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「赤ワインで認知症が5分の1になる」って本当なの?

市川衛医療の「翻訳家」
写真はイメージです(写真:アフロ)

赤ワインで認知症が5分の1に?

ネットで「ワイン 認知症」と検索すると、「ワインでアルツハイマー型認知症を予防」「赤ワインの認知症予防効果」などの言葉が並びます。

美味しいワインを飲んでいれば、認知症が予防できる。うれしい情報ですが、そもそもなぜワインが注目されるようになったのでしょうか?調べてみたところ、きっかけになった研究を見つけました。

1997年にフランスのボルドー大学が発表した論文です。

舞台となったのは、フランスのとある地方。まず、この地方に住む3777人のお年寄りに協力をお願いし、どんな生活をしているかを聞くアンケートに答えてもらいます。開始時点で、この中には認知症の人が一人もいないことを確かめました。

3年後、同じ人たちをもう一度調査します。ふたたび協力が得られた2273人を調べたところ、一部の人が認知症になっていたことがわかりました。認知症になった人とならなかった人の生活習慣には、どんな違いがあったのか・・・?研究グループが調べたところ「ワインを飲む習慣」が浮かび上がってきたんです。

Orgogozo JM et al. Rev Neurol.(1997)より
Orgogozo JM et al. Rev Neurol.(1997)より

注目して頂きたいのは、「オッズ比」という欄です。ある事柄の「起こりやすさ」を表す数値で、今回は認知症の起きやすさ(なりやすさ)を示しています。ワインを飲まない人が「1」に対して、ワインを中くらい(1日3-4杯)飲む人は「0.19」、なんとおよそ5分の1しか認知症にならなかったというのです。もはや今日から、お酒は全てワインに変更!飲めない人でも、薬と思って飲んだほうが良い…のでしょうか? 

ワインと食生活の関係

結論から言えば、「NO」です。少なくとも「5分の1になる」と確信を持って言うことはできません。

なぜなのか。実は最近の研究で、ワインを適度に飲む習慣がある人は、健康的な食生活をしているケースが多いことがわかってきました。オリーブオイルを使った伝統的な料理や、たんぱく質が豊富なチーズには、ワインがとてもよく合いますよね。要は、健康的な食生活のほうが重要であり、それを心がけている人がたまたまワインを飲んでいた可能性もあるということです。

一方で、ワインを含むアルコールを飲みすぎる暮らしを続けていると、認知症の危険が逆に高まってしまうこともわかってきました。

以上から現在では、“ワインと認知症”の関係に関しては、「ワインを含むアルコールを適度に楽しむような生活習慣には、認知症のリスクを減らす効果がありそうだ」と考えられるようになってきています。

つまり「ワインで認知症予防」を目指すなら、単にワインを飲むだけではなく、”サラダとチーズをつまみに適度にワインを傾け、家族や友人とゆっくり会話を楽しむ”みたいなライフスタイル自体を取り入れたほうが良さそうだ、ということ。もちろん「そんなのムリ」「ワイン好きじゃないし」「かえってストレスになっちゃうよ!」と思われた方は、無理する必要は全くありません。(私もムリかも…)

ちなみに、ワインに限らずほかのお酒でも「適度に楽しむ暮らし」をしている人は、認知症になりにくい可能性を示した研究があります。結局は「自分のライフスタイルに合わせて、適度に好きなアルコールを楽しむ」暮らしこそが、脳を元気に保つことにつながるのかもしれません。

医療の「翻訳家」

(いちかわ・まもる)医療の「翻訳家」/READYFOR(株)基金開発・公共政策責任者/(社)メディカルジャーナリズム勉強会代表/広島大学医学部客員准教授。00年東京大学医学部卒業後、NHK入局。医療・福祉・健康分野をメインに世界各地で取材を行う。16年スタンフォード大学客員研究員。19年Yahoo!ニュース個人オーサーアワード特別賞。21年よりREADYFOR(株)で新型コロナ対策・社会貢献活動の支援などに関わる。主な作品としてNHKスペシャル「睡眠負債が危ない」「医療ビッグデータ」(テレビ番組)、「教養としての健康情報」(書籍)など。

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