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Bリーグに現れた新星! 大阪エヴェッサを驚かし続ける弱冠20歳の吉井裕鷹が見せる潜在能力と高い適応力

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
1月にチーム合流したばかりですでに主力戦力になっている吉井裕鷹選手(筆者撮影)

【年明けから現役大学生選手が次々Bリーグ入り】

 大学シーズンが終了した年明けから、Bリーグの多くのチームが特別指定選手として現役大学生選手をリクルートしている。特別指定選手とは若手有望選手の育成を目指した制度で、各チームとも22歳以下の学生選手を2人まで契約できるというものだ。昨年1月に特別指定選手の下限年齢が撤廃され、現在は大学生、高校生に限らず、中学生でもBリーグに出場することが可能になっている。

 ただ特別指定選手は基本的には即戦力というよりも育成目的の要素が強く、チームに合流しても練習に参加するだけで、試合で出場時間を与えられるのはかなり難しいというのが一般的といえる。それでもBリーグのプロ選手たちと同じコートで練習するだけで、彼らにとっては大きな成長の場といっていい。

【弱冠20歳の大学2年生がチーム合流後1ヵ月強でスターターに抜擢】

 ただそんな特別指定選手の中で異彩を放っている存在がいる。大阪エヴェッサが獲得した吉井裕鷹選手だ。彼はまだ大阪学院大学2年生で、年齢も弱冠20歳でしかない。しかし1月下旬にチーム合流後、チームを驚かせる活躍を続け、3月に入ると主力選手の1人としてスターターを任されている存在になっている。

 ここまでの成績は13試合に出場し、1試合平均5.8得点、1.2リバウンド、0.8アシストを記録。ただスターターを任させるようになってからは出場時間は常に20分を超え、この期間の平均得点も9.7まで上昇している。しかもチーム合流してから出場してしなかったのはわずか2試合のみ(スターター起用以降はもちろんゼロ)と、特別指定選手として破格の扱いを受けている。

 同じポジションの熊谷尚也選手が左ふくらはぎ負傷のため戦線離脱しているというチーム事情があるとはいえ、チームには同じポジションにずば抜けた身体能力を有する藤高宗一郎選手もいる。それでも吉井選手をスターターで起用しているのだから、穂坂健祐HCの期待の高さが伺い知れるだろう。

【20歳とは思えない高い適応力】

 吉井選手はU-22の代表候補にも連ね、日本バスケ界の若手有望選手であることは間違いない。195センチ、95キロという恵まれた体格のみならず、コート上を縦横無尽に走り回る運動能力も備えている。そこは特別指定選手としてBリーグにやって来る選手に共通している潜在能力の高さだ。だが吉井投手がエヴェッサで早くも頭角を現しているのは、適応力の高さと物怖じせずシュートを打ち続けるメンタリティがあるからだ。

 吉井選手は元々、大学でポジション的に4番か5番のフロントコートを任させれる選手だ。しかし身長が高くなるBリーグでは熊谷選手や藤高選手と同じ3番に入っている。もちろん彼の身長を考えれば、将来的にも3番が理想的になってくる。

 3番はプリメーターからアウトサイドシュートを放ったり、インサイドに切れ込んでミスマッチを創出したりするポジションで、フロントコートとはまったく動きが異なる。それでもチーム合流後は見事に3番というポジションに適応し、スターターを任されるほどになっているのだ。

【大学では未経験だった3Pシュートを早くも武器に】

 中でも印象的なのが3Pシュートだ。3番として3Pシュートを決める能力は必要不可欠だが、吉井選手は大学では3Pシュートの練習をしておらず、本格的に取り組んだのはエヴェッサに合流してからだ。ここまでの3Pシュートの成功率は28.9%と決して高くはないが、出場した13試合中10試合で3Pシュートを試みる積極性をみせている。

 特にスターターに起用され始めた3月3日の秋田ノーザンハピネッツ戦以降は、6試合で計23本の3Pシュートを放ち7本をリングに沈めている(成功率は30.4%)。今シーズンのエヴェッサは主力選手に故障が相次ぎ得点力不足が続いていただけに、3番として果敢にシュートを打ちにいく吉井選手の姿勢は頼もしく見えているはずだ。

【本人は控えめだが穂坂HCの信頼は増すばかり】

 まさに周囲を驚かせる活躍を続ける吉井選手だが、当の本人はまだまだ手探りの状態でのプレーが続いているようだ。

 「熊谷さんがけがをしているので(プレー)時間をもらえていると思っているので、全然スターターの器ではないというか、けが人がいないなりに彼らの分まで自信をもってやりたいとは思っているんですけど…。

 ずっと大学で4番、5番をやっていて3番をする機会がまったくなかったので、大学の監督に(エヴェッサで)やってみないかといわれてずっとやり続けているんですけど、毎日頭がパンクしながら毎日練習をやっていて、まあ時々ではあるんですけど成長してきているとは思うんですけど、まだまだこれから頑張っていかなければとは思います。

 (3Pシュートは)こっちに来てから(コーチに)フォームの改善をしてもらいながらやってきました。自分ではスムーズに打てているかわかりませんが、結果的にそういう風に(3Pシュートを決める能力がある)言ってももらえるのであれば、そういう風になってきているのかなとは思います」

 その一方で、穂坂HCは着実に吉井選手への信頼度を増している。

 「正直特別指定選手、大学2年生ということで、初めの頃はローテーションに入れるのはなかなか難しいんじゃないかと考えていました。ただ彼はスポンジではないですけれど、吸収するものがすごく高くて、こちらが言ったことをあのサイズでできてしまう…。また彼の恵まれた体格の部分もあります。

 ただオフェンス部分はいいんですけど、ディフェンス部分で見てしまうとまだまだできないところがあると思いますが、彼はこちらが求めることをどんどん吸収してやろうとする姿勢を見せてくれるので、気持ちの部分で大学2年生とは思えないほど、今すぐにでもBリーグ選手になれるほどの素材というのものを持っていると思いますし、自分自身も彼のことを信頼して使っています」

【将来は現役大学生Bリーグ選手に?】

 まだまだ吉井選手自身は手応えを感じていないようだが、周囲の評価は確実に上がっている。また新しいポジションの挑戦とプロ選手に囲まれた環境は吉井選手にかなりの刺激を与えており、「楽しい」という言葉を口にしている。

 現在日本代表の主力の1人である馬場雄大選手は大学4年生のシーズンをスキップし、アルバルク東京に在籍しBリーグ選手としてプロの世界に飛び込んだ。

 吉井選手の今後は何一つ決まっているわけではない。だが吉井選手のここまでのプレーと評価を見る限り、彼が馬場選手に続く現役大学生Bリーグ選手になれる可能性は十分にありそうだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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