子宮頸がん予防「HPVワクチン」9月中にキャッチアップ接種したほうがいい理由とは #専門家のまとめ
年間、約1万1000人がかかり、将来の妊娠を諦めざるを得ないような治療を受ける20代30代の女性が約1000人いて約2900人が死亡する子宮頸がんを予防するためにはワクチン接種が重要です。国は積極接種の推奨を中断していた期間に接種できなかった世代に対し、キャッチアップ接種を行っていますが、2024年9月中に初回の接種を始めないと公費(無料)での救済期間から外れてしまうので注意が必要です。
ココがポイント
エキスパートの補足・見解
HPV(ヒトパピローマウイルス)とは何か
子宮の出口のあたりにできる子宮頸がんは、HPV(ヒトパピローマウイルス、ヒト乳頭腫ウイルス)の感染が主な原因で生じるがんです。HPVは、ウイルス性のイボ(疣贅:ゆうぜい)を作り出すこともあり、非常に多くの種類があります。
多くの種類の中で、子宮頸がんの主な原因になるウイルスは、高リスク型のHPV(※1、16型や18型など十数種類)です。がん抑制遺伝子を不活化する機能を持つなど、これら高リスク型のHPVに感染すると、子宮頸部、膣、陰茎、外陰部といった部位のがん、頭頸部がん(口腔・咽頭がん)などの発がんリスクが高まります。
男女とも80%以上の人は生涯に一度はHPVに感染するとされ、ほとんどが性交渉で感染します。多くは一過性で何も症状などを起こさずに自然に消失するとされていますが、HPVの感染が持続すると数年から10年以上かけて前がん病変を経て、子宮頸がんなどに進行することがあります。HPV感染から前がん病変や子宮頸がんなどの治療が必要になる割合は、感染者のうちの1%程度と推定されています。
近年、20代から30代の若年層でHPV感染による前がん病変や子宮頸がんの発生率が増加しています。子宮頸がんの前の段階である前がん病変の患者も日本で約10万人いると考えられ(※2)、前がん病変の段階で治療しても将来の妊娠に悪影響(流・早産のリスク増など)が出ることがあります。
HPVワクチン接種について
HPV感染による子宮頸がんなどの予防には、まず感染しないことが第一です。しかし、このウイルスがごくありふれたものであり、性交渉や皮膚接触などによって容易に感染するため、何もせずに感染を防ぐことは不可能です。
HPVウイルスの感染を予防するにはワクチンが、そしてHPV感染後に前がん病変の段階で早期に発見し、早期治療につなげるためには子宮頸がん検診が重要です。ワクチンを接種し、定期的に検診を受ける人が増えれば、子宮頸がんはほとんど予防できると考えられています。
HPVワクチンでは、高リスク型のHPVの一部を抗原としたワクチンが開発され、世界各国で接種が始められました。HPVは二本鎖のDNAウイルスで、DNAウイルスは遺伝子変異を起こしにくいため、ワクチンの効果が長続きするとされています。
HPVワクチンのエンドポイント(目的)は、子宮頸がんになる手前の段階である前がん病変を予防するかどうかで、その効果が確認されたことで日本でも2010年から小学校6年から高校1年相当(13歳から16歳)の女子を対象に公費(無料)で接種が始められました。
しかし、重篤な副反応が発生していることがわかり、それが大きく報道されるなどしたため、厚生労働省はワクチン接種後の健康被害などが不明であるとし、一時的(2013年から2021年)にHPVワクチンの積極的な定期接種の推奨を行わないことを表明しました。
この判断の影響は大きく、公費(無料)で接種できた1999年までに生まれた女性が約7割の接種率だったのに比べ、2000年度生まれ以降の女性でゼロ%から数%とワクチン接種率が大きく低迷していることがわかっています(※3)。
その後、2021年11月に専門家からHPVワクチンの積極的な接種推奨を控えている状態を終えるよう評価が出たことで安全性に関する懸念が認められないと判断、厚生労働省は2022年4月に定期接種を再開しました。現在、小学校6年から高校1年相当(13歳から16歳)の女子を対象に公費(無料)で定期接種を行っています。
また、ワクチン接種の積極推奨がなかった期間に接種できなかった17歳から27歳まで(1997年4月2日~2008年4月1日生まれで過去にHPVワクチンの接種を合計3回受けていない人)の女性を対象に、救済措置として2025年3月末までのキャッチアップ接種が公費(無料)で行なわれています。
厚生労働省によれば、通常の定期接種の対象年齢(高校1年、16歳)を過ぎてもHPVワクチンの接種効果の有効性があることが国内外の研究によってわかっているそうです。また、対象年齢以降のワクチン接種で新たな副反応などの懸念は今のところないとしています。45歳以上でのワクチン接種の有効性はまだ確認されていません。
ただ、HPVワクチンの接種は合計3回必要で、1回ごとに2カ月ほどのインターバルがいいとされ、打ち終わるのに約半年かかります。そのため、2025年3月中に3回目を打ち終え、3回とも公費(無料)で接種するためには、2024年9月中に1回目の接種を始めることが必要です。
HPVワクチンのキャッチアップ接種を受けたい場合、すでに対象年齢の女性へ住民票のある市町村から届いているお知らせ(資料や予診票、医療機関名簿など)を確認するか、市町村自治体の健康窓口や保健所などへ問い合わせればわかります。
2025年3月以降、公費(無料)で接種を受けられる小学校6年から高校1年相当(13歳から16歳)の女子ではない人がHPVワクチンを接種する場合、全額自己負担になり、3回接種で10万円ほどかかることもあります。もし市町村からキャッチアップ接種の案内が来ていたら、HPVワクチンの接種を検討してみましょう。
重要な定期検診と男性の発がんリスク
HPVワクチンの接種ができずに成人してしまった人でも定期的な子宮頸がん検診を受けることで、前がん病変を早期発見でき、妊娠・出産に大きな影響が出ない段階で早期治療につなげる可能性もあります。
また、ワクチンを接種した人でも子宮頸がんの検診を継続的に受診したほうがいいでしょう。日本で接種するHPVワクチン(2価、4価、9価)で予防できるのは高リスク型ウイルスの80%から90%とされていますが、その他の高リスク型ウイルスに対して感染を予防することができない危険性が残っているからです(※4)。
子宮頸がんは、早期に発見して早期に治療すればほとんどが治癒するがんです。しかし、日本では依然として子宮頸がん検診の受診率とワクチンの接種率が低いままであり、どちらも上げていく必要があります。
また、HPV感染は、男性の頭頸部がん、陰茎がんなどの原因にもなります。そのため、男性に対するHPVワクチンの接種の必要性も議論・検討され始めています。パートナーからの感染リスクがあることを考えれば、男女ともにワクチンを接種しておいたほうがいいのは明らかです。
