池上丈二が決勝点! 全員守備で京都を零封。開幕戦で勝ち点3/レノファ山口
明治安田生命J2リーグが2月23日、開幕した。レノファ山口FCは維新みらいふスタジアム(山口市)で京都サンガF.C.と対戦。池上丈二の先制点を全員で守り抜き、1-0で勝利した。開幕節を終えての順位は6位。
明治安田生命J2リーグ第1節◇レノファ山口FC 1-0 京都サンガF.C.【得点者】山口=池上丈二(前半12分)【入場者数】8424人【会場】維新みらいふスタジアム
キャプテン・池上丈二が先制点
ホームでの開幕戦に京都を迎えたレノファ。全体的なフォーメーションは昨シーズンと変わらず4-3-3を採用したが、中盤の形は少し変形し、ボランチはヘニキの1枚で担当。インサイドハーフに池上丈二と高宇洋を置き、攻撃構築の軸を担わせた。昨シーズンはボランチの位置から三幸秀稔がアタッキングパスを出していたが、それと比べれば、1列前に起点を置いたとも言えるだろう。
布陣は京都対策としても有効だった。前半からレノファはイウリをはじめとする3トップが京都のボランチや最終ラインに対して厳しくチェック。「相手の3バックに、うちの3トップがプレッシャーを掛けて彼らのパスワークを寸断する。京都がロングボールを使わざるを得ない状況に持っていきたかった」(霜田正浩監督)という狙い通りにアプローチし続けた。もちろん京都は最前線にフィジカルの強いピーター・ウタカを置いているため、長いボールを蹴らせることにリスクはあったが、ヘニキ、サンドロなどが確実に跳ね返した。
それらのフォーメーションとプレッシングの意図は試合が進むにつれて目に見えてはまっていくことになるが、試合のスコアそのものはどちらに主導権があるとも言えない時間帯で動いた。
前半12分、レノファは京都のCK後にカウンター攻撃を仕掛けていく。武岡優斗のフィードを森晃太が収めて左サイドをドリブル突破。これと同時に他の選手たちも駆け上がり、安在和樹が森からのマイナス方向のパスを引き出すと、さらに相手陣中央に上がってきていた池上丈二にボールを送り出した。
池上が受けたのはペナルティーエリアの外だったが、ためらわずにシュートを選択。イレギュラーなバウンドがGKのキャッチミスを誘い、ゴールへと吸い込まれた。「ピッチがスリッピーだというのは分かっていたし、ボールもうまくGKの前でバウンドしてくれた」(池上)。今シーズンは結果にこだわりたいと宣言していた池上のゴールで、レノファが先制に成功する。
その後の時間帯はレノファが支配する。ロングボールの跳ね返りも相手に渡さなかったほか、安易なクリアはせずに自陣からゲームメークし、前線へ。際立って良かったのはボールの失い方だ。昨シーズンはパスワークの中でイージーミスが散発したが、今年の開幕戦では池上や高が積極的にボールを受けて自陣でのロストを低減。菊地光将が束ねる最終ラインは中途半端なプレーを排除し、CKに逃れるほうがベターなときはそれを選択した。
ただ、レノファの時間が後半まで続いたわけではなかった。
泥臭く、リードを守り切る
テレビ中継の関係などから、この試合のハーフタイムは「15分確保適用外」。前半のアディショナルタイムの分だけハーフタイムが削られるため、いつもより短いインターバルでの修正となった。霜田監督は「下がらず、前からプレッシャーを掛け続けよう」と指示。京都の實好礼忠監督は「空いているスペースをもっと使っていこう」とシステムのギャップを効果的に使うよう促した。
ハーフタイム後は一転して京都がボールを握るようになる。少ないタッチ数でリズム良く組み立て、単純なロングボールではなくクロスやスルーパスなどから、ピーター・ウタカにボールを供給。レノファは菊地、サンドロ、ヘニキの三角形がウタカを挟むように対応するが、運動量が落ちてきたことも重なり、徐々に京都の1.5列目にも自由を与えてしまう。
古巣戦となった庄司悦大からの鋭いパスがサイドや前線に入るようになった京都。高い位置で中川風希や宮吉拓実、それに途中から出場した曽根田穣などがボールをさばいたり、ミドルシュートを放ったりと、ボックスの内外からレノファのゴールを脅かしていく。レノファにとっては防戦一方とも言える展開だ。だが、ゲームが途切れたタイミングを使って選手同士が声を掛け合い、何人かは霜田監督とも言葉を交わして、次の対応を確認した。
