河井案里氏にボーナス309万円支給 連座制で当選無効でも返還請求できぬ訳
選挙違反で裁判中の河井案里氏に約309万円のボーナスが支給された。しかし、秘書の有罪判決確定で連座訴訟となり、当選が無効になっても、案里氏がこれまで手にした歳費などの返還は請求できない。なぜか――。
今後の流れは?
案里氏には、2019年7月の参院選での初当選後、国から給与に当たる歳費と文書通信交通滞在費の合計200万円超が毎月支給されているほか、6月と12月にはそれぞれ300万円超のボーナスが支払われている。
一方、検察は、選挙運動員に対する買収で懲役1年6か月・執行猶予5年の有罪判決が確定した秘書を連座制の対象となる「組織的選挙運動管理者」とみている。
早ければ年内には、広島高検が原告となり、案里氏を被告として、その当選無効などを求め、広島高裁に連座訴訟を提起することになる。裁判は年明けに始まり、年度内には高裁の判決が下るだろう。
過去の同種事案をみると、ほぼ検察側の勝訴で終わっており、案里氏の場合もこれらと同じ結末になる可能性が濃厚だ。案里氏が上告しても、最高裁が棄却すれば、案里氏の当選は無効となる。
いつから無効に?
では、その場合、国は案里氏に支払い済みの歳費などの返還を請求できるか。
結論から言うと、返還請求はできないし、案里氏も返還を要しない。
というのも、連座訴訟の場合、公職選挙法の規定により、当選無効の効力はその旨の判決が確定した段階から生じることになっているからだ。
当選のときに遡って無効となるわけではなく、連座訴訟の判決が確定するまでは議員としての地位があったとされるわけだから、歳費などの支払いも有効だったということになる。
本人が選挙違反で有罪なら?
もっとも、その公職選挙法は、議員本人が買収罪で刑に処せられた場合、連座訴訟のような特別な裁判手続を経ることなく、直ちに当選が無効になると規定している。
すなわち、いま進められている案里氏自身の刑事裁判で案里氏が有罪判決を受け、確定すると、自動的に被選挙権がなくなり、議員としての地位を失うわけだ。
しかし、それでも歳費などの返還請求は困難だ。
というのも、国会法により、議員が被選挙権を失ったときは「退職者」になると規定されているうえ、歳費法でも、議員が退職した場合、その日までの歳費を受けられると規定されているからだ。
「不当利得」では?
ただ、秘書らの選挙違反に関する連座責任と異なり、議員本人が買収罪で刑に処せられた場合については、公職選挙法には当選無効の効力がいつから生じるのか明らかにした規定がない。
そうすると、当選のときに遡って当選が無効だったと考え、当選後に受け取ってきた歳費などは「不当利得」にあたるとみる余地もある。
この点については、地方議会議員に関する裁判例が参考となる。
市議会議員が買収罪で有罪判決を受け、当選無効となって辞職したあと、住民が市に代わって議員報酬などの返還を求める裁判を起こしたものだ。
しかし、裁判所は、次のような理由により、その訴えを棄却している。
・公職選挙法には当選が無効となった議員による無効となるまでの間の議員活動の効力について定めた規定がないから、議員活動は有効だったと考えられる。
・議員活動と対価性を有する報酬の請求権までもが当然に遡って失われるわけではない。
・失職した議員による役務の提供やその勤務により受けた市の利益と、市から報酬を受けた議員の利益との間に差がある場合に、その限度で具体的な報酬請求権が消滅する。
・これは、議員が無形の精神活動すらなしえず、任期前に市政に関する調査、研究、思索していた内容が議案などの形で結実したわけでもなく、政党や会派にも所属していないような極めて例外的な場合に限定される。
地方議会では変革も
こうした裁判例を踏まえ、自治体の中には、刑事責任を問われた地方議会議員らに対する報酬支給の停止手続や返納に関する規定を条例の中に設け、現に返還を請求しているところもある。
しかし、国会議員の場合、いまだにそうした規定が整備されていない状況だ。
逮捕や勾留されて国会に出席できなくても歳費の支給をストップできないのは、無罪推定の原則があることに加え、法令にそれを可能とする規定が置かれていないからでもある。
選挙違反事件で連座訴訟が想定される場合、国民の批判をかわすため、当選無効になる前に自ら辞職する議員が多いのもそのためだ。
自主返納は?
では、案里氏が議員を続けつつ、歳費などを自主的に返納することは可能か。
何ら問題なさそうに思えるかもしれないが、公職選挙法が禁止する議員による寄附行為にあたることから、これもまた違法なものとして許されない。
参議院議員の場合、2018年の定数増加に伴って増大する経費を節減するため、2022年7月までの間、月額7万7000円までの返納に限って寄附規制に関する規定を適用しないとされているが、それすらも各議員の自主性に委ねられている。
1997年に詐欺事件で逮捕された当時の参議院議員が、実刑確定による失職までの4年以上にわたる勾留中、何ら議員活動をしていなかったにもかかわらず、総額1億円超もの歳費を受け取っていたこともある。
法制度の不備が問題視されたものの、現在もその状況は何ら変わっていない。
国会議員は、不逮捕特権や免責特権と並び、歳費受領という特権が認められ、優遇されているというわけだ。
コロナ禍で経済的に苦しい思いをしている多くの国民からすると、到底納得できない話ではなかろうか。(了)