【コラム】日本4勝:韓国5勝。6月の日韓サッカーシーンから見る、日本にとっての「最大の脅威」
6月は何かと国際イベントが重なる時期になった。
例年、ヨーロッパのシーズン(チャンピオンズリーグ決勝)が終わる月なのだが、昨年は視線がロシアワールドカップに集中した。
いっぽう、今年はU-20ワールドカップ、国際Aマッチデー、女子ワールドカップ、コパ・アメリカ(日本のみが参加)、そしてアジアチャンピオンズリーグが行われた。もう、夏前にバテてしまうのではと思うほど盛りだくさんだった。
そんな6月の日韓のサッカーシーンを眺めながら、あれこれと思うところがあった。まずは両国の結果の整理を。
■U-20ワールドカップ 5月23日~6月15日
日本 ベスト16
1-1エクアドル
3-0メキシコ
0-0イタリア
0-1韓国
韓国 準優勝
0-1 ポルトガル
1-0南アフリカ
2-1アルゼンチン
1-0日本
3-3セネガル
1-0エクアドル
1-3ウクライナ
■国際Aマッチデー 6月5日と6日、9日と10日
日本 1勝1分
0-0トリニダード・トバゴ
2-0エルサルバドル
韓国 1勝1分
1-0オーストラリア
1-1イラン
■女子ワールドカップ 6月7日~7月7日
日本 ベスト16
0-0アルゼンチン
2-0スコットランド
2-0イングランド
1-2オランダ
韓国 グループリーグ敗退
0-4フランス
0-2ナイジェリア
1-2ノルウェー
■コパアメリカ 6月14~7月7日
日本 グループリーグ敗退
0-4チリ
1-1ウルグアイ
1-1エクアドル
韓国 参加せず
■アジアチャンピオンズリーグ ラウンド16 6月18日~26日
日本 2チームがベスト8へ
韓国 全チーム敗退
月間通算
日本:13試合4勝5分4敗
韓国:12試合5勝2分5敗
※ACLは日本勢対決があったためカウントせず。U-20W杯での韓国のPK勝はドローに計算。
日韓の違いにこそ注目を
全般的に見ると、U-20W杯の躍進と、女子W杯とACLラウンド16で厳しい結果が出た韓国の方が起伏が激しかった。
日本はそれと比べると起伏は小さい。先日の浦和レッズのACL大逆転劇は大いに称賛されるところ。しかし、それ以外は「やや低調」と言わざるをえない。仮に久保建英の話題がなければ、静かで寂しい6月ということになったのではないか。あくまで韓国と比べると、だが。
日韓で大きな違いが出た点が2つある。
ひとつは国際Aマッチデーの活用法だ。日本はコパアメリカ出場があったため、大会に向けて北中米カリブ海地域から2チームが来日し、戦った。
いっぽう韓国は9月からのワールドカップ予選(3次予選)に備え、大胆にアジアの強豪国を呼び、国内で戦った。
ポルトガル人指揮官パウロ・ベントは、6月2日にチャンピオンズリーグ決勝を終えたばかりのソン・フンミン(トッテナム/イングランド)を招集するなど、“ガチ”な感じを作り出した。そしてイランと引き分け、また少しの批判を浴びた。6月8日にU-20W杯準々決勝で大会無敗だったセネガルを劇的なPK戦で退けた、若いチームのように「うまくやれ」と。
もうひとつは、そのU-20W杯での結果だ。決勝進出は韓国で大きなシンドロームを巻き起こした。
韓国には「女子が男子にされたくない話」というたとえ話で、「軍隊の話、サッカーの話、軍隊でサッカーをした話」というものがある。それほどに「サッカーは男だけの話でよく分からないもの」とされるなか、この決勝進出には女性からも大きな反応があった。Apinkのオ・ハヨン、元KARAのハン・スンヨン、元RAINBOWのチョ・ヒョニョンらが自身のSNSに決勝進出に関する投稿を行ったのだ。「ああ、これほどに大きな出来事なのだな」と感じさせるものだった。
余談はさておき、日本からしっかりとこのチームについて注視すべきポイントがある。
直接対決で苦杯を喫したU-20W杯。相手の”構成”に注目を
韓国U-20代表の今回のW杯21人の最終エントリーの所属チームだ。
15人 Kリーグ
4人 欧州クラブ
2人 大学
以前とは大きな違いだ。
例えば日本で今月度々報じられた、20年前のナイジェリアワールドユースの「黄金世代」の頃と比べても大きく違う。あの大会でグループリーグ敗退を喫した韓国は、すべてが高校生・大学生だった。日本の黄金世代が、Jリーグの下部組織出身であったり、高卒でどんどんプロ入りして経験を積むなか、韓国側の焦りは相当なものだった。