また、HPV感染の主な原因は男女ともに性的接触ですが、喫煙(受動喫煙を含む)も子宮頸がん発症のリスク因子と考えられています(※5)。特に若い女性の喫煙者は、できるだけ早く禁煙することが重要です。
HPVワクチンの副反応について
HPVワクチンでは一定の頻度で副反応が発生します。接種後、接種部位が痛くなったり赤く腫れたりします。まれにアナフィラキシーなどの重いアレルギー症状や神経系の症状(ギラン・バレー症候群、中枢神経疾患など)が出ることもあり、この他にも多様な症状が報告されているのも事実です。
そのため、接種する人と保護者へ強い痛みなどの副反応があることを事前に伝えること、失神などに備えて接種後は少なくとも30分は背もたれのある椅子に座ってもらうこと、その間、様子を注意して観察することなどが接種する医療従事者への注意点としてアナウンスされています。また、1回目や2回目の接種後の副反応などにより、その後の接種を中止したり延期することも可能です。
米国CDCによるHPVワクチンの副反応調査では、約2300万回の接種中、772件に湿疹、接種部位の局所反応、めまい、吐き気、頭痛などの重篤な副反応が報告されています(2006 年6月から2008年12月までの調査)。米国CDCは、これらの副反応がワクチンを接種しなくても通常に起きうる確率と同等としています。
一方、HPVワクチン薬害訴訟が、東京や大阪、名古屋、福岡の各地裁で起こされ、現在、係争中です。HPVワクチン接種と健康被害の因果関係については、法廷の場では議論が続いている状況であることも考えておくべきでしょう。
あくまでワクチン接種は強制ではなく任意です。しかし、本来は健康な人に接種するため、因果関係のある副反応はあってはなりません。
接種の判断に迷い、不安を感じている人も多いと思います。十分な事前の情報提供やコミュニケーションはもちろん、接種後に副反応を訴える患者がいる場合、医療従事者は共感を持って寄り添い、理解する姿勢も重要です。
HPVワクチン接種は、予防接種法に基づく救済措置の対象になります。接種により、医療機関での治療が必要となったり、生活に支障が出るような障害が残るような場合、予防接種健康被害救済制度に給付申請し、認定されると医療費や障害年金の給付などの予防接種法に基づく救済を受けることができます。
・厚生労働省「HPVワクチンの接種を逃した方に接種の機会をご提供します」
※1:Harald zur Hausen, et al., "A new type of papillomavirus DNA, its presence in genital cancer biopsies and in cell lines derived from cervical cancer." The EMBO Journal, Vol.3, Issue5, 1151-1157, 1984
※2:川名敬ら、「ヒトパピローマウイルスと腫瘍性病変─Neoplastic Diseases associated with Human Papillomavirus Infection─」、化学療法の領域、第22巻、第10号、2006
※3:Asami Yagi, et al., "Human papillomavirus vaccination by birth fiscal year in Japan" JAMA Network Open, 7(7), e2422513, 16, July, 2024
※4:Mamiko Onuki, et al., "Human papillomavirus infections among Japanese women: age-related prevalence and type-specific risk for cervical cancer" Cancer Science, Vol.100, Issue7, 1312-1316, July, 2009
※5-1:IARC, "Tobacco smoke and involuntary smoking." IARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans, Vol.83, Lyon, France, IARC, 2004
※5-2:International Collaboration of Epidemiological Studies of Cervical Cancer, et al., "Carcinoma of the cervix and tobacco smoking: collaborative reanalysis of individual data on 13,541 women with carcinoma of the cervix and 23,017 women without carcinoma of the cervix from 23 epidemiological studies." International Journal of Cancer, Vol.118, No.6, 1481-1495, 2006
※5-3:Itzel E. Calleja-Macias, et al., "Cholinergic signaling through nicotinic acetylcholine receptors stimulates the proliferation of cervical cancer cells: An explanation for the molecular role of tobacco smoking in cervical carcinogenesis?" International Journal of Cancer, Vol.124, Issue5, 1090-1096, 2009
※5-4:Koji Matsumoto, et al., "Tobacco smoking and regression of low-grade cervical abnormalities." Cancer Science, Vol.101, Issue9, 2065-2073, 2010
※4-5:Christpher M. Tarney, et al., "Tobacco Use and Prevalence of Human Papillomavirus in Self-Collected Cervicovaginal Swabs Between 2009 and 2014" Obstetrics & Gynecology, Vol.132, Issue1, 45-51, 2018