泣く子も黙る金正恩「拷問部隊」、もはや生き残りに必死
北朝鮮北部の両江道(リャンガンド)で、保衛員(秘密警察)が露骨にワイロを要求するケースが急増している。
現地のデイリーNK内部情報筋によると、恵山(ヘサン)市内で、韓国や中国で働く人からの送金を、北朝鮮に残してきた家族に伝達する送金ブローカーを営む人たちに対して、保衛員が臆面もなくワイロを要求するようになっている。
かつて保衛員といえば、いかなる経済難の中でも国からの配給を保証されていた。公開処刑や政治犯収容所の運営を担当し、金正恩体制の恐怖政治を支えてきた存在であるだけに、権力にとって彼らの離反はあってはならないことだからだ。
(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面)
長引く経済難で配給が心もとなくなっていこうも、送金ブローカーや密輸業者など中国キャリアの携帯電話を使っている人から定期的にワイロを受け取り、裕福な生活をしていた。ブローカーも保衛員の庇護を受け、安全に商売を営むウィンウィンの関係を築いていた。
ところが、その構図を崩したのが中央から派遣された88連合指揮部だ。地元のしがらみで、違法行為である送金、携帯電話の使用を取り締まれないため、地元に縁もゆかりもない連合指揮部を派遣して、厳しく取り締まったのだ。
上部に上納金を納めなければならない上に、長く続く冬を生き抜くためにカネが必要となった保衛員は、あちこちでワイロの要求をしたり、金の無心をしたりしているのだ。
それは、彼らの勤務先である恵山市保衛部とて同じだ。各部署に、様々な名目で「カネを上納せよ」との指示を下しているのだ。
金正恩総書記が厳しく禁じたはずの「税金外の負担」を最も多く徴収しているのは保衛部だとする情報筋。特に中国との国境に接したこの地域の保衛員は、密輸が自由にできた時代のように、毎日のように上部から上納金のノルマを課せられているのだ。
その達成度により人事評価が行われ、幹部事業(幹部の人事)にも影響を与えるため、カネを持っていそうな人がいれば、押しかけてカネをせびったり脅し取ったりしているのだ。
送金ブローカーは、下手にカネを貸したりすると踏み倒されるリスクが非常に高いため、「もうとっくの昔に足を洗った」「国境が封鎖されているというのに、どこにそんなカネがあるのか」などと、ワイロの要求をあしらっているという。
送金ブローカーたちは、状況のいいときは共生関係を築き、少しでも都合が悪くなれば切り捨てるという保衛員のやり方を熟知している。コロナ鎖国に入った2020年1月から厳しく取り締まられた恨みもあり、「あまりにも厚顔無恥なやり方」だと批判している。
その後にやって来た88連合指揮部の取り締まりがさらに厳しく、儲けがすっかり減ってしまったのも事実だという。保衛員は、コロナ前と同じ金額のワイロを要求するが、そこまでの余裕はないのだ。その一方で、カネを貸さなかった恨みで、家宅捜索などの嫌がらせを受けるのではないかと不安を抱えている。保衛部のさじ加減ひとつで、全財産の没収はもちろん、命まで奪われかねない。