Yahoo!ニュース

なぜハリルは宇佐美を招集したのか?

小宮良之スポーツライター・小説家
交代出場で得点した宇佐美を、ハリルホジッチ監督が祝福する。(写真:中西祐介/アフロスポーツ)

3月のロシアワールドカップ、アジア最終予選に向けた日本代表メンバー発表には、疑問を呈す声が広がっている。

「ハリルホジッチの選考が理解できない!」

代表監督であるヴァイッド・ハリルホジッチは「Jリーグには選ぶ選手がいない」と発言するなど、その選考基準には批判的な目が向けられてきた。今回はその極みとなったと言えるかもしれない。

「結果を出している選手が評価されず、海外にいるだけで評価されている」

競争原理が正常に働いていない、という指摘が多く出た。

本田選出は予想できた

真っ先にやり玉に挙がったのは、本田圭佑(ACミラン)の選出だろう。本田は今シーズン、出場した時間はアディショナルタイムを入れても100分程度。コンディションの低下は否めない。

非難が収まらない理由は、こうした例が本田だけではないことにある。

長友佑都(インテル)も、今年に入ってからの出場時間は1試合に満たない。香川真司(ボルシア・ドルトムント)もここ2試合は活躍を見せたものの、シーズンを通じての出場機会は限られている。清武弘嗣(セレッソ大阪)も、セビージャで数ヶ月ほとんど試合に出る機会がなく、セレッソに戻ってからも故障で戦列を離れ、先週、復帰したばかり。宇佐美貴史(アウグスブルク)も、控えが定着した状態。川島永嗣に至っては今シーズン、一度もピッチに立っていない。

もちろん、ハリルホジッチにも言い分はあるだろう。

本田に関しては、「招集外」と予測する報道もあったが、ハリルJAPANで最多得点を誇り、戦術的な能力の高さも示している。オーストラリア戦では1トップとして、その大役を果たしていた。直近のサウジアラビア戦もミスは目についたものの、決勝点を奪ったのは長友との連係だった。

メンバー発表前のヤフー記事で記していたように、ハリルJAPANの戦い方を検証すると、本田の選考にそこまでの意外性はない。

長友、香川、清武も、これまでの貢献度を考慮するべきなのだろうし、当然ながら地力はある。「選考は妥当」と言わないまでも、考えられなくはない。また、川島はあくまで第三GKという扱いで、デリケートな試合に向け、国際経験を買ったのだろう。

しかし、宇佐美の選出はとどめになった。

宇佐美はジョーカーになるのか?

宇佐美は技術的なポテンシャルが突出して高く、国内ではその力を示してきた。ただ、欧州でそのプレーが通じたことはない。代表での貢献度も、高いとは言えないだろう。なにより、移籍したドイツで燻っている。

「宇佐美は両足を使えるのが特長、強い自信と意志を感じさせる。ボールを運びながら、リズムの変化を作れる。スモールエリアだけでなく、ワイドエリアでプレーするビジョンも技術もある。ペナルティエリアに近づくと危険」

スペインで有数のスカウティング力を持ち、レアル・ソシエダで20年近く、強化部長や育成部長を歴任したミケル・エチャリは宇佐美について絶賛しながら、こうも苦言を呈している。

「バイエルンが獲得したポテンシャルは伝わる。しかし、周囲との関係の作り方、もしくは戦術に対する理解力に難点がある。個人として切り取るといいプレーをするときはあるが、チームの中でまったく浮いてしまうことも。コミュニケーション力に欠け、それが単調さを生み出し、一度プレーが研究されると、対策を立てられやすい。それが海外で苦しんでいる理由では」

ハリルホジッチは、宇佐美の個の力を必要としたのかもしれない。しかしむしろ、個を集団に昇華できない点に、宇佐美のデメリットはあるのだ。

なにより、宇佐美と同じポジションには、代わるべき選手がいた。

齋藤学(横浜F・マリノス)はJリーグで卓抜とした輝きを見せている。齋藤は日本では別格のプレーで、チームを牽引。また、乾貴士(エイバル)はリーガエスパニョーラで定位置をつかみ取っている。世界最高峰のリーグで、猛者たちを相手に鎬を削る。二人はそれぞれ2014年ブラジルワールドカップ、2015年アジアカップのメンバーで代表戦士として期するものもある。

それでも、宇佐美を招集する必要はあったのか? 

「(宇佐美は)タイ戦のジョーカー」

ハリルホジッチはそう説明したが、齋藤も、乾も宇佐美と似た特質(1対1で仕掛け、崩し、チームに幅を与える)を持っている。

単純にタイ戦の切り札にするなら、宇佐美である必然性は薄い。タイは小柄な選手が多く(身長180cm台後半の選手がほとんどおらず、国内リーグの傾向からハイボールに慣れていない)、空中戦に長けるストライカーをベンチにおいた方が、よほどジョーカーになるだろう。例えば、豊田陽平(サガン鳥栖)、長沢駿(ガンバ大阪)の投入は効果覿面。あるいは、小林悠は機転が利くFWであり、空中戦も滅法強い。

2015年のウズベキスタン戦で、宇佐美は交代出場からゴールを記録している。そのイメージが残っているのかもしれない。スタッフの推薦で選手をメンバーに入れても、ハリルホジッチは名前を覚えられないこともあるが、宇佐美は"お眼鏡にかなった"のだろう。

結局、監督のエゴが出た。

そこに、世間は嫌悪感を示しているのだ。

「本田の代わりはいるか?」の限界

結局のところ、ハリルホジッチは肌の合う選手、合わない選手が決まっていて、そこからはてこでも動かない。

言うまでもないが、"子飼い選手"でチームを組み、戦う、というのは、指揮官として当然の権利だろう。自分の理論を体現するには、自分の気に入った選手を駒とするのが、一番ハズレがない。例えば、昨年10月のオーストラリア戦、プレッシング+リトリート+カウンターの守備戦術は退屈だったものの、一つの作戦として奏功していた。指揮官が「フィジカル」「スピード」「激しさ」を軸に、一つのロジックで戦っていることは間違いない(その点、ぶれているわけではない)。

しかし、ハリルホジッチはあからさまに自らの色に合った選手を重用してしまう。結果を出している選手も、自分のロジックに合わなかったら、まるで興味がない。Jリーグはレベルが低い、と居直ってしまう。門戸を開き、人材を取り込み、戦力とし、必要なら柔軟に戦い方を変化させる、という懐の深さはない。

「本田の代わりはいるか?」

ハリルホジッチは語ったが、そもそも、本田の代わりを探す必要などない。同じ選手など、世界のどこを探してもいないからだ。本田が不振を極めているなら、他にいいプレーを示している選手を違うやり方で用いる(詳細は「W杯予選は佳境。本田圭佑は日本代表に必要ないのか?」を参照)。それが真の名将だろう。

しかし、賽は振られた。

まずはUAE戦、その采配が注目される。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

小宮良之の最近の記事