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自社商品動画に広告はノーサンキュー

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 自社商品宣伝動画に他社、しかも競合相手の広告が流れたら?(画像はイメージ)

スマートフォンの普及や動画配信技術の向上に伴い、動画共有サイトを用いて自社商品の紹介や利用方法・注意事項などの解説を、映像で説明する事例が増えている。文字よりも写真、写真よりも映像の方が視覚に直接訴えかけられるし、受け手側の理解も得やすい。貼りこみタグを用いれば、自社のサイトに直接映像資料として用いることもできる。

昨今ではこれまでなら想像もできなかったような硬派な大手企業、さらには官公庁も専用のアカウント・チャンネルを取得し、映像でプロモーションを展開している。「日本海呼称問題で外務省、解説動画「世界が名付けた日本海」を公開」にもあるように、外務省も対外広報活動の一環として、解説動画を複数言語で展開するほど。もっともこの動きは海外で先行している流れの後追いに近く、何ら不思議なことではない。広報手段が増えただけの話でしかない。

自社商品の紹介用動画は、その商品の認知度を高め、商品そのものへの興味関心を抱いてもらうのがその存在理由。写真や文章では分からないギミック、効果音、スピード感などを見聞きしてもらい、商品購入へのステップを踏んでもらう。いわば能動型のテレビCMのようなものだ。

その紹介用動画そのものからの収益を期待するのは二の次、三の次。ましてやそれで主目的の商品告知がおざなりになったのでは本末転倒でしかない。しかしながら最近は、自社商品紹介用の動画にも広告をしっかりと載せてくる企業が増えてきた。

大手企業でも自社商品の宣伝用動画に第三者の広告を入れる事例は多い。上のものはスクウェア・エニックスの「シアトリズム ファイナルファンタジー カーテンコール」プロモーション映像。当方が今件を書き記すことになった直接のきっかけの映像である。

「手放しでも自社商品は知名度が高い人気もあるので、アクセス数は増える。ならば広告を載せればさらに儲けられるのでは無いだろうか」といった発想があるのだろう。発想的には「空時間を利用して小遣い稼ぎ」のようなものだ。

そして広報宣伝による「周知広告効果」よりも直接的な「掲載広告による収益効果」が数字として換算できるのであれば、担当部局でも社内アピールにつながるのかもしれない。「100万ページビューを記録し、この商品の公知効果を高めました」よりも「10万ページビューで商品公知は出来ましたし、その動画に広告を貼りつけて1万円の広告収入まで得られました」との直接的な数字上の効果を出した方が、都合が良い部分もあるのだろう。

しかしながら企業商品の広報宣伝用の動画にまで広告が入ると、視聴者の立場では興ざめしてしまうのも否定できない。先の例えなら、テレビCM内に、その対象商品とは別のCMが入ってしまうようなものである。そして動画上の広告は多分に動画内容と合致した、関連性のある広告が出る仕組みとなっていることから、少なからぬ場面で同業他社のサービスや商品の広告が表示されてしまう。例えばハンバーガーショップAの動画が再生されている時に、ライバルのハンバーガーショップBの広告が出るという次第である。

もっとひどい事例になると、連想キーワードで関連付け、まったく逆のアピールをする広告が出てしまい、動画そのものと掲載広告双方にマイナスイメージを与える事例もある。ペットフードの宣伝動画に「ペットには自然食を与えましょう」との広告が流れたり、外食チェーン店の新メニュー紹介動画に「外食を止めて宅配メニューで節約志向」というコピーの宅配サービスの広告が配信されるようなものだ。まさに「奇跡か偶然かそれとも不運か・不幸な場所に置かれた広告たち」のような、笑うに笑えない事態が発生しうる。

動画を観ている人たちはどのような感想を抱くだろうか。自社商品に興味がある人に向けた広報素材の中で、ライバル社の商品までアピールすることに違和感は覚えないのだろうか。

最終的には動画を広報宣伝素材として制作・配信する各企業の戦略によるところが大きいため、各動画に広告を載せるか否かの判断は、各社の思惑に従うしかない。しかしながら動画を通じて新商品やサービスを知る立場からすれば、まさに「蛇足」でしかないように思えるのだが。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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