月末にはこの商業施設に残っていたスーパー「福原 長崎屋店」も閉店した。
そして、今回のセブン&アイ・ホールディングスの発表で、帯広駅から約3キロの場所にある「イトーヨーカドー帯広店」の来年6月での閉店が明らかになった。
「中心部でちょっと買い物というのは不便。ただ、うちはイオンに行くのが多いですから、影響はあまりないかな。」帯広市内に住む60歳代の夫婦は、そう話す。帯広市内には、駅から1キロほどのところにイオン帯広店がある。「バスが市内中心部を経由してイオンまで行ってくれるので」とも言う。30歳代の会社員は、「帯広の場合、市内にも郊外にも食品スーパーがあり、車社会ですからねえ」と、あまり影響はないと話す。
しかし、「イトーヨーカドー帯広店」を訪れてみると、路線バスやタクシーで来店する高齢者も多く、同店の隣接地にはニトリ、ユニクロ、スポーツデポ、ホームセンターDCM、家電量販店100満ボルトなどが立地し、ロードサイド型の商業集積を形成している。それだけにイトーヨーカドーの後継店もすぐ見つかるのではないかという楽観論も、地元の人たちから耳にした。
ただ、百貨店だけではなく、総合スーパーまでが撤退していく状況に地元経済界からも危機感が伝わってくる。
・物販系でのネット通販が拡大
コロナ禍を経てネット通販(EC市場)の拡大が、小売業界に大きな影響を与えている。経済産業省によれば、2022年の物販系のEC化率は9.13%と1割に満たないという結果になっている。
しかし、生活家電などでは42.01%、書籍・映像・音楽ソフトでは52.16%となっており、街中から電器店や書店、レコード・CDショップなどが急速に消えていることを裏付けている。さらに生活雑貨などでは29.59%、そして衣類・服装雑貨等でも21.56%と2割を超している。
東京都内のある商店街組合の理事長も「コロナ後になり、商店街には人が戻ってきているが、衣料品や雑貨など物販系はネット通販に奪われて厳し状況だ。商店街の店舗もコロナ前と顔ぶれが変わってきている」と言う。
食料品から衣料、家電まですべてを網羅することで成長してきた総合スーパーも、ユニクロやニトリなどに代表されるカテゴリーキラーと呼ばれる専門店の急成長や、食品スーパー化するドラッグストアの急増に加えて、ネット通販にも追い詰められつつある。
・強みだった食品スーパー部門でも
「総合スーパーにとって、これまでは衣料品や雑貨で失った分を、食品でカバーしてきた。ところが最近になって、食品部門も厳しくなってきている。」近畿地方のある流通業界の社員はそう話す。
10月17日に帝国データバンクが発表した『「食品スーパー業界」動向調査』によると、食品スーパーの3割が「赤字」と回答しており、業績悪化は過去最高となっている。業績の悪化は、地方で目立っており、地場の中小食品スーパーが苦境に立たされていることが鮮明になった。
食品スーパーは、コロナ禍の中で、外食から自炊への回帰など節約志向の高まりが追い風となってきた。しかし、電気・ガス代など水道光熱費、パート・アルバイトの人件費の上昇が負担を大きくしている。さらに、地方の食品スーパーでは、全国チェーンの大手スーパーとの低価格競争に巻き込まれ、赤字傾向が鮮明になっている。
・スーパーの倒産・廃業の増加
こうした厳しい状況の中で、地方のスーパーの倒産が急増している。帝国データバンクの「倒産集計2022年11月報」によれば、2022年における「スーパーマーケット(食品スーパー)」の倒産は11月までに累計19件発生し、2021年の13件を大幅に上回った。特に地方スーパーの倒産増が目立っている。
老朽化した店舗とアルバイトやパートの確保が困難となり、店舗の縮小や廃業も目立ってきている。その背景には、急速に進む高齢化と人口減少による市場の縮小がある。
「これまでは地方スーパーが目立っていたが、ここへきて総合スーパーでも採算性の悪化や市場の縮小への対応を検討せざるを得なくなってきている。」全国展開するある大手流通業の関係者は、そう話し、今後、1970年や1980年代に開業した郊外型の総合スーパーでも閉店が進む可能性があると指摘する。
・帯広で起こっていることは、全国でも起こる
帯広市の人口は、第二次世界大戦後、人口増加が続いていたが、2000年の約17万人をピークに減少に転じ、2021年から2022年には18年ぶりに千人を超す減少となった。
こうした傾向は、帯広市に限ったことではない。人口が減少すると同時に高齢化も進む。市場が縮小する中で、総合スーパー、食品スーパーは、相互の競合に加え、カテゴリーキラーやドラッグストアの進出、さらにネット通販との競合の中で、淘汰が進んでいる。
全国各地で百貨店の廃業、倒産が話題になっているが、さらに地方の食品スーパー、そして総合スーパーの撤退、廃業、倒産が目立ちつつある。
「百貨店と同様に大型スーパーが撤退した後のビルの撤去や活用に関しては、今後、地域社会の大きな問題になる。結局、自治体が負担して撤去ということが続くことだけは避けたい。」ある地方自治体の幹部職員は、そうした事態も想定しての検討が必要だと指摘する。
・地域の中で商業をどう位置づけるか
「百貨店や総合スーパーに依存したまちづくりは、もう限界だ。ネット通販の普及と、ドラッグストアのスーパー化など、流通業界の変化に自治体などが立てている地域計画が合わなくなっている。」近畿地方のある地方議員は、このように指摘し、商業施設の適正配置なども含め、これまでの規制緩和に傾斜しすぎた地域計画や商業振興策を見直す時期だと言う。
流通業界の変革が進む中で、百貨店や総合スーパーを中心市街地や駅前の集客施設として位置づける発想では、成り立たなくなっている。帯広市では、屋台村や馬車BARなど様々な取り組みが行われている。閉店した「藤丸百貨店」の再開に関しても、動きがあるようだ。
今後、地域の中で商業をどう位置づけるか。先進事例として、帯広の動きは注目できるだろう。帯広で起こっていることは、今後、全国でも起こりうることだからだ。