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#能登半島地震 1ヶ月 家も道具も失った職人 輪島漆器の復興をかけ工房の社長はニューヨークに渡った

堀潤ジャーナリスト
岡垣漆器店が取り扱う酒器 新たな輪島の漆器をつくりあげている 撮影:堀 潤

石川県輪島市で輪島漆器店「岡垣漆器店」を営む岡垣祐吾さん43歳。

多くの職人達と共に自らの家も、店舗も被災した。

その岡垣さんは、ニューヨークに飛んで、今月4日から7日に現地で開かれる見本市「NYNOW」に出展する。

期間中、80数カ国から数万人規模でバイヤーなどが集まる、北米最大の見本市だ。

地震によって一度は辞退しようかと思ったものの、漆器の未来を創るためにも現地に向かう決断をした。

岡垣祐吾さん 羽田空港国際線ターミナルに向かう朝、都内でインタビューした 撮影:堀潤
岡垣祐吾さん 羽田空港国際線ターミナルに向かう朝、都内でインタビューした 撮影:堀潤

家族や職人達の言葉が岡垣さんの背中を押した。

「ニューヨークに行くことにしました」

周囲にそう打ち明けると、次々と支援を申し出る声が広がった。

漆器を展示する木棚は、岐阜県高山市の木材加工の職人がつくって急ぎで送ってくれた。

展示する酒器や皿はなんとか被害を免れていた。

ニューヨークに持っていく手荷物のリュックの中に大切にしまわれていた 撮影:堀潤
ニューヨークに持っていく手荷物のリュックの中に大切にしまわれていた 撮影:堀潤

「技術の高さを米国で伝えたい。その技術がいま危機を迎えている、そのこともわかってもらいたい」。

地震で被害を受け、縁が欠けたり割れてしまった漆器も拾い集め、持っていくことにした。

「復興したら必ずニューヨークに最初の漆器を出荷する。そう宣言しようと思います」。岡垣さんは語る。

「いま、倒壊しかけた自宅で避難生活を続ける職人さんもいます。道具も材料も、工房も失った職人達に希望をもってもらいたい。作り続けるための環境を復旧させたい。輪島だけではなく、漆器そのものの発展に繋がるような未来を創りたい」

そう語りながら、米国に持っていく漆器を、カバンの中からいくつか見せてくださった。

高い技術で小さな酒器の底に蒔絵が光る 撮影:堀潤
高い技術で小さな酒器の底に蒔絵が光る 撮影:堀潤

涙が出るほど、美しかった。酒の代わりに、水を注いで見せてくれた。底に描かれた蒔絵が光り始めた。岡垣さんの決断は、JAPANと呼ばれる漆の力をわたしにも教えてくれた。

渡航直前、岡垣さんのインタビューを動画とあわせてぜひみなさんにもお届けしたい。

堀)
いよいよ、ニューヨークに発つ朝ですが、現地では何を伝えたいですか?

岡垣さん)
今の思いは日本にいるから「感謝」なんですけど、今、僕がどういう気持ちかというと、復興に何年かかるかわかりませんけど復興はいつかします。

復興したときの最初の荷物はニューヨークに出そうと思って、「そのために僕は今ニューヨークにいます」という気持ちを現地の人たちに伝えたいたいと思います。


堀)

その気持ちを支えるのはどういう思いでしょうか?


岡垣さん)

故郷がああいう状況になって、まだ1ヶ月経ってもほとんど状況が変わってないんですけど、やっぱりそれを見るのはとてもつらくて。

丁寧に、丁寧に言葉を紡ぎながらインタビューに応じてくれた 撮影:堀潤
丁寧に、丁寧に言葉を紡ぎながらインタビューに応じてくれた 撮影:堀潤

やっぱり輪島で、少人数かもしれないけど、ものを作る職人さんがいたり、なんか今日は雪だからどうだとか、今日は晴れだからどうだなんて自然の環境のことを言いながら、漆と向き合っている町になりたい、そういう思いなんだと思います。

今はちょっと、それどころではないっていうか、状況がもう本当に「命」を守るっていうフェーズ。そこからは、段々と抜け出しつつあるのかなとは思うんですけど、その次にはやはり「生活」ということになります。

今は職人さんたちもみんな「やるよ」「やりを続けるよ」って言ってくれてますけど、やっぱり収入がない期間が何年間か続く可能性があるって考えると、早く作るところを整備したり、とにかくご注文いただいたものを一つずつやっていくことで、何となく収入が確保できて「これで家族を養えるな」と思っていただければ、多分、今なら職人さんは離れないで続けてくれてると思うんです。

縁が欠けてしまった輪島塗の漆器 被災した店舗から一つ一つ拾い集めた 撮影:堀潤
縁が欠けてしまった輪島塗の漆器 被災した店舗から一つ一つ拾い集めた 撮影:堀潤

僕たちは阪神淡路とか、東日本とか、中越だったり、熊本、あと各地の豪雨とかいろんな災害で被災された方々をこれまで見ていて、必ずそれぞれ復興しているのを知っています。

なので、輪島もいつかは復興できると思っています。

そのときに、輪島塗だけではなく、日本の漆器業界の人たちにとっても一つのきっかけにしたいと勝手に思っています。

今回の震災が起きる前、去年の12月31日までも漆器業界って決して、売り上げが右肩上がりで「もう成長止まりません」と言える業界ではなかったので、元々抱えてた高齢化とか、市場の縮小とか、いろいろな状況でこのまま生き残れない企業が多いよねってと元々言われていました。

今回の地震での復興で、何か輪島だけがある意味「復興バブル」じゃないですけど、盛り上がることもあるかもしれませんが、輪島だけバブルでよかったねということではないと思っています。

輪島がいつか復興したときに、漆器業界にも光というか、人の目が当たるようになる、そういう復興にしていきたいと思います。

岡垣さんたちは輪島塗の技術をさらに発展させ、新たな輪島の漆器づくりに挑戦してきた 撮影:堀潤
岡垣さんたちは輪島塗の技術をさらに発展させ、新たな輪島の漆器づくりに挑戦してきた 撮影:堀潤

堀)

これからですよね。岡垣さんは、どんな未来を見たいですか?

岡垣)
やっぱり、いいものを作りたいです。

今は、被災地という立場で本当に色々な方々が気にかけてくださり、それをきっかけに、こういうものを見てくださることはすごくいい機会だと思うんですけど、復興した後は、輪島塗とわからないけど「綺麗」って手に取ったらそれが輪島塗だったっていうふうにしたいです。それが、多分、僕たちが復興する一つの区切りなのかなと思います。

ジャーナリスト

NPO法人8bitNews代表理事/株式会社GARDEN代表。2001年NHK入局。「ニュースウォッチ9」リポーター、「Bizスポ」キャスター。2012年、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校で客員研究員。2013年、NHKを退局しNPO法人「8bitNews」代表に。2021年、株式会社「わたしをことばにする研究所」設立。現在、TOKYO MX「堀潤LIVE Junction」キャスター、ABEMA「AbemaPrime」コメンテーター。2019年4月より早稲田大学グローバル科学知融合研究所招聘研究員。2020年3月映画「わたしは分断を許さない」公開。

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