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少女性的虐待の大富豪の機密文書に名前が出て、ディカプリオのアカデミー賞ノミネートに黄信号?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
1/9のガバナーズ・アワードでのディカプリオ。背後にはオスカーの文字が(写真:REX/アフロ)

アカデミー賞に向けた各映画賞が続々と発表され、今年の傾向が見えてくるなか、ノミネート有力のあのスターに、タイミング悪く嫌なニュースが重なってしまった。レオナルド・ディカプリオだ。

『オッペンハイマー』などと並んで、今回のアカデミー賞で多部門のノミネートや受賞が期待される『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』。マーティン・スコセッシ監督が、1920年代、アメリカのオクラホマ州で起きた先住民族オーセージの連続怪死事件からFBI誕生のきっかけまでを、巨匠らしい堂々たる演出力で描ききった作品。ディカプリオは主人公のアーネストを、これまたキャリアの集大成とばかりに、時に熱く、時に繊細に演じ分け、たしかに主演男優賞にふさわしい存在感を放っている。

ディカプリオは、マーティン・スコセッシ作品への出演がこれで6回目。過去5作のうち、2作でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされている。今回もノミネートされればスコセッシ作品だけで3度目。そして予想どおり、ゴールデングローブなど前哨戦でノミネートを重ねている。

ここ数年、主演男優賞のカテゴリーは、有力者が多く、かなりレベルが高い争いが繰り広げられてきた。そうなると“常連”は、やや不利ではあった。「いつもの名演技」より「新鮮なインパクト」が際立つからだ。ディカプリオは過去、アカデミー賞ノミネートが6回(主演・助演)で、うち1回(主演)受賞している、まさに常連組。しかし今年は例年に比べると、そこまで熾烈な争いではなく、キリアン・マーフィー(『オッペンハイマー』)、ポール・ジアマッティ(『The Holdovers』)、ブラッドリー・クーパー(『マエストロ:その音楽と愛と』)、ジェフリー・ライト(『American Fiction』)あたりと、ディカプリオの5人が中心で、誰かが飛び抜けるわけでもなく、なんとなくユルい争いが続いていた印象。

業界誌Varietyのアカデミー賞予想でもディカプリオは、ノミネート枠であるトップ5につねにランクインしていたのだが、ここへきてトップ5から圏外に落ちてしまった。

「まぁ、いつものレオらしい名演技。すでに1回受賞してるしね」という理由に加え、年明けにスキャンダル的な報道に彼の名前が出たことも、ちょっと影響がありそう。

大富豪のジェフリー・エプスタインが、1990年代から10年以上にわたって数十人の少女を性的虐待。セレブたちに児童買春を手引きしていた「エプスタイン事件」。エプスタイン被告は2019年に拘置所で自殺した。その事件の裁判資料が、2024年の1月1日に機密解除され、1000ページ近い文書に、エプスタインと交友のあった多くのセレブの名前が載っていることが報じられた。

ナオミ・キャンベル、マイケル・ジャクソン、スティーヴン・ホーキング博士、ケイト・ブランシェット、マジシャンのデヴィッド・カッパーフィールドら、超一流のセレブとともに、レオナルド・ディカプリオの名前もあった。被害女性が、エプスタインがディカプリオと電話で話していた事実などを証言したという。ただ、リストに挙がったセレブたちが、エプスタインの事件に関わって告発されたわけでなく、親しい交友だけという、いわゆる“もらい事故”ではある。

故ジェフリー・エプスタイン
故ジェフリー・エプスタイン写真:Splash/アフロ

とは言っても、エプスタイン事件との繋がりは、イメージダウンを避けられない。エプスタインが所有する島で英国のアンドルー王子と性的な関係を強要された女性など、ショッキングな証言も多数あるからだ(王子は全面的に否定)。

実際、今のところ文書に名前が出た人たちが犯罪行為や不正を問われたりはしていない。ただ今後、何かのきっかけに意外な事実が明らかになる可能性はゼロではないので、戦々恐々の心境のセレブもいるはず。

この機密文書公開の直後、1/11(現地時間)にアカデミー賞ノミネートへの投票がスタート。投票の締め切りが1/16で、ノミネート発表が1/23である。その間に、ディカプリオとエプスタインの関係で新たな情報が出るとは考えづらいが、アカデミー会員に「ちょっと今、彼を評価するのは止めといた方がいいかも」との心理が働く可能性はありそう。基本、演技賞というのは各投票者の「印象」で評価されるわけだし、社会の流れも多かれ少なかれ影響を与える。

3/10のアカデミー賞授賞式に、レオナルド・ディカプリオの姿はあるのか。もしも彼が客席にいなかったら、機密文書がひとつの理由かも…と考えてしまう。ちょっと悲しい話だが、アカデミー賞はそういうものであるし、常連のディカプリオにとって今回ノミネートを逃しても、それほど大きな痛手ではないだろう。

『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』 画像提供 Apple
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』 画像提供 Apple

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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