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オミクロン株対応ワクチンの接種開始まで待った方が良いのか?現時点で分かっていること

忽那賢志感染症専門医
(写真:ロイター/アフロ)

オミクロン株対応ワクチンの最新情報については、こちらをご参照ください。

以下の記事は、過去の情報を参考にしたもので情報が古くなっている点にご注意ください。

 

 

 

 

「オミクロン株対応ワクチン」は、名前の通りオミクロン株に対しても感染予防効果が期待されているワクチンです。

オミクロン株対応ワクチンが必要となっている背景は何でしょうか?

今あるワクチンは接種せずに、秋以降に接種可能となる予定のオミクロン株対応ワクチンを待った方が良いのでしょうか?

なぜオミクロン株対応ワクチンが必要なのか?

野生株とオミクロン株(https://doi.org/10.1016/j.chom.2022.07.006を元に筆者作成)
野生株とオミクロン株(https://doi.org/10.1016/j.chom.2022.07.006を元に筆者作成)

そもそもなぜオミクロン株対応ワクチンが開発されたのでしょうか?

それは、オミクロン株が、最初に出現した頃の新型コロナウイルス(野生株)と比べて、スパイク蛋白に非常に多くの変異を持つためです。

スパイク蛋白は、感染力や免疫から逃れる力などに関わっている構造物であり、感染の成立に関わります。

このスパイク蛋白が、野生株とオミクロン株とでは性質が大きく変わっています。

カップヌードルに例えれば、野生株がオリジナルのカップヌードルです。アルファ株やデルタ株といった変異株は「カップヌードル カレー」や「シーフードヌードル」くらいの違いでしたが、今のオミクロン株は「カップヌードル 肉だしうどん」くらいオリジナルのカップヌードルから離れている、というイメージです。

mRNAワクチンの作用機序(DOI: 10.1056/NEJMoa2034577より)
mRNAワクチンの作用機序(DOI: 10.1056/NEJMoa2034577より)

日本で広く接種されているmRNAワクチン(メッセンジャーRNAワクチン)は、当初武漢で見つかった「野生株のスパイク蛋白」を設計図に持ったmRNAを元に細胞内でスパイク蛋白を作り出すワクチンです。

したがって、このmRNAワクチンによって作られる免疫は「野生株のスパイク蛋白」に対する免疫ということになります。

オミクロン株のスパイク蛋白は、野生株のスパイク蛋白とは大きく異なっていることから、mRNAワクチンによって得られた免疫はオミクロン株に対してはうまく反応ができません。

このため、mRNAワクチンを接種した人もオミクロン株には感染することがあり、現在感染者が非常に増えている原因の一つとなっています(一方、重症化を防ぐ効果はオミクロン株に対しても保たれています)。

オリジナルのカップヌードルしか食べたことがない人が、目隠しをして初めて食べた「カップヌードル 肉だしうどん」をカップヌードルだと認識することが難しいのと同じです。

オミクロン株対応ワクチンは、野生株のスパイク蛋白の設計図とオミクロン株のスパイク蛋白の設計図を両方持ったmRNAワクチンです。

野生株50%、オミクロン株50%を配合した2価ワクチンであり、これにより、オミクロン株も免疫がよりしっかりと反応し感染を防ぐことが期待されます。

「カップヌードル 肉だしうどん」を事前に食べておくことで、目隠しをして食べたときにも「あ、これもカップヌードルだ・・・やっぱりおいしいぜ」と認識できるようになるわけです。

オミクロン株対応ワクチンの有効性は?

「オミクロン株対応ワクチン」は、名前の通りオミクロン株に対しても感染予防効果が期待されているワクチンです。

それではオミクロン株対応ワクチンを接種すれば、どれくらいオミクロン株に感染しにくくなるのでしょうか?

実はオミクロン株対応ワクチンのオミクロン株に対する感染予防効果はまだヒトでのデータがありません。

現時点で分かっているのは、従来のmRNAワクチンに比べて、オミクロン株対応ワクチンはオミクロン株に対する中和抗体の量が多く産生されるようになる、ということです。

モデルナ社の従来のワクチンとオミクロン株対応ワクチンを接種した前後のオミクロン株に対する中和抗体推移(doi: https://doi.org/10.1101/2022.06.24.22276703)
モデルナ社の従来のワクチンとオミクロン株対応ワクチンを接種した前後のオミクロン株に対する中和抗体推移(doi: https://doi.org/10.1101/2022.06.24.22276703)

