人気クリエイターが銀座で個展を開催 『デザインを考える上でアウトプットよりも大事なもの』
NHK朝の連続テレビ小説『ちむどんどん』のロゴマークやパルコの『パルコアラ』、SUZUKI『ハスラー』などのデザインを手がけるアートディレクター、クリエイティブディレクターの小杉幸一さんが7月11日(火)より恐竜をテーマにデザインを施したイベントを開催。現在日本でも最も人気のあるクリエイターの一人でもある小杉さんに、学生時代から広告代理店を経て現在に至るまでの話を聞くことができた。
イベントは大人から子供まで楽しめるデザインテーマパーク
小杉幸一さん(以下、小杉さん)「今回開催する個展『グラフィックパーク』では、僕が20年間デザイナーからアートディレクター、クリエーティブディレクターとして携わってきたクライアントワークを展示させていただきつつ、ワンフロアは新作も展示します」
気になる新作のテーマは『恐竜』。なぜそのテーマを選んだのだろう。
小杉さん「僕、恐竜がちっちゃい時から大好きで。恐竜ってまだほとんど謎に満ちているというか、まだまだ未知に溢れている。遥か昔の3億年前をテーマに、恐竜をグラフィックデザインで再解釈して、デザインの展示というよりテーマパーク。見て楽しむ、体感できる展示にできるといいなというのがあって。ちょうど夏休み期間なので、お子さんにも来ていただいて、デザインを少し身近に感じてもらえるようなそんな展示にできたらいいなと思っています」
デザインに自信がなかった美大生時代
博報堂でのデザイナー時代を経て現在は自身の会社「onehappy」代表の小杉さん。武蔵野美術大学に通っていた当時、どういう学生だったのか教えていただいた。
小杉さん「美美大生ってちょっと人と違ってたり、変わってるとか、そういうイメージがある人もいるんですけども、僕は課題を誰よりも真面目に出して、誰よりも単位を取っていて。当時デザインにはあまり自信がなくて、何がよくて何が悪いのかがよくわからなかった時期があった時に、課題で先生がひとつの解を出してくれるというか。『この方向はこういうことに向かっているよ』とかそういう感覚が知りたかったんです」
就職活動で「〇〇なやつ」と言われるためにやったこと
3年生になり就職活動を始めた当時のことを振り返りながら「僕、就職活動でショックを受けたんです」と小杉さん。
小杉さん「僕は広告代理店を受けたんですけど、大体優秀な人って、『〇〇賞』を獲っていたり、『あの人ってこういう作品を作っているっぽい』とか、そういうのがあるんですが、自分だけ何もなくて。学生時代のバイトはコンビニのバイトリーダーみたいなものもやっていたので、採用面接もちょっとやらせてもらっていたんですよ。それで、店長とかと話していると、結局誰も名前なんて一切覚えていなくて。『なんか、緑色のTシャツで面接に来たやつ』とか『髪型が変なやつ』とかで覚えている。それは就職活動でもそうなのかもしれない、『自分は〇〇なやつだ?』 と思っちゃったんですね。その時に自分には何もなくてショックを受けて。それでもう1回振り返って、自分の作品を見たときに『ただいっぱい作品があった』ということだけ。『誰よりもいっぱい作ってるやつ』で覚えてもらおうと思って」
小杉さん「博報堂の面接の時に、1人1部屋がプレゼンテーションルームとしてあったんですけど、面接官の人にお願いして『2部屋ください』と。作品の展示の仕方も見え方もちゃんとデザインして、『1番作品が多いやつ」っていう風にしました」
その甲斐あって、めでたく2004年に博報堂に入社した小杉さん。2019年に退社をして独立するまで、様々な仕事に取り組んだ。
小杉さん「入社して2件目の案件がSONYのPSPのプロモーションといういきなり大きい仕事をやらせていただきました。CMの企画も考えさせてもらったり、あとグッズとか。本当に美大の作品作りの延長線上にはあったなと思います」
アウトプットだけでなくプロセスが大事
美大生の頃には、「自分のデザインに自信がなかった」と小杉さん。どのような過程を経て現在のように数多くの仕事を手がけるようになったのだろう。
