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久保建英は「正直きつい」遠藤航は「なんとも思わない」森保ジャパン、新時代の「招集ルール」

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

久保の”提言”に耳を傾けるべき

 今年11月、2026年W杯アジア予選が幕を開ける。大阪でミャンマー戦、サウジアラビアのジッダでシリア戦(シリアが内戦状態で中立地での開催)を行う。当然、負けられない試合だが…。

「正直、きついですよ。何とか戻ってきたという感じで」

 スペイン、レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)の久保建英は今年10月、新潟でのカナダ戦を前に、ヨーロッパとアジアを代表戦で往復することに対し、そう心情を吐露していた。

「日本で待ってくれている人もいるし、チケットも完売っていう話も聞いています。そういった人たちのために試合をできるのはすごく幸せ。でも、きつさがあるのも事実なので」

 それは痛切な訴えにも聞こえ、無視するべきではない。

 ヨーロッパでプレーする選手にとって、大陸間の移動は大きな負担になる。それは時代や事情によっても変化する。ロシアのウクライナ侵攻によって北周りを使えない現在、移動時間は激増。また、昔よりも試合数が増えているのだ。

 マネジメント側も、コンディション面を考慮に入れるべきだろう。

「日の丸のプライドはないのか!?」

 そんな批判で”訴え”を封じ込めようとすることは、最も危険である。

 久保や三笘薫が、FIFAランキングで158位のミャンマー、同じく94位のシリア戦(日本は18位)で、万難を排してピッチに立つべきなのか?

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/0c2fa96f83a605c52042bcb61699aee6472bb358

遠藤「なんとも思わない」

 代表選手全員が、久保と同意見ではないだろう。

「きついですけど、別にそれをどうしようとかは思わない。なんとも思わないです」

 キャプテンである遠藤航は、そうはっきりと言っている。それも一つの意見として尊重されるべきだろう。

 しかし選手のポジションやキャラクターで、大きな違いが出る。遠藤のようなファイターは闘争心を燃やすことで、リカバリーもできる。相手を嫌がらせ、プレーを分断するのがポジション的な仕事だけに、100%フレッシュな状態でなくとも、どうにかなる。

 一方、トップレベルのアタッカーたちはひらめきで勝負する。頭の中がクリアで体力的に充電されていないと、駆け引きで相手を出し抜けない。疲労がたまると、「切れがない」と言われる状態に陥り、そこで無理をすると大けがに及ぶ危うさもある。

 招集に関しては、疲労度を単純化できない。

 同じ欧州内でも、直行便がある町の選手と、そうではない選手では負担が大きく違う。フランクフルト、ロンドン、アムステルダム、ローマ、パリなどは直行便があるが、スペインのように国同士にも直行便がない場合もある。久保が所属するラ・レアルが本拠を置くサンセバスティアンは国際空港ではなく、乗り換えでスペインに入って国内線に搭乗するか、パリやフランクフルトから隣町のビルバオに入り、車移動になる。

「序列は上がったと思いますが、そもそも来てない選手もいるので」

 先発で大車輪の活躍だったチュニジア戦後も、久保はそう語っていた。

「きついですね。(試合二日前に戻ってのマジョルカ戦は)午後2時キックオフかな? 日本のみなさんはテレビ観戦できる時間だからいいかもしれないですが、僕はきつい(苦笑)。(スペインに戻る)飛行機では睡眠薬を飲んで、スカッと寝られたらいいんですけど。チャンピオンズリーグ(CL)も思った以上にタフだし、負けられない試合が続くので、コンディションに折り合いをつけながら」

 親善試合やアジアの底辺の国々との戦いで、体力気力を消耗するべきではない。チャンピオンズリーグやFCバルセロナ、レアル・マドリード戦の活躍こそ、日本サッカーの評価上昇にも貢献できるからだ。

何らかの招集ルールを

 欧州でベストコンディションのプレーを担保するには、代表も協力する時代になった。何らかのルールを設ける時が来た。文章化するのは難しいが…。

「FIFAランキングが日本より下位のチームとの親善試合、W杯アジア予選も80位以下との対戦は、Jリーグ+MLS+Kリーグ+カタールリーグでプレーする選手を中心に欧州の一部選手を加えて戦う」

 戦力的には落ちるが、遠藤のようにディフェンシブな選手を呼ぶことで、大崩れもない。鎌田、三笘、冨安のバックアッパーとして、伊藤涼太郎(シント・トロイデン)、相馬勇紀(カーザ・ピア)、渡辺剛(ヘント)など欧州カップ戦に出場しない選手を呼ぶのも一案。FW陣はヴィッセル神戸の大迫勇也、鹿島アントラーズの鈴木優磨は招集に値する。

「ボールを持つ時間を増やしたい」というなら、昨年のJリーグベストGKで、MLSでレギュラーを張るGK高丘陽平(バンクーバー)を呼び戻すのが筋だ。

 まとめるのは難しい作業だが、それでこそ、森保監督の手腕も問うことができるだろう。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/e45285b276cf4384ecea94a3b65be3234c627ad7

体が資本

 もちろん、森保監督も悩みどころだろう。いわゆる正解はない。それぞれの事情もあるのだ。

 例えば、「この際、欧州2部の選手を」という意見もあるが、2部は代表ウィークもリーグ戦が中断しない。つまり、代表招集されると、クラブのゲームに欠場を余儀なくされる。これは大きなリスクで、例えば森保監督はスペイン2部時代の柴崎岳を親心で招集していたかもしれないが、そのたび、プレーは安定性を欠いていった。

 あくまでクラブでの活動が、選手のベースである。

 その点、来年1、2月に開催されるアジアカップも、欧州組は限定すべきだろう。スペインも、イングランドも1月はカップ戦も含め、実は試合数が多い。最大10試合以上、欠場を余儀なくされる。何より、2月にはCLやヨーロッパリーグが再開するが、決勝に勝ち進んだ場合、その準備にも問題が生じる可能性があり、痛し痒しだ。

 欧州カップ出場クラブの選手は、アジアカップを回避するべきではないのか。

 今やアジアカップ優勝が、どれほどの価値があるのか。CLやELでの躍進は世界に「日本サッカー」をアピールできる。プライオリティをどこに置くべきか、それを精査すべきだ。

 トップアスリートも体が資本である。「昔は…」という御託はもう通じない。なぜなら現代では、比べ物にならないほど多くの選手が欧州でプレーし、驚くほど試合数も増えた。大谷翔平のようなスーパーアスリートでさえも、無理をしたら体は悲鳴を上げるわけで…。

 森保ジャパンに「招集ルール」が問われる時代だ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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