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スペイン、セビージャで出場機会を欠く清武。代表MFが移籍するリスクとリターン

小宮良之スポーツライター・小説家
清武はセビージャを後にするのか?(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

リーガエスパニョーラ、セビージャに所属する日本代表MF清武弘嗣には、冬の移籍の噂が出ている。

リーガは4試合出場(16試合中)、1得点。チャンピオンズリーグは1試合(6試合中)、0得点。

国内リーグ年内最後のマラガ戦も(チームは4-1と快勝)、ベンチのまま。これでは、助っ人としては移籍話が絶えないのも無理はない。

しかし、本当に清武は移籍を決断するべきなのか?

移籍するリスクとリターン。あるいは残留するリスクとリターンとは――。

デポルの移籍話も、立ちはだかる言葉の壁

12月17日でセビージャは国内リーグの日程が終了。これからは移籍マーケットの動きが一気に活発化する。

現時点で、清武の有力な移籍先として噂されるのが、同じリーガのデポルティボ・ラコルーニャだ。ガイスカ・ガリターノ監督とセビージャのファンマ・リージョコーチは同門。今年からクラブの相談役に戻ったリカルド・モアル(通称リチャード)はで2年間、ハノーバー96で技術スタッフとして勤務している。接点はあるだけに、コンディションや給料次第では――。。

しかし現地では、「クラブとしては、欧州外選手の枠を埋めてしまうし、そこまで熱心ではない」という声も聞かれる(リーガのEU外選手枠は3人。デポルは埋まった状況)。また、「清武は日本代表に招集される長旅による疲労で、フル稼働できない」というデメリットも心配もされる。

なにより、日本人MFには言葉の不安が拭えない。冬の移籍で補強する選手は即戦力であることが条件。コミュニケーションの問題は、大きなマイナス点だろう。

実はスペインでは、「選手は3ヶ月も暮らせばスペイン語を話せる」と捉えられている。南米やポルトガル、イタリア、フランス、ルーマニアなどラテン語圏から来る選手が多く(旧ユーゴの選手も語学習得力が高い)、文法や語彙に共通点があるからだ。慣習として、日本人にも同じ適応力が求められる。例えばドイツでプレーするよりも、語学の重要性が高いのだ。

「言葉も話せない選手に共感できないね」

それが現地の人々の偽らざる本音なのである。これを覆すには、圧倒的な実力を見せつけるしかない。

そう考えると、今の清武がセビージャに残留することは茨の道となるだろう。MFとしては8,9番手の扱い(4~5枠で)。ホルヘ・サンパオリ監督新たに就任してスタートしたチームだが、ここにきて戦術的に着実に噛み合ってきており、選手の序列が大きく崩れることは考えられない。

プレー機会を重視するなら、残留よりも移籍の道を選ぶのが妥当だろう。

大事なのは行く先となる。慣れ親しんだドイツ、ブンデスリーガのクラブも候補に挙がっているが、もしセビージャのような強豪クラブで活躍することを志すなら、スペイン国外に出るべきではない。ドイツに戻ったら、プレーリズムも生活環境もリセットされてしまう。どうあっても、スペイン国内を選択すべきだ。

そう考えると、デポルは悪くない選択肢となる。

ガリターノ監督率いるデポルは、基本的に4-2-3-1のトップ下を入れたシステムで戦うが、清武とトップ下のボルハ・バジェの放出を決めるなど、選手補強に動いていることは間違いない。他のトップ下候補であるエムレ・チョラク(トルコ代表)、ファイチャル・ファジル(モロッコ代表)、カルロス・モレーノ(コロンビア代表)も、ここまで全員で1点。リーガの水に慣れきっていない現状だ。

技量に優れる清武が付けいる余地はあるだろう。

しかし、清武はデポルで外国人選手として絶対的プレーで君臨できるのか。

ガリターノ監督はトップ下に得点力を要求している。清武は自らゴールをもぎ取るタイプではない。たとえ契約したとしても苦労するだろう。そもそも、EU外選手枠の問題もある。

実力や状況を総合した場合、清武は2部で昇格が有力なクラブに移籍するのが望ましいだろう。その間、プレーや言葉などに適応できる。ただ、それは諸事情が許さないだろう。やはり、リスクを背負いながらもデポルでの挑戦に踏みだし、同じ1部リーグで大きなリターンをつかみ取る、という挑戦に踏み出せるなら最善だが・・・。

少なくともセビージャのモンチSD(スポーツディレクター)は、清武を長年スカウティングし、その能力を疑っていない。慧眼で知られるモンチが「スペインに順応することができれば、必ず結果を出せる」が太鼓判を押す。冬の移籍の条件も「レンタル」で、売りに出す気はないという。

清武はいかなるリスクを負い、リターンをつかむのか。冬の移籍市場は1月1日から1月31日まで開くことになる。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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