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「ウィシュマさんのときから変わっていない」 名古屋入管でまた適切な救急搬送がされなかったと市民が抗議

関口威人ジャーナリスト
名古屋入管に抗議するため集まった市民ら(2023年10月10日、筆者撮影)

 2年前に収容中のスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさんが亡くなった名古屋出入国在留管理局(名古屋入管、名古屋市港区)で10月6日、新たに収容されていたパキスタン人男性が急病で倒れ、救急車が駆け付けたにもかかわらず、入管側が搬送を断っていたことが分かった。死亡直前の衰弱するウィシュマさんに接した支援者らは、「入管の体制は何ら変わっていない」などとして10日、入管前で抗議の声を上げた。

持病持ちのパキスタン人男性が倒れる

 ウィシュマさんの支援者だった眞野明美さん(愛知県津島市)によると、6日午後3時過ぎ、名古屋入管に収容されているブラジル人男性から「同じブロック(区画)のパキスタン人が倒れた。ほとんどごはんが食べられなくて胃腸が悪い人。周りはみんな『救急車を!』と声を上げ、看守がどこかに連れて行ったが救急車が来ない」と電話があった。「カメラの部屋(発熱者などが移される隔離部屋)に入れたら危ない。スリランカの女の人みたいに!」とも叫んだという。

 眞野さんはすぐに名古屋市消防局に電話をし、救急車の出動を要請。市消防局救急課によると、午後3時33分には救急車が名古屋入管に到着。窓口の職員に事情を聴いたが、「救急車は呼んでいない」という対応だった。しばらくして別の職員が出てきて「脳梗塞の持病がある被収容者だが、激しく倒れたわけではなく、フワッと倒れた。施設内の医師に確認したところ、今の状態なら救急搬送の必要はないとされた」と説明。救急車は午後3時50分には入管を引き揚げたという。

 取材に対して同救急課は、入管の医師と救急隊員は直接話をしていないとした上で、「医師がいるのであれば(救急搬送が必要でないという)入管職員の言葉を信用することになる」と述べた。

3連休明けの面会でも「つらい」と訴え

 ただ、翌日の7日、当のパキスタン人男性から直接連絡を受けたという眞野さんは、男性が隔離部屋にいて「今も心臓が痛い。頭が痛いから眠れなかった。夜、全部戻した。いろいろ薬飲まされただけ。点滴したらだいぶ違うだろうけれど、点滴してくれない」と訴える声を聞いた。男性が入管内で倒れたのはこれで4回目だとも話したという。

 その日からは3連休となり、眞野さんが入管に電話してもまったく対応されなかった。眞野さんは連休明けの10日朝に入管に駆け付けて男性に面会。無事は確認したが、まだ血尿が出たり、ベッドから起き上がるのがつらかったりすると訴えたという。

 SNSを通じて集まった30人ほどの市民の前で、眞野さんは点滴や外部の病院での適切な受診を望んでも叶えられずに亡くなったウィシュマさんの例と重ね合わせ、「ウィシュマさんのときと何一つ入管の体制は変わっていない。職員のメンタルも変わっていない」と指摘。市民らは「同じ過ちを繰り返すな」「人権守れ、命を守れ」と入管施設に向かって叫んだ。

「症状に応じ必要な診療・治療で対応」と入管側

 名古屋入管の広報担当者は取材に「特定の被収容者の健康状態や個別の事案への対応については、個人情報を含むため回答を差し控えたい」とした上で、「到着した救急隊員に対しては、当庁の医師による診療結果などを説明し、それを受けて救急隊員が引き揚げた」「被収容者の健康管理や医療対応については、症状に応じて必要な診療・治療を受けさせており、その結果に基づき適切に対応している」と回答した。

 ウィシュマさんの遺族らが国を相手に損害賠償を求めている民事訴訟では、入管がウィシュマさんに対して適切な医療を受けさせたかどうかが争われている。一方、法務省出入国在留管理庁はウィシュマさん死亡当時は名古屋入管にいなかった常勤医師が、今年4月から1人採用されて医療体制を強化したとしている。

ジャーナリスト

1973年横浜市生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科(建築学)修了。中日新聞記者を経て2008年からフリー。名古屋を拠点に地方の目線で社会問題をはじめ環境や防災、科学技術などの諸問題を追い掛ける。東日本大震災発生前後の4年間は災害救援NPOの非常勤スタッフを経験。2012年からは環境専門紙の編集長を10年間務めた。2018年に名古屋エリアのライターやカメラマン、編集者らと一般社団法人「なごやメディア研究会(nameken)」を立ち上げて代表理事に就任。

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