“不屈の”『長岡米百俵フェス』開催 長岡から全国に勇気と笑顔を届ける
今年のライヴシーンは、2月26日の政府からの自粛要請から始まり、半年以上の間、ライヴというライヴ、フェスというフェスはことごとく延期、中止に追い込まれ、アーティスト、そしてそこに関わる全てのスタッフが悔しいを思いをしてきた。オンラインライヴが多くなる中で、変わっていく状況と共に少しずつ“生”ライヴも再開された。入場時の検温やアルコール消毒、マスク着用はもちろん、客席数を減らし、最前列にお客さんにはフェイスシールドマスクを配布したり、声出しや盛り上がるのを控えたり、あらゆる策を講じ、徹底的な感染予防がとられようやく有観客ライヴが戻ってきた。
万全の感染予防対策を講じ『長岡米百俵フェス~花火と食と音楽と~ 2020』、開催
10月10、11日の2日間、大阪・万博記念公園『OSAKA GENKi PARK』が開催され、ウルフルズ、BEGIN、山崎まさよし、KREVA、渋谷すばる、フジファブリック他50組を超えるアーティストが出演した。
同じ日、新潟県・長岡市でも『長岡米百俵フェス~花火と食と音楽と~ 2020』(米フェス)が、長岡市・東山ファミリーランド“を舞台に、“無事”開催された。米フェスは2018年に第1回が開催された新しいフェスで、タイトルにもあるように長岡名物の花火と食と音楽が楽しめ、さらに小学生以下は無料というファミリー向けのフェスだ。しかし第2回目の昨年は台風の影響で中止を余儀なくされ、今年もこのような状況の中で、さらに開催週の初めに台風が発生し、その進路予想から多くの人の頭に「中止」という二文字がよぎった。
今年は長岡市民の夏の最大の楽しみでもあり自慢のひとつでもある、全国からも多くの観光客が押し寄せる「長岡まつり大花火大会」が中止になった。だからこそ多くの市民が「米フェス」の開催を期待していた。しかし他府県からの多くの人の流入にはまだまだ不安がある。政府の判断でGO TOトラベルはスタートしたものの、地方在住の人々にとっては、やはり不安は消えない。そこで「米フェス」も感染予防対策に留意し“新潟県民限定”という形で開催することになった。そして心配されていた台風も列島から大きく逸れていき、完全開催とはいかないが、“無事”開催できることになった。
長岡藩の「米百俵の精神」=未来への投資、その精神を受け継ぐ。徹底した感染予防対策で、子供たちも安心して一日楽しめるフェスに
ちなみにこのフェスのタイトルの由来でもある「米百俵の精神」のエピソードは、明治維新の頃、困窮していた長岡藩士の小林虎三郎は、救援物資として届いた米百俵をすぐに食べることなく米を売り、得た資金で学校を創設するなど教育や人材育成に充て、未来へと投資し現在の長岡市の繁栄につながっている、という史実に基づく。長岡から全国に勇気と笑顔を届けるべく、万全の感染予防対策を講じ、準備を進めた。東京から新潟県に入るスタッフは全員PCR検査を行い、証明書が発行された。チケット販売は新潟県在住の方限定で1日5000枚を上限とし、当然マスク着用で、ゲートでは身分証の提示、検温・手指消毒が行われ、会場内の動線も対面になることを避け一方通行とし、ステージと客席の間隔を4mあけ、スタンディングゾーンではマスクだけでなく、フェイスシールド着用が義務付けられた。さらにフードコートでは混雑を避けるために、各店への注文はアプリを導入するなど、大人はもちろん子供たちが安心して一日楽しめるように万全を期した。
10月10日の出演者は伊津創汰(OA)、天月-あまつき-、サンプラザ中野くん、TEAM SHACHI、BIGMAMA、ひなた、中澤卓也、wacci、ファーストサマーウイカ、横山だいすけ、miwa。そして、そのアーティストの歌を支える本間昭光(音楽監督/Key)、島田昌典(Key)、中村タイチ(G)、山本陽介(G)、安達貴文(B)、江口信夫(D)、朝倉真司(Per)、足立賢明(Man)という、豪華なミュージシャンによるハウスバンドが作り出す素晴らしいサウンドも、このフェスの聴きどころのひとつだ。
新潟、長岡出身のアーティストが多く出演
オープニングアクトは「COME100 オーディション2019」のグランプリアーティスト、新潟県出身のシンガー・ソングライター伊津創汰がアコギを抱え登場。「宗教の勧誘を受けた時のことを歌にしました」と「CAN YOU」をクリアな声で歌い、ラストは新曲「Try」を披露。飾らない等身大の歌詞を真っすぐ届け、一年遅れの晴れ舞台を楽しんでいた。