小杉さん「当時憧れていた大貫卓也さんや佐藤可士和さん、佐野研二郎さん、森本千絵さんら、博報堂の先輩方も含めていろんな方に憧れて勉強していたんです。『この色合いをよく組み合わさられるな』とか『この書体の使い方はすごい』とか、アウトプットで研究していたんですけど、ある時にアウトプットばかりを追いかけていることが正解じゃないなと思って」
小杉さん「やっぱりそういうデザイナーの方たちはプロセスの方が重要というか、自分の好きなものとか考え方が関係していることに気づいたときに、アウトプットだけでなくプロセスを重要視するようにしたんです。だから僕はいまではプレゼンテーションの方をあまり形を決めないですし、その方法論をクリエイティブするようにしてからの方が自ずとアウトプットに差が出てくるようになりました」
人気クリエイターの知見が学べる本
今では日本を代表するクリエイターの一人として数えられる小杉さん。今年3月には初となる著書『わかる! 使える! デザイン』(宣伝会議)を上梓している。
小杉さん「この本は『デザインを人格として捉える』ということを書いています。『法人』にも人という字が入っていますが、広告って『みんなに届けたい』ってやると大体失敗するんです。『こういう人』とか『あなたに』とか、ピンポイントで考えるほうがずっとシャープで強いものができる。そういう風に人格を構成として真ん中に置いていますね」
本の冒頭、「ビジュアルデザインは『今を生きる人たちの共通言語』」と小杉さんは書いている。著書の内容について、少し話を聞いてみました。
①色は「性格」
小杉さん「企業や商品を人に例えた時、重要なものの一つに『性格』があります。それを『色』で表現できるという考え方です。色彩学では、『赤』は<情熱的な><活動的な>などの色情報を持っています。もし、企業や商品を<情熱的な><活動的な>印象を世の中にメッセージしたい時には青や黄色でなく、『赤』で表現する必要があるという考え方です。逆に『青』を使用しているIT企業やデジタル業界が多いのは、<知的な><先進的な>意味合いがあるからです。保育園や幼稚園に『黄色』が使われているのが多いのは、『幸福な』人として感じてもらいたいからなのです」
②書体は「声色」
小杉さん「例えば、太いゴシック体は『野太い声色』、細い明朝体は『繊細で美しい声色』のイメージです。また、サイズ感で<声>のボリュームも表現できます」
③レイアウトは「姿勢」
小杉さん「レイアウトした文字や写真の配置を自由に組んでいたら『この人(企業)は自由に生きている』という姿勢が伝わりますし、データを使ってグリッドを感じるくらい規則性があるレイアウトは、そうしたものを大切にしている姿勢が伝わります」
④写真は視点
小杉さん「例えば、グローバルブランドを目指している企業は、世界規模、社会規模の視点を持っていて。だとすると使用する写真は地球を感じるものにします。農業に従事している人々を大切にしている人(企業)の場合は、手の超アップで、些細で力強い手のディテールを見ていることを大切にしているなど。その企業の見ている視点というものを表現します」
小杉さん「これは『スターフライヤー』の広告ですが、ただ就航先の写真を撮影して紹介するのではなく、『こういう視点で、こういうアングルで、こういう色合いで世の中を見ている人』を感じてもらいたいため、このような世界観で撮影をしています」
個展は7月11日(火)から開催
プロセスを大切にすることで自分の個性を確立、現在唯一無二のデザイナーとして人気の小杉幸一さんの個展「KOICHI KOSUGI Graphic Parz 小杉幸一 グラフィックパーク」は7月11日(火)から「ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)」にて開催。日本のトップクリエイターが手がける個展にぜひ足を運んでみよう。
KOICHI KOSUGI Graphic Park
小杉幸一 グラフィックパーク
住所/東京都中央区銀座7-7-2 DNP銀座ビル1F/B1F
ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)
TEL/03-3571-5206
開館時間/11:00〜19:00
休館/日曜・祝日
料金/入場無料