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Bitcoin振り込めのWannacryは北朝鮮という米国政府

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント
トム・ボサート米大統領補佐官(国土安全保障・テロ対策担当)(写真:ロイター/アフロ)

KNNポール神田です。

2017年5月、Bitcoinを要求するランサムウェアとしての「ワナクライ(Wannacry)」は、北朝鮮の仕業と米国政府が発表している。

世界各地の病院や企業、銀行に影響を及ぼしたマルウェア(悪意のあるプログラム)「WannaCry(ワナクライ)」の攻撃に北朝鮮が「直接関与した」と、米政府が考えていることが18日、明らかになった。

トム・ボサート米大統領補佐官(国土安全保障・テロ対策担当)の発言として伝えた。

ワナクライの攻撃では、150カ国で30万台以上のコンピューターが影響を受け、何十億ドルもの被害が生じた。

米国が不正プログラムについて公式に国を非難した初めてのケースとなる。ボサート補佐官は、政府の見方は「証拠に基づいている」と述べた。

出典:「ワナクライ」サイバー攻撃に北朝鮮が関与と米政府=報道

この報道を聞き、2003年の「イラク戦争」を想い出した。米国の言いがかりほど恐いものはない…と筆者は思う。悪の枢軸としてイラクを「大量破壊兵器」を保持していると発表し(2002年1月)、一年後の2003年3月19日にイラクを攻撃した。結果として「大量破壊兵器」は見つけられなかったという前科をアメリカは持っている(筆者は当時のバグダットを取材している)。

そして、「WannaCry」そもそもの誕生の原因は、米国家安全保障局(NSA)の国民情報収集ツールの「エクストラベーコン」にあると言われる。

「ワンナクリプト(WanaCrypt)」の亜種が、国家どころか世界中をピンチに陥れる結果を招いた。NSAの国民情報収集ツールの存在そのものが問題だった。

出典:「ワナクリプト(WannaCrypt)」大規模感染中、NSA産のランサムウェア×ビットコイン

米国は、自国で核を保有しながら核開発の国を非難する。米国家安全保障局(NSA)の監視ツールを保有しながら、悪用する国を非難する。

米国家安全保障局(NSA)の監視ツールがハッキングされ、その亜種として「ワナクリプト(WannaCrypt)」が誕生したと言われる、そして、何者かに悪用され猛威を奮った。そしてその犯人が北朝鮮のハッカー集団「ラザルス」であると米国は断定する。

同当局者は、米政府は北朝鮮傘下とされるハッカー集団「ラザルス」が同攻撃を行ったと「確信を持って」分析したと語った。

ラザルスは2014年に起きたソニー<6758.T>傘下の米映画会社ソニー・ピクチャーズエンタテインメントへのサイバー攻撃への関与が疑われている。

出典:トランプ政権、サイバー攻撃「ワナクライ」は北朝鮮が関与と非難

ここでも注目されるのが、北朝鮮のハッカー集団「ラザルス」だ。

(2017年)6月に韓国最大の仮想通貨取引所で、約3万6千件の顧客情報が流出、9月にも別の取引所で多額の通貨が盗まれた。国情院では、北朝鮮と関係があるハッカー集団「ラザルス」が関与したとみているという。

出典:北朝鮮が韓国の仮想通貨攻撃か ハッカーらは女性専門職を装い入社志望や業務提携の提案

北朝鮮のロケット開発が常に話題になるが、筆者は、むしろロケットよりもこのハッカー集団「ラザルス」の方が気になる。いや、「クラッカー集団ラザルス」と呼ぶべきなのだ。ロケット開発の資金とハッカー集団の育成のどちらが合理的かだ。また、北朝鮮が莫大な報奨金を払って天才ハッカーをリクルートしたほうが、実質経済への影響度はロケットを飛ばすよりも、はるかに大きい。ロケットで不安を募るよりも、クラッカーがこぞって、仮想通貨市場へのクラックを試みたほうが実入りも大きいはずだ。中国の北朝鮮への経済制裁も2018年1月末から効果しはじめる…。中国からの外貨がなくなるとサイバーテロの可能性が高まると考えることもできる。また、北朝鮮のなりすましをして便乗する集団もいるかもしれない。防衛レイヤーからセキュリティレイヤーへのシフトのほうが、世界のパワーバランスが強まることだろう。

日本の防衛庁の来年度(2018年平成30年度)の予算請求は、5兆1900億円程度。防衛関係の予算を過去最高額とし、護衛艦2隻の建造費としておよそ1055億円を計上しているが、「情報セキュリティ庁」を自前で作った方が、はるかに防衛に貢献するように筆者は思う。憲法を改正することもなく、世界最高のハッカーを集めてセキュリティ大国を目指すのは、日本の未来に投資するひとつの方法ではないだろうか?

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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