ルメール騎手インタビュー(前編)~リーディングジョッキー、2024年を振り返る
最も印象に残ったレースは?
2024年は176勝。前年の165勝を上回る勝ち鞍をマークし、2年連続、7度目のJRAリーディングジョッキーの座を射止めたのがクリストフ・ルメールだ。彼にじっくりと伺った話を今回は前編、後編の2回に分けてお送りしよう。
「勿論、毎年の目標の1つですから嬉しいです。とくに前年(23年)に取り返せたリーディングをまた続けて取れたという事が嬉しいです。勝つ事は難しいけと、勝ち続ける事はもっと難しいですから」
リーディングジョッキーはそう言った。
「王位に就くのは難しいけど、王位を守り続けるのは更に難しい。1度陥落した王位に返り咲くのは最も難しい」と語ったのは昭和の名将・川上哲治巨人軍監督だったはずだが、令和の現在、舞台をターフに変えて、ルメールがそれを実践した。
24年、先頭でゴールした176回の中で「最も印象に残った」と本人が語るのが、菊花賞(GⅠ)。アーバンシック(美浦・武井亮厩舎)とタッグを組んだ3歳クラシック最終戦だ。
「あのレースは僕が乗って来たお手馬がたくさん出ていました。その中からアーバンシックを選んで勝てたのが嬉しかったです」
春はライバルとして戦ったこの馬と、セントライト記念(GⅡ)で初めてタッグを組んだ。
「500キロを超える大型馬で、ストライドも大きいのに加え、春は幼かったのか、掛かる面がありました。でも、成長したので、普通に流れてくれさえすれば折り合いはつくという自信を持って乗れました」
結果、バッチリ折り合って快勝。続く菊花賞では本人も言うように数頭のお手馬が揃ったが、ルメールの中ではワンチョイス。アーバンシックとのコンビが継続された。
「菊花賞も全く同じ気持ちでした。掛かる心配はなかったので能力を信じて乗ると、思った通りの走りをしてくれました」
へデントール(2着)やアドマイヤテラ(3着)といったかつてのパートナーを下し、先頭でゴールに飛び込んだ。
「良いタイミングで乗せてもらえて、良い選択が出来ました」
しかし、残念ながら続く有馬記念(GⅠ)ではかつて一緒にGⅠ(ホープフルS)を制したレガレイラに敗れての6着。今度はグッドチョイスとはいかなかったが、これにはこんなエピソードがあったと続けた。
「レガレイラは2歳時に牡馬を相手にGⅠを勝ったようにポテンシャルの高いです。ただ、ダービー(GⅠ、5着)やエリザベス女王杯(GⅠ、5着)ばかりか前々走のローズS(GⅡ、5着)でも僕が上手く乗ってあげられず負けていました。だから前走後にオーナー関係者や木村(哲也)調教師らと話した際に『騎手を変えるのも良い案だと思います』と助言させてもらいました。そういう意味で、彼女が有馬記念を勝ったのは嬉しかったです。勿論、アーバンシックが勝てればそれにこした事はなかったんですけどね……」
チェルヴィニアと牝馬2冠達成
レガレイラと共に表彰台に乗る事は出来なかったが、同じ木村調教師の馬で成果を残せたのが、チェルヴィニアだ。
オークス(GⅠ)と秋華賞(GⅠ)の3歳牝馬2冠を制すと、果敢に古馬の、それも国内外から集った強豪を相手にしたジャパンC(GⅠ)でも4着に善戦してみせた。
「桜花賞(GⅠ)は僕が怪我をしていて乗れなかったけど、大外の18番枠で道中壁を作れず、息が入らなかったので最後にバテてしまったようです。オークスは久しぶりに乗ったけど、アルテミスS(GⅢ)を勝った時にGⅠレベルの力があるのは分かっていたから期待していました」
だから自信を持って臨んだそうだが、そんな中でも注意を払った事があったと続ける。
「桜花賞でアグレッシブな競馬をした後だったから、なるべくゆっくり優しく乗りたいと考えていました。結果的には考えていた以上にペースが速くなったので少し心配したけど、ステレンボッシュ(桜花賞馬)が同じような位置にいたので、うまく彼女を目標に出来ました。3〜4コーナーで外から上手くポジションを上げられたし、直線では持ち前のスタミナで伸びてくれました。個人的には怪我の後だったし、アスコリピチェーノで挑んだNHKマイルC(GⅠ)で変な騎乗になって負けちゃった後でもあったので、凄く嬉しかったです」
秋にも勢力分布図は変えさせないとばかりにボンドガール(2着)やステレンボッシュ(3着)を抑え、秋華賞で2冠を達成した。
「内回りだけが気になったけど、好位を取れて直線でも進路がありました。春より反応も良くなっていて、返し馬をした際には勝利を確信出来ました。そのくらいストライドが凄く良かったんです」
ジャパンCに関しては「超スローからの上がりの勝負が向かず」(ルメール)4着に敗れたが、改めて次のように語った。
「とはいえあれだけの強豪を相手と考えれば決して恥ずかしい競馬ではありませんでした。まだ3歳ですし、血統的にもお母さん(チェッキーノ)より父のハービンジャーに似ていると思うので、古馬になる今年がまた楽しみです」
海の向こうでの活躍
ルメールの活躍は、昨年も国内だけにとどまった話ではなかった。
アメリカの競馬の祭典ブリーダーズCでは、芝2400メートルのBCターフ(GⅠ)でローシャムパーク(美浦・田中博康厩舎)を駆って2着。欧州馬が圧倒的に強いカテゴリーで、イギリスのレベルスロマンスを相手にクビ差まで迫ってみせた。
「2000メートルがベストの馬だと思っていたので、僕もビックリしました。スローペースと小回りコースのお陰で距離を克服出来て、良い脚を使えました。直線半ばでは勝てるかと思ったけど、ビュイック(レベルスロマンス騎乗)の話だと『先に抜け出して1頭になったら気を抜いたけど、追い上げられたらまたハミを取って伸びた』らしいです。一方こちらは、さすがに最後はいっぱいだったので、良く頑張ったと言えるでしょう」
良く頑張ったのはイギリスのインターナショナルS(GⅠ)に挑んだドゥレッツァ(牡、美浦・尾関知人厩舎)も同様だったと続ける。
「シティオブトロイのペースに持ち込まれてしまって5着に終わったけど、流れてくれればもっと上があってもおかしくありませんでした。久しぶり(約4カ月ぶり)の競馬で、状態がフレッシュだった事もあり、返し馬から元気過ぎる感じでした。それで、ラスト400メートルでは大きな息が入ってしまい最後の伸びを欠きました。それでもパッタリとは止まりませんでした。平坦コースの中距離戦は日本馬に合うと再認識出来る内容でした」
次回の後編では、現在の日本での活躍につながる事になるインド競馬とのエピソードや、ドバイでのアクシデント、そして今年に懸ける想いを伺っております。お楽しみに。
(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)