そしてトップバッターは長岡市出身のアコースティックデュオ・ひなた。1曲目は「超耕21ガッター」をキッズダンサーを従え賑やかに披露。「ikiru」は、二人の真骨頂である美しく心地いいハーモニーが印象的だった。演歌歌手の中澤卓也はその圧巻の歌声で、客席をグッとひきつける。オリジナル曲の他に、カバーも披露。布施明のカバー「君は薔薇より美しい」では、その伸びやかな声が、広大な敷地の会場の隅々にまで響き渡っていた。MCも務めるファーストサマーウイカもアーティストとして登場。「Butter-Fly」「限界突破×サバイバー」「めざせポケモンマスター」「ウィーアー!」と、大人にも子供にもおなじみのアニソンで攻め、スーパーバンドのアグレッシブな演奏に乗り、アグレッシブなボーカルを聴かせてくれた。
続いても、子供たちと一緒に親も盛りあがったのが元“うたのおにいさん”横山だいすけのステージだ。「にじのむこうに」「あ・い・う・え・おにぎり」、「アイアイ」へと、客席がさながら「おかあさんといっしょ」の野外版のような、温かな雰囲気に包まれる。TEAM SHACHIは「DREAMER」からスタート。彼女達も他のアーティストと同様に有観客ライヴは久しぶりということで「1曲目から感極まっていました」と語っていた。「Hello TEAM SHACHI(おうち時間LIVE ver.) with MCU」では、自己紹介ラップの終盤に、MCU(KICK THE CAN CREW)が登場。ラストは「Rocket Queen feat.MCU with長岡中越高校吹奏楽部」。中越高校吹奏楽部の生徒がステージと客席にも整列し、去年中止になった悔しさを音に乗せ、感動的な演奏になった。
10周年を迎えたmiwaは、母になりさらに美しさを増し、声はますます伸びやかにそしてふくよかさを増し、言葉一つひとつが説得力を持って届く。「441」や「ヒカリへ」など人気曲を披露し、ラストは弾き語りでデビュー曲「don’t cry anymore」でしめた。
wacciが「一昨年このフェスで歌ってから広がっていきました」と、ロングヒット中の『別の人の彼女になったよ』を披露
このフェスの直前に音楽番組「ミュージックステーション」に初出演を果たしたwacciが登場。「一昨年、この“米フェス”で歌ってからものすごく広がっていった歌です、『別の人の彼女になったよ』」、と紹介すると大きな拍手が湧く。どの曲もwacciの大きな武器でもある親しみのあるメロディが、客席との距離をグッと近づけてくれる。BIGMAMAはバイオリンを擁する珍しい編成かつ、圧倒的な演奏力から生まれるハードなサウンドと、ポップセンスが抜群のバランスで融合し、独自の世界観を持っている。だから初見のお客さんもしっかりその世界に引き込むことができる。「長岡に喜びの歌を」とラストはロックとクラシックを融合させた「No.9」を披露した。
初日のトリはサンプラザ中野くん。ヒット曲満載のセットリストで盛り上げる
陽が落ちた会場に、赤のペンライトが美しい花を咲かせたのは、天月-あまつき-のステージだ。オリジナル曲やモンゴル800の「小さな恋のうた」をカバーし、独特の伸びやかで弾力のある声が、多幸感を運んでくる。「夜明けと蛍」、「かいしんのいちげき!」と、バンドと共に圧巻のグルーヴを作り出す。そしてラストは「愛について考えた大切な曲」だと語り「きっと愛って」を歌った。初日のトリは、サンプラザ中野くん。爆風スランプの盟友パッパラー河合をギターに迎え、「大きな玉ねぎの下で~はるかなる想い」「旅人よ ~The Longest Journey」「Runner」、そして「リゾ・ラバ-resort lovers-」などヒット曲を次々と繰り出し、大団円。
アンコールは出演者が再びステージに登場し(一部を除く)、このフェスのテーマソング「輝き」を披露。花火はまず新型コロナウィルスと戦う全ての人々へ感謝の気持ちを込めたブルーの「エールの花火」からスタートし、全5つのプログラムが用意された。大きく煌びやかな、あまりに美しい花火が次々と打ち上げられ、全ての人がそれぞれの思いと重ねながら、夜空に鮮やかに広がる光の華に観入っていた。
2日目、10月11日は快晴に恵まれ、汗ばむほどの陽気に。この日の出演者はCreepy Nuts、琴音、小林幸子、さだまさし、半崎美子、松下洸平、南こうせつ、つるの剛士、C&K、KICK THE CAN CREWという、新人から大御所までが顔を揃え、米フェスらしい全世代が楽しめるセットリストが用意された。会場の東山ファミリーランドにはキッズパークやフードエリア、キャンプサイトも用意され、誰もが思い思いのスタイルで、ゆっくりこころゆくまで楽しめる優しいフェスだ。そんな優しいフェスは地元出身のアーティストが多く出演するのも特徴だ。この日のトップバッターは、長岡出身の琴音だ。柔らかくも凛としたその歌には一曲終わるごとに大きな拍手が贈られる。続いては“ショッピングモールの女王”の異名を持つ半崎美子が、優しいで歌で会場を包んだ。あらゆる世代が集まるショッピングモールでライヴを重ね、その歌は多くの人の足を止め、涙を誘っている。この日も、彼女が涙ながらに歌った「サクラ~卒業できなかった君へ~」に、客席も涙。ラストの「明日を拓こう」で、そこにいる全ての人を抱きしめた。