当時の韓国といえば、日本でも度々報じられた「4強制度」がはびこっていた。
高校の幾度かの全国大会でベスト4入りせねば、大学に進学してサッカーを続けられない。そのために子どもたちと両親は小学校低学年で「勉強組」か「スポーツ組」のいずれかに進むことを選択する。後者を選択すれば、小学校から授業にろくに出席せず、大会出場や練習を続ける。将来、それが職業となりうる者だけがサッカーを続ける資格がある。ドロップアウトした者へのケアなど考えない。いびつなエリート主義がそこにはあった。
変革がはじまったのは、09年だ。
大韓サッカー協会、政府が主導となり、まずは過酷なトーナメント制の改善に着手した。平日の試合をやめ、週末にリーグ戦を戦う。大会のスローガンをこう定めた。
“Play, Study, Enjoy”
以前に大韓サッカー協会にこのテーマを取材した際、「日本の影響はありますか?」と聞いたが、あくまで「世界の流れに沿うこと」とその目的を話していた。
大韓協会は公式サイトでこう説明を続けている。
「このリーグが始まるまで、小中高のサッカーといえば数十年に渡り散発的なトーナメントの全国大会を行うかたちをとってきた。これにより、繰り返される地方遠征、そして授業の欠席、トーナメント敗退時の試合経験の不足、勝利至上主義などいくつかの問題を露呈してきた」
「平日には勉強し、週末にはリーグを戦う。先進国型のユース育成文化をつくるために、リーグの創設を決定した。実際に選手たちは試合経験はもちろん、技術の向上、居住地近辺での試合開催により保護者の負担減などの効果を得ることができた」
今では”選手も授業に出席”。韓国の改革もまた、成果を見せている
合わせて、Kリーグクラブにはユースチームの所有を義務付けた。とはいえ、これは当座に収益を生み出しにくい部門のため、クラブ経営に影響が出る。
そこで韓国で多く取られた手法が、「名門校サッカー部が地元プロクラブと提携し、チームを運営する」という手法だ。プロチームは指導者をサッカー部に派遣する。インフラは学校のものを使う。例えば、FCソウルは市内のオサン高校を系列校とし、引退したDFキム・ジンギュをコーチとして派遣している、という事例などだ。これにより選手はより通常の高校の授業に出席しやすくなった。韓国サッカーメディアの国内担当記者がいう。
「少なくとも多くのユースチームの選手は、午前中は授業に出席し、午後のトレーニングが送れるようになった。チームによっては、すべての授業に出席するところもあります。(ユースチーム、純然たる高校チーム混在の)リーグ戦が週末にだけ開催されるようになったからこそのことですよ。夏休み中の8月にはKリーグチームだけが参加するトーナメントも行われます。現在、Kリーグでは1部の済州ユナイテッド、2部の水原FC以外はこの形式を取っています。2チームだけは直接ユースチームを運営しているのです」
つまりは、今回の韓国代表のU-20W杯での躍進は、10年来の改革の成果でもあるのだ。改革着手当時は、名門校監督から「韓国らしい闘志が失われていくのではないか」との声も出たが、これを乗り越え、結果に繋げている。
ちなみにこの第一世代が、1991年生まれ(原口元気、酒井高徳と同い年)のFWチ・ドンウォン(アウグスブルグ/ドイツ)だ。Kリーグ全南ドラゴンズのユースチームとして活動する、光陽製鉄工業高で育ち、トップチームでしばしプレーした後ヨーロッパ移籍を果たした。また89年生まれの韓国代表MFキム・ボギョン(現在柏レイソルから蔚山現代にレンタル移籍中)は、ソウル郊外の街クラブ龍仁(ヨンイン)FCで育った。ここでもクラブは地元のシンガル高校と提携し、学べる環境を整備した。そのうえで、同校名義で高校の大会にも出場するなど制度をうまく活用した。
日本は93年のJリーグ誕生と前後して改革を続けていった。韓国もまた09年から改革に取り組み、10年かけて結果に繋げているのだ。
ここからも、強いうえにしっかりとした学校教育を受けた選手が出てきうる。
この点は大いなる脅威だ。
もちろん、若い選手たちがここで結果を出したからといって将来は保障されているわけではないが。
6月の日韓サッカーシーンから日本に、注視すべきポイントがあるとしたらこの「韓国のユース改革の成果」だ。またこちらが上回れるよう、手を打っていかねばならない。そうやって日韓はしのぎを削っていくものだ。