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五神学長は「東大生よ、新聞を読もう」と本当に言ったのか?

篠原修司ITジャーナリスト/炎上解説やデマ訂正が専門
東京大学総長は言った。「海外メディアを見て日本メディアの報道との違いに注目して」(写真:アフロ)

4月12日(火)に東京大学の入学式が日本武道館で行われ、五神(ごのかみ)真学長が式辞を述べられました。

そしてそのことを新聞各社がニュースとして報じているのですが、少しおかしいのです。話題となった読売新聞の記事を始め、まずは各社の記事を紹介します。

読売新聞:東大生よ、新聞を読もう…入学式で五神学長

五神真学長は式辞で「うわべの知識をうのみにせず、情報の洪水にのみ込まれない『知のプロフェッショナル』になってほしい」と指摘。その上で、「皆さんは毎日、新聞を読みますか。新聞よりもインターネットやテレビでニュースに触れることが多いのではないでしょうか。ヘッドラインだけでなく、記事の本文もきちんと読む習慣を身につけるべきです」と述べた。

出典:東大生よ、新聞を読もう…入学式で五神学長 : 社会 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)

朝日新聞:東大入学式、総長「新聞読みますか?」「習慣身につけて」

五神(ごのかみ)真総長は式辞で、「皆さんは毎日、新聞を読みますか?」と新入生に問いかけ、「ヘッドラインだけでなく、本文もきちんと読む習慣を身につけるべきです」と述べた。

出典:東大入学式、総長「新聞読みますか?」 「習慣身につけて」:朝日新聞デジタル

毎日新聞:「諦めない心を」梶田さんが祝辞

式で五神真(ごのかみまこと)学長は「知をもって人類社会に貢献する『知のプロフェッショナル』を目指してほしい」と述べた。また「新聞を読みますか」と問い掛け、記事をしっかり読む習慣の大切さを強調した。

出典:東大入学式:「諦めない心を」 梶田さんが祝辞 - 毎日新聞

産経新聞:「新聞読みますか」五神真 東大学長が新入生に問いかけ

五神真(ごのかみ・まこと)学長は式辞で「情報は瞬時に得ることができるようになった。しかし、真の知識は人が自ら経験し、思考することによって生み出される」と強調。さらに「毎日、新聞を読みますか」と問い掛け、記事をしっかり読む習慣を身に付け『知のプロフェッショナル』を目指すよう求めた。

出典:「新聞読みますか」 五神真 東大学長が新入生に問いかけ - 読んで見フォト - 産経フォト

新聞各社「新聞を読みますか?」を紹介しているが……

読売、朝日、毎日、産経の4社がともに「新聞を読みますか?」と問いかけたことをテーマにしていますが(毎日のみノーベル物理学賞を受賞した梶田さんを記事タイトルに)、それは五神学長の本意ではないように見受けられます。

なぜ、そう言えるのか?

それは「平成28年度東京大学学部入学式」の総長式辞全文を読めば分かります。ここでは「新聞を読みますか?」に触れた部分だけを取り上げます。

五神学長「日本の新聞やテレビによる情報だけでは足りない」

ところで、皆さんは毎日、新聞を読みますか? 新聞よりもインターネットやテレビでニュースに触れることが多いのではないでしょうか。ヘッドラインだけでなく、記事の本文もきちんと読む習慣を身に着けるべきです。東京大学ではオンラインで新聞記事や学術情報を検索し閲覧できるサービスを学生の皆さんに提供しています。ぜひ活用してください。

その上で、皆さんにさらにおすすめしたいことがあります。それは、海外メディアの報道にも目を通すことです。日本のメディアの報道との違いに注目してみてください。また、世界の中で日本がどのように見られているかということも意識してみてください。私は総長になって以来、世界の多様な人々と話す機会が増えました。その中で世界のとらえ方や、外から見た日本の姿が、私のそれまでの常識とずいぶん違うと思うことが度々ありました。手近な日本の新聞やテレビによる情報だけでは足りないのです。皆さんには、ぜひ、今からそのような国際的な視野を日常的に持つ習慣を身に着けてほしいのです。

出典:平成28年度東京大学学部入学式 総長式辞|東京大学

この部分を読むだけでも、新聞各社の記事と随分違った印象を受けるのではないでしょうか?

五神学長はたしかに「新聞を読みますか?」と問いかけていますが、それは「記事の本文もきちんと読む習慣を身に着け」、「海外メディアの報道にも目を通して日本のメディアの報道との違いに注目する」ためだと言っています。

なぜなら「手近な日本の新聞やテレビによる情報だけでは足りない」からだとも。

新聞各社が報道したように「東大生よ、新聞を読もう」と新入生に伝えたかったわけではありません。「その新聞の情報では足りない」と言っており、そしてまさに新聞各社の記事がそれを表現したかたちになります。

疑問に思ったらまずは一次ソースをあたる

文字数のかぎられた新聞では、インターネットのように全文を書き下ろして伝えることはできません。「何を伝えるべきか」を取捨選択する人の手が入ります。

もちろんそういった編集がなければ読者は全ての記事を読むハメになり、それでは時間がいくらあっても足りません。だからこそ新聞社の仕事が求められているのですが、ときにはこうした誘導が行われることを我々は知っておかなければなりません。

記事を読んで「どこか変だな?」と思ったら、まずは一次ソースをあたるようにしましょう。もしも一次ソースがなければ、ほかの新聞社の記事と比較してみるとニュースの輪郭がよりハッキリします。

東大の新入生の皆さんに言うべきほどのことではありませんが、メディアの編集者として「気になることは一次ソースをあたりましょう」の言葉を送ります。ご入学、おめでとうございます。

ITジャーナリスト/炎上解説やデマ訂正が専門

1983年生まれ。福岡県在住。2007年よりフリーランスのライターとして活動中。スマホ、ネットの話題や炎上などが専門。ファクトチェック団体『インファクト』編集員としてデマの検証も行っています。最近はYouTubeでの活動も。執筆や取材の依頼は digimaganet@gmail.com まで

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