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大阪のPFAS汚染で「1000人血液検査」の中間発表。汚染の広がりが明らかに

幸田泉ジャーナリスト、作家
PFASの健康への影響を調べた大阪の1000人血液検査=筆者撮影

 全国的に汚染が明らかになるPFAS(有機フッ素化合物、ピーファス)の健康への影響を調べようと、大阪で行われた「1000人血液検査」について、2024年3月31日、分析結果の中間発表が行われた。PFASの一種、PFOA(ペルフルオロオクタン酸、ピーフォア)を製造していたダイキン工業淀川製作所(大阪府摂津市)の工場労働に従事していた人から極めて高いPFOAが検出され、摂津市の住民は相対的にPFOA濃度が高いことが確認された。その一方で、摂津市以外の住民からも一定程度のPFASが検出されており、日常生活にPFASが深く浸透し、体内に取り込まれている実態が浮き彫りになった。

ダイキン工業労働者は突出した数値

ダイキン工業淀川製作所は敷地内に残存するPFOAが地下水を通じて周辺に流出するのを食い止めるため遮水壁の設置を行っている=2023年12月14日、大阪府摂津市で、筆者撮影
ダイキン工業淀川製作所は敷地内に残存するPFOAが地下水を通じて周辺に流出するのを食い止めるため遮水壁の設置を行っている=2023年12月14日、大阪府摂津市で、筆者撮影

 大阪の「1000人血液検査」は「大阪PFAS汚染と健康を考える会」(大島民旗代表)が実施。大阪民主医療機関連合会(大阪民医連)が血液採取を行い、京都大学大学院医学研究科が分析を行った。2023年9月~12月に大阪府内に居住しているか職場がある人を対象に1193人の血液を採取。中間発表では459人の分析結果が公表された。

 1万種類以上あると言われるPFASのうち、測定したのは、PFOAのほか、PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸、ピーフォス)、PFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸)、PFNA(ペルフルオロノナン酸)の計4種類。いずれも様々な製品の撥水加工などに使われてきた。

 アメリカの科学アカデミーは、血中のPFAS濃度が20ng/ml(ngはナノグラム、10億分の1グラム)以上の人は健康被害のリスクが高まるとして、脂質代謝異常、甲状腺異常、腎がんなど特定の疾患について診察、検査を勧めている。459人の平均値をみると、PFOSが6.5ng/ml▽PFOA8.5ng/ml▽PFHxS1.1ng/ml▽PFNA3.1ng/ml。4種類の合計の平均値は19.2ng/ml。459人のうち摂津市住民181人だけでみると、4種類の合計の平均値は20.1ng/ml、PFOAの平均値は9.41ng/mlで、全体の平均値よりやや高い数値だった。

 検査参加者の中には、摂津市在住ではないが、長年にわたりダイキン工業淀川製作所で勤務していた人がおり、血中のPFOA濃度は596.6ng/mlと突出していた。「大阪PFAS汚染と健康を考える会」の専門委員会委員長、中村賢治医師は「体内に取り込まれたPFASはだいたい4年で半分になる。ダイキン工業は10年以上前にPFOAの製造を止めているのに、現段階で血液からこの数値が出るのは驚きだ。どういう労働環境だったのかなど聞き取り調査をしたい」としている。

どうして私が? 予想しなかった高濃度の人も

「郵送されてきた検査結果を見て高い数値に驚いた」と話す堀智佐子さん。PFAS汚染を他人事ではなく、自分の問題として考えるようになったという=2024年4月2日、大阪市東淀川区内で、筆者撮影
「郵送されてきた検査結果を見て高い数値に驚いた」と話す堀智佐子さん。PFAS汚染を他人事ではなく、自分の問題として考えるようになったという=2024年4月2日、大阪市東淀川区内で、筆者撮影

 1000人血液検査に参加した大阪市東淀川区在住の堀智佐子さん(63)は、手元に届いた検査結果に目を疑った。PFOA19.7ng/ml、PFOS9.1ng/ml、4種類のPFASの合計は35.5ng/ml。「血液検査を受けたのは、疫学調査に協力しようとの思いから。まさか自分がこんな高い数値だとは予想していなかった」と話す。

 摂津市内に住んだことはなく、地下水の高濃度汚染地域で栽培された野菜を食べる習慣もない。考えられるのは「大気」だという。堀さんは「1984年から18年間、東淀川区の学童保育で指導員をしていた。淀川の堤防で子どもたちを遊ばせるので、平日なら2時間ぐらい、夏休みになると1日5時間ぐらいは屋外で活動していた」と振り返る。

 遊び場だった淀川の数キロ上流にあるダイキン工業淀川製作所では、1960年代後半から他社から購入したPFOAの取り扱いを始め、1980年代から2012年までは自社でPFOAを製造していた。堀さんは「工場の排気によってPFOAが空気中に広がり、それを吸い込んでいたのではないか」と推測する。

日常生活に深く入り込んだPFAS汚染

大阪の1000人血液検査についてこれまでの分析結果を発表する京都大学大学院医学研究科の原田浩二・准教授=2024年3月31日、大阪市中央区で、筆者撮影
大阪の1000人血液検査についてこれまでの分析結果を発表する京都大学大学院医学研究科の原田浩二・准教授=2024年3月31日、大阪市中央区で、筆者撮影

 大阪のPFAS汚染はダイキン工業淀川製作所周辺への影響が注目されてきたが、今回の1000人血液検査では、摂津市以外の住民のPFAS血液濃度も決して低くないことが判明した。水や油をはじくPFASはその利便性により身の回りの製品に幅広く使用されており、汚染原因は多岐にわたることをうかがわせた。

 4種類のPFAS合計の平均値でみると、大阪市西淀川区(検査参加者47人)17.5ng/ml▽大阪市東淀川区(同49人)18.2ng/ml▽大阪市此花区(同22人)14.8ng/ml▽吹田市(同27人)16.3ng/ml▽茨木市(同43人)15.0ng/ml▽東大阪市(同30人)14.6ng/mlなどとなっている。

 PFOS、PFOAは既に製造、輸入が禁止されており、血液分析を行った京都大学大学院医学研究科の原田浩二・准教授は「検査で明らかになった濃度が過去のPFAS曝露によるものなのか、現在も曝露が続いているのかは不明であり、今後、見極める必要がある」と話す。

 「大阪PFAS汚染と健康を考える会」では血液濃度が20ng/ml以上の人には腎臓、甲状腺などの検査を勧めており、現在、府内2カ所の診療所が「PFAS外来」を設けて対応している。長瀬文雄・事務局長は「今後はPFAS外来を10カ所に増やし、20ng/ml未満でも不安のある人には受診を呼び掛けたい。また、国、自治体、企業の責任でもっと大規模な疫学調査をするよう求めていく」としている。

ジャーナリスト、作家

大阪府出身。立命館大学理工学部卒。元全国紙記者。2014年からフリーランス。2015年、新聞販売現場の暗部を暴いたノンフィクションノベル「小説 新聞社販売局」(講談社)を上梓。現在は大阪市在住で、大阪の公共政策に関する問題を発信中。大阪市立の高校22校を大阪府に無償譲渡するのに差し止めを求めた住民訴訟の原告で、2022年5月、経緯をまとめた「大阪市の教育と財産を守れ!」(ISN出版)を出版。

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