これまでのワクチンと中和抗体に関する研究の結果からは、それぞれの変異株に対する中和抗体の量と感染予防効果が概ね相関することが分かっていました。

そして今のmRNAワクチンではオミクロン株に対する中和抗体が十分に産生されないことから、感染を防ぎ切ることが難しくなっていました。

オミクロン株対応ワクチンにより、オミクロン株に対する中和抗体の産生量が増えれば、感染予防効果も高くなることが推定されます。

ちなみに、野生株とオミクロン株の2価ワクチンを接種することで、従来のワクチンよりもアルファ株、ベータ株、デルタ株といった他の変異株に対する中和抗体が増えるようです。

この結果からは、野生株のmRNAワクチンだけを接種し続けるよりも、他の変異株も含む多価ワクチンを接種する方が様々な変異株に対応できるようになる、ということが示唆されます。

これは「オリジナルのカップヌードル」だけを延々と食べ続けるよりも、「オリジナルのカップヌードル」と「カップヌードル 肉だしうどん」を両方食べておくことで「カップヌードルにはいろんな味があるんだな・・・」というカップヌードルの多様性とおいしさが分かり、目隠しをして初めて食べた「カップヌードル カレー」や「シーフードヌードル」を食べても「あ、これもカップヌードルだな」と分かるようになる、というイメージかと思います。

同様の結果は、野生株とベータ株の2価ワクチンを接種した場合の様々な変異株に対する中和抗体の産生に関する研究結果でも示されています。

従来のmRNAワクチン接種時の中和抗体の推移(DOI: 10.1056/NEJMc2206576より)
従来のmRNAワクチン接種時の中和抗体の推移(DOI: 10.1056/NEJMc2206576より)

しかし、どれくらいオミクロン株に対する感染予防効果が高くなるのかは現時点では予測は困難です。

このオミクロン株対応ワクチンは、これまでのワクチンと比べてオミクロン株に対する中和抗体がモデルナ社は1.7倍、ファイザー社は1.5-1.9倍増えたとのことですが、そもそも従来のワクチン接種によって産生されるオミクロン株に対する中和抗体は野生株よりも極端に低くなっています。

研究の実験系によりばらつきはありますが、野生株とBA.1の中和抗体の量の差は3倍から10倍の差がついています。

つまり、従来のmRNAワクチンと比べてオミクロン株に対する中和抗体が1.5-1.9倍に増えたとしても、mRNAワクチンが登場したときのような野生株に対する極めて高い感染予防効果を期待することは難しいかもしれません。

また、日本は現在「BA.1と野生株」の2価ワクチンを導入することを検討していますが、ご存知の通り今日本国内で流行しているのはBA.5というオミクロン株の亜系統です。

同じオミクロン株ではありますが、BA.5に対しては、BA.1に対して期待される効果よりもさらに低下すると考えられます。

こうしたことも踏まえ、アメリカはBA.1対応ワクチンは見送り、BA.5に対応したオミクロン株対応ワクチンの導入を検討しているようです。

オミクロン株対応ワクチンは、オミクロン株に対する感染予防効果が高くなることが期待される一方で、どれくらい効果があり、それがどれくらい続くのかについては今後のデータを待つ必要があります。

そして、ワクチンが導入されたときにどんな変異株が流行しているのかを予想するのは困難です。

初回接種(2回接種)を完了した全ての人が対象になる予定のようですが、今3回目のワクチン接種をせずにオミクロン株対応ワクチンを待つほどには、現時点ではデータが揃っているとは言えない状況です。

・オミクロン株対応ワクチンは、オミクロン株に対する中和抗体の上昇により感染予防効果が高くなることが期待されるが、今流行しているBA.5にどれくらいの感染予防効果があるのかについては今後のデータを待つ必要がある

・現在のワクチンの3回目接種によるBA.5に対する発症予防効果(感染予防効果に近い)は、短期的には65%、接種3ヶ月後以降は54%と報告されており、感染リスクを半減させることができる

・現在のワクチンも重症化予防効果は保たれており、重症化を防ぐ効果は高い

・秋以降にどんな変異株が流行しているのかの予測は難しい

ということを考慮し、秋までオミクロン株対応ワクチンを待つべきか、待たずに今のワクチンを接種するのか検討することになります。

私の意見としては、現在の高度な流行状況ではひとまず今のワクチンを接種することで感染リスクを低減させ、オミクロン株対応ワクチンのデータが揃うのを待つ、ということで良いのではないかと思います。

特に高齢者や基礎疾患のある方は重症化予防効果を高めることが重要ですので今のワクチンで4回目の接種をすることをご検討ください。

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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