渡辺満里奈 こだわりの30周年記念ベスト盤は「求められてる?聴いてくれる人いる?と最初は不安だった」
26年ぶりに人前で歌い「嬉しくて、懐かしく涙が出そうだった」
9月15日、タワーレコード渋谷店で行われた、小西康陽がソニー・ミュージックの80〜00年代の楽曲の中から“今クラブで回したい”、“7インチのアナログ盤で出して欲しい”という曲を集めたコンピレーションシリーズの第2弾『エース2』の発売記念イベントに、オープニングアクトとして渡辺満里奈が登場。1987年のヒットシングル「マリーナの夏」を歌ったが、渡辺が人前で歌を披露するのはなんと26年ぶりという事で、話題を集めた。本人も感激した様子で「(『エース』に収録されている)「バースデイ・ボーイ」じゃなくて、「マリーナの夏」を歌っちゃいました。こんなふうに皆さんに応援してもらいながら、今日は聴いてもらえると思っていなかったので、もう感激です。嬉しくて、懐かしくて涙が出そうになりました。とても良い雰囲気で、同世代のファンの方たちも来て下さって、すごく楽しかったです」と話していた。
渡辺は昨年ソロデビュー30周年を迎え、9月20日に自身がセレクトしたベストアルバム『MY FAVOURITE POP』をリリースした。「本当にいい曲をたくさん書いていただいた」と語る楽曲達とこのタイミングで向き合い、改めて感じた事を聞かせてもらった。
「『MY FAVOURITE POP』を作るにあたって本当に求められているのか、聴いてくれる人がいるのか、不安だった」
「もうオリジナルアルバムを20年以上出していないのに、自分で選曲をするということは、自分の責任でもあるし、それっていいのかなあ、本当に求められているのかなとか、聴いてくれる人はいるのかなとか、不安はたくさんありました。でもこうして完成したものを見ると、照れる部分もあるけど、嬉しいという気持ちの方が大きいです。こうやって取材を受けさせてもらったり、この前のようにイベントをやったりして、反響を聞いたり、感じると、やってよかったな、できてよかったなと思います」。26年ぶりに人前で歌った数日後、『MY FAVORITE POP』を手にして、素直にそう語ってくれた。さらに「30年経つと、やっぱりイメージがあまりにも違っているから、それはいいのかとか、中身は懐かしい曲だけど、今の自分を残しておきたいというか、見てほしいという気持ちもあるし、複雑というか不安はありました。でも想像以上に、自分が思った以上にいいものに仕上がったので嬉しかったです」と、最初は複雑な想いを抱え、今回のベストアルバム作りと向き合った事も教えてくれた。
錚々たるアーティスト達が手がけた良質なポップソングは、当時のアイドルソングとは一線を画すクオリティの高さ
そんな素直で、真っ直ぐな渡辺満里奈だからこそ生まれた楽曲達が詰まっているのが、『MY~』だともいえる。渡辺は1986年10月シングル「深呼吸して」で、おニャン子クラブからソロデビューした。作詞秋元康、作曲山本はるきち、編曲新川博という作家陣が彼女に提供したのは、80年代のアイドルソングの体をした、どこか“シティポップス”の薫りがする曲だった。以後も山川恵津子、岸正之、上田知華、外間隆史、大江千里、鈴木祥子、佐野元春、小沢健二など、当時音楽シーンで注目を集めていたアーティストが、彼女のために楽曲を提供し、おニャン子クラブからソロデビューした他のメンバーはもとより、他のアイドルとも一線を画す、センスが迸る好楽曲が集まった。
もちろん、EPICソニー(当時)というTM NETWORK、バービーボーイズ、佐野元春、大沢誉志幸、小比類巻かほるなどを擁する、新しい時代を切り拓こうという、先鋭的なセンスを持つスタッフが多く集まる、ヒットファクトリーからデビューできた事も大きい。ジャケットひとつとってもスタイリッシュで、他のアイドルとは明らかに違っていた。87年1月に発売した2ndシングル「ホワイトラビットからのメッセージ」(作詞秋元康/作・編曲山川恵津子)では、“カレッジポップ”という、渡辺満里奈の音楽の世界観の軸になるキーワードを提示している。
自由なプロジェクトで作り上げられた、渡辺満里奈の世界観
渡辺は当時から色々な音楽を聴き、気になったアーティストがいるとすぐにスタッフに話をし、自分の音楽に取り入れられるものは積極的に取り入れていった。大滝詠一、遊佐未森、大江千里、鈴木祥子、エルボウ・ボーンズ&ザ・ラケッティアーズ、オリジナル・サヴァンナ・バンド…邦洋問わずあらゆる音楽を吸収していた。「事務所とレコード会社のスタッフが私の音楽の好みを面白がってくれて、自由度が高かったというか、それはすごく大きかったと思います。スタッフが考えてくださった渡辺満里奈の世界観と、私が当時好きだった音楽、世界観とが本当にいい感じでマッチしてできあがった、“渡辺満里奈の音楽”だっという事を感じました」と、いいもの、面白いものは、どんどん取り入れていく自由度が高いプロジェクトの中で活動できた事に、改めて感謝していた。
ファンからの要望が高いライヴは「ずっと歌っていなかったし、覚悟を決めるまでに時間がかかりそう。33周年あたりで(笑)」
『MY~』には膨大な数の楽曲の中から選んだ、渡辺の思い入れが特に強い30曲が収録され、1曲1曲にまつわるエピソードが綴られたセルフライナーが付いている。もちろんイベントでも披露した、「3rdシングルなのにデビュー曲だと思われている」(渡辺)「マリーナの夏」も収録されている。“26年ぶりのステージ”に向け、練習を積んでいたのだろうか?「家で誰もいない時や、車を運転しながら一人で歌っていました(笑)。実はあの日の朝、友達に付き合ってもらってカラオケに行って練習しました。まずは他の曲で喉慣らししようといって、八神純子さんの「パープル タウン」を歌って、それから「マリーナの夏」を歌って、歌い終わったとたん学校から“息子さんが熱を出したので迎えに来てください“と連絡があって、慌てて向かいました(笑)。危うくただカラオケで八神純子さんの歌を楽しんで歌っただけになるところでした(笑)」と、裏話で笑わせてくれた。そして「やっぱり歌う事は中毒性がある」とも語ってくれ、今回の事を機に、ファンからの要望も多いライヴをやりたいという想いは強くなったのだろうか?「やってもいいかなと思いますけど、でもアルバムを出す以上に責任がのしかかってくる感じで(笑)、不安が大きくなると躊躇してしまうというか、30周年だからやっちゃおう!という感じにはならないですね。ずっと歌っていなかったし、ある程度覚悟がないとできないですし、覚悟を決めるのにすごく時間がかかりそうな気がします。歌っているところを想像するのは楽しいんですけどね。歌う事が気持ちがいいのは知っているのに、一歩が踏み出せない自分がいるというのが、正直なところです」と、もう一度ライヴをというファンの声が高まっている中で、今の胸の内を素直に打ち明けてくれた。しかし最後に「じゃあ33周年で(笑)。オリンピックのほとぼりが冷めた頃に(笑)」と、少しの期待を感じさせてくれる言葉を残してくれた。