“心のコールアンドレスポンス”を楽しむ
NHK連続テレビ小説『スカーレット』(2019年)に出演し、現在放送中のドラマ『#リモラブ ~普通の恋は邪道~』(日本テレビ系)にも出演中の、俳優でシンガー・ソングライターの松下洸平は「恋の病」からスタート。繊細で、でも一本が芯が通っている声が気持ちいいポップスを届け、客席も体を揺らしながら感じている。尊敬する星野源の「SUN」もカバーし、最後は「未来の自分に手紙を書こう」という思いから生まれたという「握手」を、美しいファルセットを織り交ぜながら披露した。つるの剛士はオリジナルに加え、プリンセスプリンセスの「M」や中島みゆきの「糸」など誰もが知る名曲を熱唱。そして客席と“心のコールアンドレスポンス”を楽しみ、ステージを盛り上げていた。
DJ松永が長岡市出身のCreepy Nutsに大きな声援が送られ、圧巻のパフォーマンス
Creepy NutsのDJ松永も長岡出身だ。このフェスで、アーティストが登場する時に流れるジングルも彼が制作し、それが会場に流れるとひと際大きな拍手が沸き起こった。「ヘルレイザー」から、「今日の主役はお客さん」と「助演男優賞」を披露。キャッチ―なメロディとR-指定の高速ラップが圧巻だ。「合法的トビ方ノススメ」「紙様」「サントラ」と次々と人気ナンバーを放ち、ラストは「かつて天才だった俺たちへ」。HIP-HOPを超えた、その表現力の幅広さに誰もが引き込まれた。
C&Kはダンサーを従え登場し、瞬時に客席をノリノリにさせる。まさにお祭り騒ぎで盛り上げたと思いきや、CLIEVYのハイトーンボイスが冴えるバラード「Y」、「精悦」ではじっくり聴かせ、このメリハリに“やられ”、誰もがC&Kにハマってしまう。これぞエンタテインメントというステージだった。続くKICK THE CAN CREWのステージでは、「TORIIIIIICO!」の途中で、いとうせいこうが登場。「16小節のために」駆け付け、コラボレーションを楽しんだ。
“大御所”が、斬新なステージで盛り上げる
そしてここからはレジェンド達が登場。さだまさしは「野外ライヴにふさわしくない曲から」と笑わせ「精霊流し」を披露。バイオリンの音色と繊細なメロディが、切なさを連れてくる。「空の下で家族そろって音楽を聴くことが平和の象徴」とメッセージ。「案山子」そして、広大な大地にピッタリの「北の国から」は途中から「川の流れのように」のフレーズがミックスされ、「北の国からの流れのようにでした」と曲紹介すると、拍手と爆笑が起こる。いい時間が流れていく。そしてCMでおなじみの替え歌「にゃんぱく宣言」の制作秘話を混ぜ、さらに替え歌にし、ラストの名曲「関白宣言」へ。「時間通りに終わるコンサート初めて。次はコンサートホールで会いましょう」と笑いのち涙の“さだ劇場”は終了。
南こうせつは名曲「神田川」から。なんと「若い頃の俺に似ている」というwacciの橋口洋平(Vo/G)と、バイオリンにさだまさしが加わり、急遽スペシャルコラボが実現。これもかぐや姫時代のヒット曲「妹」切々と歌い、「マキシーのために」へ。南は、前日に毎年恒例の日比谷野音でのライヴが台風の影響で中止になり、悔しい思いをし長岡入りしたが、改めて「ステージはやっぱり幸せ」と、お客さんの前で歌えることに感謝していた。星空の元で、「満天の星」を披露すると、客席からスマホのライトが次々と光り、一体となる。そして“口花火”でひと足早く花火の音を表現。そのクオリティの高さに大きな拍手が贈られた。大トリは新潟市出身で今年歌手活動57年目を迎えた小林幸子。「雪椿」「もしかして」から、「とまり木」「おもいで酒」と、ヒット曲満載のセットリストに客席が湧く。そしてさだまさしをステージに招き、さだが小林に提供した「約束」をデュエット。松岡充(SOPHIA/MICHAEL)と結成したユニット“シロクマ”の新曲「しろくろましろ」を披露。最後は「紅白歌合戦」でも披露し、今や小林に欠かせない曲となった「千本桜」で締めくくった。
来年秋の開催を宣言
前日に続いてオールキャストで「米フェス」のテーマソング「輝き」を歌い、花火が打ち上げられる。涙を流しながら夜空に咲く大輪を見ていたのは、客席だけではない。ステージ上でもファーストサマーウイカが瞳を濡らし、他のアーティストも万感の思いで見つめていた。“不屈の米フェス”は来年秋の開催も力強く宣言。「このウィズコロナの生活を長く余儀なくされた事で、僕らの心も病み始めています。その心を解放し、また健康を取り戻すためにはエンターテイメントはそのビタミンになれると信じています」(米百俵フェス総合プロデューサー・北牧裕幸氏)。
写真/須佐写真事務所(ステージ)、井上スタジオ(会場風景・花火)