「今日は意思疎通が良くできたと思う。1点リードしていた後半の残り20分から25分くらいから、この1点を全員で守り切ろうという形になった。42試合の中で考えたときに、こういうことも必要だ」(高)
ゴールを取るという意識を捨てたわけではないが、レノファは守備力の高いヘナンや戦術理解度の高い吉濱遼平を投入したほか、最前線には小松蓮を入れてイウリが実践してきた前線からのハードワークを引き継いだ。「今がどういう時間帯なのかをピッチに立っている選手と話しながら、霜さん(霜田監督)ともコミュニケーションを取りながら、割り切るところは割り切るという意思疎通はできた」(池上)。誰一人スタンドプレーに走ることなく、チーム一丸となって奮闘。フィールドプレーヤーは球際に厳しく戦い、GK吉満大介もファインセーブで応えた。集中が途切れず、4分間のアディショナルタイムも耐え抜いて、レノファは1-0で勝利を手にした。
理想と現実のバランス
レノファらしい攻撃的なサッカーを連続して見せられたわけではない。ボールを支配した前半も細かく見ていけばプレー選択のミスやコンビネーションのエラーがあり、後半は敵陣に入ってからの攻撃スピードが揃わず、前線にボールが収まらない時間帯があった。とはいえ致命的なミスは少なく、パスの出し手と受け手の関係はこの時期としては良好だ。パススピードを一段階上げた場合にどういう現象が起きるかは分からないが、一定の評価はできるだろう。
結果を優先目標にしていた開幕戦で勝利できた意義は大きく、試合後の監督記者会見の冒頭、霜田監督は「サポーターに勝ち点3を届けられたことが非常にうれしい」と気持ちを込めた。
「パスをつなぎ、きれいなサッカーをすることが僕らが一番望んでいることだが、それができなくても勝ち点3を取り切る勝ち方を今年はやっていきたい。開幕戦で、個人のクオリティーが高い京都さんを相手に勝ち点3が取れた。こういうゲームでも勝ち点3を取るんだというメッセージになった」(霜田監督)
キックオフから後半の途中までは理想とするサッカーで勝負し、終盤は勝ち点を引き寄せるための現実策で逃げ切った。もっともカウンターからでも好機は作り、GKと1対1になるような決定機は少なくとも2度あった。ビッグチャンスを決められなかった部分を含め、前半の出来やレノファのスタイルを考えれば1-0はやはりさみしい。指揮官は「カウンターを決めきるとか、自分たちに時間があるときに、もっとボールを回して相手陣地に貼り付けられれば良かった」と付け加える。
試合後にマイクを向けられた選手たちも一様に、守備での手応えと攻撃の部分での物足りなさを口にした。
プレスとサポートで存在感が際立った高は「無失点で抑えられたが、攻撃は押し込まなければいけない。奪ったあと、速攻にするか、遅攻にするか。遅攻にするという部分では、中盤の選手が声を掛け、ゲームをコントロールしながらやらなければならない」とマイボールにしたあとの進め方を課題に挙げる。また、最終ラインでのコーチングやカバーリングが光った菊地は「相手にボールを持たれる時間があった」としてやはり攻撃面での反省材料に触れ、「今日みたいな試合でしっかり勝ちきることが大事。ウタカ選手をどうケアするかはやってきた。危ないシーンは何度かあったかもしれないが、失点をゼロに抑えられたのは良かった」と前を向いた。
全員守備の姿勢はトレーニングキャンプを通じて徹底してきていたため、無失点は積み重ねてきた守備意識が発揮できた証左と言えるかもしれない。一方で、攻撃に関しては昨シーズンからは多くの選手が入れ替わったため、息が合うにはもう少し時間が掛かる。しばらくは理想と現実のバランスをコントロールしながら、勝ち点を重ねていくことになりそうだ。
試合をすれば成果や課題が出てくるのは当たり前。しかし、結果だけはこの日までの努力を裏切らない。良いところも、まだまだなところも出てきたとはいえ、開幕戦勝利はやはり手放しで喜んでいい果実だ。今年こそは祝杯に沸く勝利を増やしていきたい。
レノファは次戦もホームゲーム。2月29日午後2時から、維新みらいふスタジアムでギラヴァンツ北九州と対戦する。北九州と公式戦で対戦するのは4年ぶり。レノファが保持している「関門海峡ダービーフラッグ」を懸けた隣接チーム同士のダービーマッチとなる。(※第2節は延期が決定しました)