豪快な焼きと心温まる接客に〝予約殺到〟も納得! これぞ大阪焼鳥の真骨頂【きち蔵/大阪】
今回、冒険するのは大阪府大阪市西区の「きち蔵」。最寄りは大阪メトロ中央線・千日前線が走る阿波座駅。地上に出ると広がっていたのは整ったオフィス街だ。早速、お目当ての店に向かうと大通り沿いに数軒の飲食店が連なっていた。時刻は18時ちょうど。「きち蔵」の暖簾が上がるやいなや店内は予約客で埋め尽くされた。これは、相当の繁盛店。
格子状の焼き台に「大阪」を実感
暖簾をくぐり、4人でカウンターの角を囲むように、入口そばの席につく。手を伸ばせば届きそうなほど近くに設えられた焼き台。この鉄棒が格子状に並んだ焼き台を見ると、大阪に来たことを強く実感する。安定感があり、熱伝導率もいい。なにより、ざざっと並んだネタからもうもうと立ちのぼる煙はずっと見ていても飽きがこないんだ。
さっそく、客から鶏のたたきの注文が入ったのか、ももや骨付きせせりが並べられていく。さぁ、注文はどうしようか……
まずは名古屋コーチンのたたきから
「きち蔵」はどこか大衆的な匂いをまといながら、焼鳥は地鶏も扱うこだわりよう。となれば、まずはたたきを肴にまったりと飲みたい気分。
品書きにあったのは、日本三大地鶏に名を連ねる名古屋コーチンのたたき。しかも食味に定評のある「稲垣種鶏場」ときた! ここの名古屋コーチンはうまみが濃く、それでいてやわらかい。うーん。これは頼まない手はないというもの。
王道のむねとももの2種。しっとり吸い付くようなむねと、うまみと弾力で魅せるもも……。んん。これはむねに軍配。そうそう、いい地鶏はももはもちろんのこと、むねがうまいんだ。
おまかせで頼んだ串の1本目は鴨!
焼鳥はアラカルトのほか、5本セット(1,600円)もあるものの、どうせもっと食べるだろうからと、大将に「おまかせ」でお願いすることにした。すると……
「河内鴨のねぎまです」と大将。おっと、まさか鴨から始まるとは思いもしなかったからこれは嬉しいサプライズ。ギュッと押し返すような弾力の鴨もも肉。鴨の濃さを引き立てるねぎ。これが合わないわけないよなぁ。1本目から、ビールもぐびり、だ。
続くせせりは、名古屋コーチンだという。地鶏のせせりとなると筋肉も発達して、ぐっと力強い食味のものが多いなか、この1本は思っていたよりもやわらか。鴨とせせり。この2本ですっかり食欲にも火が付いた。もう、食べる気満々。
ふわっふわのつくねがたまらない
コロッとしたつくねは、ふんわりとした口溶け。どこか懐かしさを覚える食感の正体は……山芋だ。すりおろした山芋を加えることでふんわり感を生み出している。
いわゆる昔ながらのボイルつくねなんだけど、これがタレとの相性も抜群。むしろこういうつくねは食べ飽きないんだ。個人的に、お代わり必須。
内臓ネタもクセがなく食べやすい
砂肝もハツもボリューム抜群だ。砂肝はザックザクのインパクト、ハツはぷりっと。とくにハツにタレを合わせる店は少ないので、ちょっと新鮮。
ここで、口直しのハラミポン酢。これがまた酒を呼ぶいいつまみなんだ。だいたい鶏皮ポン酢を出す店が多いところ、ハラミというところが玄人感。もみじおろしやごまの風味もあって飽きがこない。これはいい一品。
焼鳥屋でウインナー、ソーセージ?
そして、まさかの赤ウインナー。ケチャップとマヨネーズを添えた「きち蔵」の遊び心が溢れる一品だ。にしても赤ウインナーか。素材が素材だけに突出したおいしさがあるわけじゃないけれど、目の前に出されると妙に食べたくなってしまう……。不思議なもんだ。
赤ウインナーとは打って変わって、本格的なソーセージ3種も。その内容がまた尖がっているわけだ。短角牛のほか、ブランド豚の東京X。そして、ハンガリーでは「食べる国宝」として知られているマンガリッツァ豚まで! それぞれに、それぞれの弾力、濃いうまみ。ただソーセージとなると、牛よりも豚のほうが好みだなぁ。
焼鳥屋に来たのだから、当然、この舌は鶏を求めているのだけど、こういう変化球、嫌いじゃない(結局、酒も進むわけだし)。
鴨ねぎまのもう一つの可能性
もう、何本食べたことだろう。大将から「まだ食べられるなら、鴨の違うネタもありますよ」と声をかけられた。先ほどの鴨ネタとどう変化をつけてくるのかと思っていたら……
現れたのは、鴨の皮でねぎを包んだネタ。そう、これはもう一つのカタチのねぎまというわけだ。先ほどのねぎまとは異なり、ねぎが主役。鴨の甘い脂を吸ったねぎのおいしさといったらない。これは間違いなく酒泥棒。
〆とデザートを兼ねる小倉サンド
〆は品書きを見たときから気になっていたこの一品。炭火でさっと焼いたパンに小倉あんとクリームを挟んだ小倉サンドだ。この香ばしさと甘じょっぱさ、くせになるなぁ。
きっとこしあんだけでも粒あんだけでもダメなんだ。こしあんベースに粒あんの絶妙なニュアンス。んん。さんざん焼鳥を食べたというのに、これなら何個でもいけそう。
しかし、さすがは繁盛店というか、その活気は店の外にも漏れ出てしまうのだろうな。飛び込み客が満席で断られるシーンもちらほら。ただ、どれだけ忙しくても物腰柔らかにていねいに対応する女将さん。
もうもうと煙を上げる焼き台は常にネタでぎっしり。大将も絶え間なく焼き続けているというのに終始にこやかで、優しさがにじみ出ているのが印象的だった。
焼鳥はしっかりうまいし、接客もピカイチ。大阪も高級焼鳥が増えているなか、「焼鳥居酒屋」を突き詰めていったのが、ここ「きち蔵」なんだと思う。
帰り際、大将も女将さんもスタッフも、最高の笑顔で見送ってくれた。いいな。これは繁盛しないわけがないよ。
▼冒険のおさらい
①焼鳥は地鶏もしっかり楽しめる
②焼鳥居酒屋らしく一品も充実
③心温まる接客にほっこり
店舗情報
【店名】きち蔵
【最寄り駅】阿波座駅
【住所】大阪府大阪市西区立売堀3-5-20
【予約】06-6531-0638
【定休日】日曜
【串のアラカルト】あり
【コース(セット)】1,600円~
【鶏メモ】名古屋コーチン、阿波尾鶏、河内鴨ほか