工藤静香『明鏡止水』ツアー完遂。「もっと気楽に、そしてみなさんも好きな人やことに神経全集中!」
7年振りのオリジナルアルバム『明鏡止水』を引っ提げての全国ツアー、完走
工藤静香が全国ツアー『明鏡止水~piece of my heart~ConcertTour2024』のファイナル公演を9月15日、LINE CUBE SHIBUYAで行ない、7月6日秋田からスタートした全10公演のツアーを締めくくった。7年振りのオリジナルアルバム『明鏡止水』を引っ提げてのツアーは、各地で「心に花を持って過ごして」とファンを元気づけた。
16時58分、満員のLINE CUBE SHIBUYAの客席に開演前最後の会場BGM、モトリー・クルー「Shout At The Devil」が流れる。これから始まるライヴで拳を上げ、一緒にシャウトしようと煽っているようだ。イエローのドレスを着た工藤が大きな拍手に迎えられ登場し、オープニングナンバーは「I am ready」だ。Kōki,が作曲した強気な女性を描いたロックナンバーで、艶のある伸びやかな歌声が響き渡る。「Boo」では工藤に合わせて客席が手を回し、「メタモルフォーゼ」のイントロが流れると歓声が上がる。3曲を聴いただけでもその伸びやかでアタックの強い歌、そしてやわらかさ、かわいらしさも感じさせてくれる変幻自在の歌の表現力に、客席は引き込まれる。
2ndシングルの歌謡ロック「Again」(1987年)を歌うとコールが起こり、一瞬アイドル歌手のライヴ会場と化する。そこから「NIGHT WING」「島より」という中島みゆき提供曲を披露し、キャリアの一端をギュッと凝縮したようなパートだった。
セットリストにはない曲をバンドメンバーと即興で披露する、工藤のライヴではおなじみの時間もこの日はいつもより多かった。「ちょっと演らない?」とバンドメンバーそれぞれに声をかけ、その楽器のプレイを楽しみつつ「in the sky」「please」「秋子」「doggie」等ファンが聴きたい、コアファンも満足の、工藤が歌いたい曲を歌っていた。
少しアンニュイな空気を纏ったKōki,作曲の「アイスコーヒー」では、色気を感じる歌でセクシーな女性像を表現し、「孤独なラプソディ」では優しい歌詞と突き抜けるハイトーンで魅了。スキマスイッチ大橋卓哉が提供した「香雪蘭~好きより愛してる~」は、工藤が途中で演奏を止めるというハプニングも。「ひと言だけ音がひっかかって、それがどうしても気になって…。大好きな曲だから歌い直したい」というと大きな拍手が沸く。客席にとっては“幸せなハプニング”だ。工藤がひと言ひと言を切々と歌うバラードが、胸の深くまで迫ってくる。「勇者の旗」は力強い歌で全ての人の心を鼓舞する。工藤の歌はどこまでも“訴えかけてくる”歌だ。感情を揺さぶり、そして“届ける”。
タイトなシースルーブラックドレスに着替えて再びステージ登場すると、軽快なピアノが軽快なメロディを奏でる、wacciの橋口洋平が提供した「丸」(アニメ「おじゃる丸」第27シリーズのエンディングテーマ)を、客席とダンスを楽しみながら披露。「Go Easy!」は<大好物は人の失敗 足を引くのは君の失態 粗を探すのは君の日課>という痛快な歌詞が話題の、SNS上でいわれなき誹謗・中傷に苦しんでいる人が多い、この時代を生きる全ての人に贈る歌だ。客席も一緒になって<Go Easy!>と大きな声で叫んでいた。これからライヴの定番曲になりそうだ。
激しいドラムとベースが重いリズムを刻む、アグレッシブな「Juger Line」を歌うと、客席の温度が上がる。田中栄二(Dr)、惠美直也(B)、田口慎二(G)、渡辺剛(Key)という手練れのミュージシャンが揃ったバンドが作るグルーヴと、工藤の歌から生まれるグルーヴが交差して、エモーショナルな感情が聴き手の心を支配する。どんなテンポの曲も歌を支えながら、でも極上のアンサンブルでその音をしっかり主張するこのバンドの音も、ライヴの聴きどころのひとつだった。
「Blue Velvet」は、35周年記念で発売したセルフカバーアルバム『感受』のバージョンで披露。激しいギターの音色と、目くるめくライトの明かりが交錯し、凛とした美しさと強さを湛えた工藤の、情熱的な歌を浮かび上がらせ客席に突き刺さる。そして「SNSで嫌な思いをしている人から手紙をもらったり相談されることが多い」と語り始め、「SNSでなんだかんだ言ってくる人は、この先あなたの役に立つ人じゃない。幸せにしてくれる人じゃないから無視すればいい。それより自分のやりたいことや、好きな人や事に神経全集中」と客席に伝え、勇気を与える。
さらに「私はSNSで色々と、ずっと言われ続けても元気でこうして歌っている。だから悩んだら私を思い出して」と温かなメッセージを贈り、本編ラストの「第三惑星」を歌った。低音からハイトーンまで音域の広い歌が、ドラマティックな世界をが色濃く浮かび上がらせる。スキマスイッチ大橋卓哉が書いた切ないメロディと工藤の声が、抜群の相性で溶け合っていく。
アンコールはポニーテールで登場すると、ドラムに「かっこいいやつを」と無茶振りし、「Blue Rose」をセッション。さらにピアノだけで「声を聴かせて」を即興で歌い、大きな拍手を浴びる。そして「慟哭」は『感受』バージョンで、メロディと言葉を抱きしめるように歌い、丁寧に伝える。
最後の曲に選んだのは「霙」だ。wacci橋口洋平が作詞・曲を手がけ、この曲を初めて聴いた時「泣いてしまったほど大好きな曲」と工藤が語る、代表曲のひとつになりそうな名バラードだ。<雨にもなれず 雪にもなれず 流れもせずに 積もりもせずに 歩きづらさを残しただけの恋だったのに 何故か今でも溶けてくれない>という橋口節を工藤が歌うと、極上の切なさが生まれ客席に感動が波のように広がっていくのが伝わってくる。
全ての演奏が終わり大きな拍手が贈られると、工藤が「今日は色々あったので」とピアノの渡辺とアドリブで名曲「きらら」を披露。26年前の曲が、繊細な表現力の歌によって、さらに瑞々しさが増し伝わってきた。「また元気で会いましょう」――最後にそうメッセージし、笑顔でステージを後にした。
10月24日、31年ぶりに香港でコンサート開催
10月24日には31年ぶりに香港でのコンサート『「明鏡止水~piece of my heart~」Concert Tour 2024 in Hong Kong』(マック・ファーソン・スタジアム)を行なうが、この日は香港からもファンが駆け付け、大きな声援を贈っていた。
11月からは全国6カ所で『工藤静香 Christmas Dinner Show 2024』を行なうことも発表されている。7年ぶりのオリジナルフルアルバム『明鏡止水』でまた新たな曲と出会い、その世界観とメッセージをライヴで伝え、さらに新たな曲との出会いを求め、日々歌い続ける――デビュー37年、工藤静香は前進あるのみ――そう感じさせてくれたライヴだった。